2章:家族旅行編

21話:2章 福引をしよう

 あれから二年が経過しました。

 色々ありましたよ、イロイロ……


 まずアレクですが、一か月の予定でしたが半年ほど庵に居候した後、出て行きました。

 わたしは『もっと居ていい』と引き止めたのですが、強硬に一人暮らしを主張し、出て行ってしまったのです。わたし、嫌われているのでしょうか?

 自慢じゃないけど、わたし元男なので、とても気が利きますよ?

 夜、森の奥に消えて、賢者モードで帰ってきたアレクに、蒸しタオルを渡してさっぱりして貰うくらい気を使ってます。

 師匠に言ったら『ヤメテアゲテ……』と虚ろな視線で注意されました。


 その後一年、コルヌスの街(西に二週間位行った所)に出て、片腕のハンデを持ちながら、一年で騎士の称号を最年少で取得し、守衛兵としてマレバに戻ってきました。

 なんでも師匠のコネがあった事で優遇され、そのコネを使って師匠を取り込むために派遣されたとか?

 事実上の左遷とか陰口叩かれたようですが、本人は戻って来れて大満足のようです。


 後、背がすっごく伸びました。ナマイキにも。

 体格も良くなって、若手の将来有望な騎士と言うことで、あちこちでモテモテだそうです。マールちゃんのライバルは多いです。

 そのマールちゃんも十歳になって……その……背を追い抜かれました、わたし。

 彼女は、アレクが村に戻ってきた時に、泣きながら抱きついて村中をホノボノとさせたものです。


 師匠はわたしが十五歳になった時に、引退を宣言。

 風の称号も魔道器製作もわたしに譲り、安穏と生活してます。

 わたしは師匠ほどの器用さは無いのですが、姑息なブレイクスルーを発見するのが上手く、今も問題なく魔道器制作を続けています。

 この二年で少し老け込んだのか、少々身体を壊し気味なのが気になる所ですね。

 「孫も出来たし、あとは膝に乗せる猫でも飼うか」と言っていたので、ネコミミ付けて膝に乗ってあげたら、散々撫でくられました。

 師匠もわたしも満足したので結果オーライです。ちょっとイケナイ方向で気持ちよかったのはナイショ。

 それを見たグスターさんが死んだ魚のような目で村に帰り、後に『猫耳肉奴隷系賢者』と言う呼び名が村で広がっていました。あの野郎!


 わたしも変わりましたよ?

 まず十五歳になりました、これは大きいです。なぜなら、十五歳はこの世界では成人なのです!

 お酒が飲めるようになりました! コップ半分で潰れました……この身体弱すぎです。

 結婚できるようになりました。師匠とアレク以外は未だに触れません……喋るのは普通にできるようになったのですが。

 あれ、あまり変わらない気がしてきました?


 師匠の称号を受けて、ユーリと言う名前の世間的イメージは『交易都市リリスの生き残り』から、『風の賢者の弟子』へ変化しました。

 師匠はこれを狙っていたのでしょうか?

 わたしの能力としては、魔術の制御力も格段に上がり、空を飛ぶことも出来るようになりましたし、身体強化の使い難さもそれなりにブレイクスルーを発見し……なんとかやっています。

 道具に陣を刻むのは未だに苦手ですが、橋でやったように魔術で焼き付ける方法で、『抵抗の指輪』を量産しています。

 お手軽魔道武器は流通させてません。師匠と協議した結果、やはり危険なシロモノと判断しました。

 後、身体は相変わらず貧弱なままです。死ぬ時って大体魔法の失敗なので、魔術の神才解除してない場合が多いのです。

 おかげで魔力と精神力が1851まで伸びてます。もはや誤差の範囲。




 そんな訳で今日もマレバでお買い物です。

 晩御飯の献立を考えながら市場を歩いていると、気分はまるで若奥様のようですね。えへへへ。


「と言うわけで、そこのお肉屋さん。そのイノシシください」

「誰が肉屋だよ! それに、これは狩って来たばっかだから、まだ売り物じゃねぇし!」

「お肉屋さんと契約してるから、それはちょっと困るなー」


 害獣狩りから帰ってきたアレクとカイムさんを、軽くからかっておきます。 

 いや、お肉は本当に欲しいんですけどね。


「むぅ、何時頃店に並びますかね?」

「そうだね、売って血抜きして捌いてだから……早くても明