34話:2章 チートが拡散してしまいました
翌日、ワイバーンの解体の為に、再び山頂まで登る羽目になりました。正直、足が筋肉痛でヤバイです。
町の人たちは、昨日のうちにシパクナの葉を回収しまくっていて、今日は薬に加工するので忙しいでしょう。
人目につかないという点では、今日が一番いいかもしれません。
ワイバーンを退治したのはフォレストベア一行と、流れの魔術師ということにしておきました。
討伐者の主軸となる部分をフォレストベアに代行して貰い、もちろん彼らだけでは討伐不可能なので、匿名の援助者として流れの魔術師を設定したのです。
こうすることで注目はベア一行に集まり、わたしたちはゆっくり旅を続けることが出来るというモノなのです。
若干数名、昨日の段階で真実を知ってしまった宿泊客がいますが、それも少数。大多数の噂の物量の前には、あっさりと吹き消されてしまうでしょう。
「しっかし、いいのかねぇ? 俺らが退治したことにしちゃって」
「気にしないでください。わたしたちの安寧のための生贄ですから」
「生贄って……」
「まあ、ユーリ姉にとっては、人目は凶器と同意だからね。代理になってくれれば、俺たちにしても助かるよ」
解体は力作業になるので、ジャック、ケール、アレクの三人と、現地を案内できるわたしで来ています。
ああ、そうそう、もう一人。わたしの頭に乗っかってるワイバーンの子供もですね。
残念ながら、突然産まれて来たので、名前はまだ考えていません。どうせならカッコイイ名前を付けてあげたいので、熟考中なのです。
「アレク、疲れたので背負ってくれませんか?」
「なに言ってんの、自分で歩きなよ、自分で」
「なんだったら俺が背負ってやろうか?」
「さすがケールさんは男前です」
「嬢ちゃんの体重なら、大したことないからな」
「ケール、あんまり体力使うと帰りがキツくなるぜ?」
「大丈夫、いつも着てる鎧より軽いくらいさ」
大量に運ぶことになると思われるので、三人は背負子を担いできています。
わたしはそこに腰掛けるように座りました。考えて見れば、師匠が運んでいた荷物より、わたしの方が軽いんですよね。
「こんなに軽いのにワイバーンが倒せるってんだから、魔術ってのはスゲェんだなぁ」
「ユーリ姉は例外だよ。伊達に師匠の弟子じゃないって」
「なあ、ユーリ。俺も魔術使える様になるかなぁ?」
ケールさんの感嘆に、ジャックさんが調子よく合わせて来ます。つーか、呼び捨てですか?
まあ、ガキ呼ばわりよりは良いですけど。
「そればかりは時間を掛けて素質を調べないとわかりません。魔力を感知できるかどうかが、才能の境目です」
「俺、ちょっと感知出来たんだぜ」
自慢げな表情のアレク。あなたの感知力は最低限だったでしょう?
魔術だって未だに光矢と光球と温い熱球しか使えないじゃないですか。
「さすがアレクのアニキ! 魔術まで完璧っすか!」
「んなわけ無いでしょう。アレクの魔術は余技の枠を出ませんよ」
「う、まぁね……剣も魔術もって話だと、やはり師匠が頭一つ抜けてるよなぁ」
「師匠は完璧超人ですからね」
「嬢ちゃんは剣は使えないのかい?」
「わたしは魔術オンリーですよ? 弓はそこそこ使えますが、剣は身体能力任せで叩きつけるしか出来ません」
武術と言うのは、やはり長時間の反復練習がモノを言います。
わたしが武器を扱うには身体強化を使わざるを得ないので、その修練時間が圧倒的に不足しているのです。
「へぇ、なんだったら俺が教えてやろうか?」
「やめておいた方がいいよー。ユーリ姉の身体能力任せは、人間の限界速度超えてくるから」
「なにそれ、こわい」
ジャックがなにやら、わたしの師匠の座を狙ってきましたが、アレクによってあっさり撃退されました。
大体、あなたたちもそれほど腕が立つわけではないでしょうに。
無駄話をしてる間に、洞窟の前に着ました。
元々大きな山では無いので、それ程時間は掛かりません。
「うわ、なにこれ……ユーリ姉よく生きてたね」
「スッゲェ! 地面がキラキラしてるぜ」
「ガラス化するほどの高温かよ。シャレになんねえな」
洞窟前のブレス跡を見て、三者三様の感嘆の声が漏れてます。
さらにその周辺は矢でブレスを吹き散らした時に出来た、黒いコゲ跡も散見出来ます。
よく無事だったなぁ、わたし。
「ワイバーンの遺体はそこの壁の奥です。今封印解くので、少し離れててください?」
「お、おう」
壁に施した頑強を解き、風弾を叩きつけて壁を壊すと、奥に洞窟が現れました。
この奥にワイバーンを運び込み、氷結しておいたんですが。
「アレク、この子を頼みます。大人しくしてるんですよ?」
「ミギャ!」
「なんで? 連れていきゃいいじゃん」
「ジャックさん、この奥にあるのはこの子の親ですよ? そんなの、見せるわけにはいきません」
「あー、そっか……わりぃ」
彼も、なんだかんだで間違いを認める様にはなってきてます。人間性が成長してるんですね、多分。
洞窟に入り氷結を解除。再び生々しくなった死骸を確認してからアレクたちの元に戻りました。
「アレク、あとはよろしく」
「へーい、了解」
そういって光明の魔術を刻んだ石コロを渡します。『照明石』と命名しましょうか。
アレクはわたしの頭にワイバーンを乗せ、ゾロゾロと連れ立って中に入っていきます。
サイズがサイズですから、しばらくは暇になりますねぇ。
「さて、キミの名前どうしよっか?」
頭の上のワイバーンの鼻先をツンツン突いて、候補を挙げて反応を見ましょう。
「モモ」
「ミギャ!」
「テバサキ」
「アギャ?」
「ポンジリ」
「ムギュ~」
「ネギマ」
「ユーリ姉、なにしてんだ?」
解体が終わったのか、アレクが外に出てきました。うわ、血みどろですね。
「この子の名前を考えてあげていたんです。なかなか良い反応が返ってこないのです」
「うん、ユーリ姉のネーミングセンスが悪いというのは、よくわかった」
「うっさいですよ。中の様子はどうですか?」
「とてもじゃないけど、硬くて刃が通らない。解体するならもっと良い刃物持ってこないと」
「何回かに分けて、回収に来ないとダメですかねぇ?」
少しでいいので、肉は持って帰りたいですね。ドラゴンステーキとか一度は食べてみたいのです。
もっとも本当のドラゴンはアヤシイ力の集合体でもあるので、口にした瞬間に体内でその力が暴れ回り、これまた怪しい変化を起こすと聞いたことがあります。
ワイバーンなら口にできるギリギリのラインというところでしょうか。
「とりあえず傷口は氷結してくれ。血がダクダク出てくんだよ、あれ」
「ジャックさん。人使い荒いですね? それと竜種は血にも魔力を秘めているらしいので、できれば水袋とかに詰めておいてください」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
「減りますよ! 現在進行形で減ってますよ!?」
結局、持って来たナイフが刃毀れで使いものになら無くなったので、出直すことになりました。
いっそ、念力を使って死骸ごと街まで運んだ方がいいでしょうか。
「……死骸ごと持ち帰って、町で解体すれば良かったですかね?」
「うーん、それだと一気に見世物になっちまうからな」
「どうせ後数日は身動き取れねえんだ。何回も足運べばいいじゃねぇか」
「わたしにはその体力が無いんですよ」
「ケールが運ぶだろ?」
「お前が運べよ!?」
ジャックとケールは相変わらずじゃれあってます。体力有り余ってるんですかね?
肉以外の物はわたしが加工に使いたいので、できれば売りたくないですね。盗賊退治で収入がありましたし、これは大型の馬車を一台調達しますか。
すると馬車三台のキャラバンになってしまいますが……まぁ、いいかな。
「帰ったらエルリクさんに、馬車を増やす許可貰わないといけませんね」
「ユーリ姉、これ持って帰るつもり?」
「こんな良い素材、見捨てるわけ無いじゃないですか! アレクやケールさんにも武器作って上げますよ」
「マジか!」
「俺もか!?」
「ジャックさんは除外で」
「そんなぁ」
歓喜するケールさんと、マジ泣きの表情のジャックさん。
冗談ですよ、いい大人が泣かないでください。
「それは冗談として。それもやるとなると、加工場も欲しいですね。何処か借りれないでしょうか」
「あぁ、ユーリ姉が魔道具オタクの顔になってる」
「師匠の教育の賜物ですね」
「褒めてねーよ!?」
とにかく、加工場に関しては帰ってからの話になりますし、ここは一旦町に戻るとしましょう。
というわけで、なんとか切り出せた肉とか鱗を積み始めたのですが、ここで妙なことに気付きました。
アレクはもちろん、ジャックさんやケールさんまで、持てる荷物の量が増えてる気がしたのです。
「んぅ? ケールさん、まだ行けますか?」
「おう、まだまだ背負えるな」
「もう、百キロくらい積み上げてるんですけどね」
これは……筋力や耐久力が大幅に上昇してる?
まさかワイバーンの血を浴びたせいでしょうか。
「おかしいですね、ただのワイバーンの血に、こんな効果は無かったはずですが」
「一時的なものじゃねえのか?」
「これは……持ち帰りは一時ストップしましょう。ひょっとすると、危険なシロモノかもしれません」
持ち帰って肉屋に売ったり、町中焼肉パーティとか目論んでいたのですが……町人全員超人化したりしたら、大騒動になってしまいます。
文献知識しかないわたしより、オリアスさんか、いや師匠が回復するまで待って、見てもらった方がいいです?
あ、そういえばわたし、識別のギフトがありましたね。それで見てみましょう。
とにかく、正体が判明するまで、この死骸は封印しておきましょう。その前に――
「封印する前に、ちょっと血を浴びてきます!」
「ユーリ姉、落ち着け! さっき自分で危険って言ったじゃないか!?」
「貧弱な坊やから脱却するチャンスなんですよ!」
「まあ、このまま放置しておいたら、血は地面に吸われちまうし、早く処理した方がいいのは確かだけどな」
「そうだった、ケールさん偉い!」
ダッシュで洞窟の奥にやってきました……あ、ワイバーン(?)の子はアレクに押し付けておきましたよ?
解体中の肉の下の地面を土壁の魔術で固め、頑強の魔術で補強。これで地面に血を吸われることは無くなりました。
さらに周囲を持ち上げ、プール状にしてから、氷結の魔術を掛けておきました。
「さて、識別の結果は……」
――魔竜ファブニール
古代竜種の血脈を継ぐ伝説の竜。その口から吐き出す炎は神すら殺し、大地を焼き尽くしたという。
「………………ワイバーンじゃねぇし」
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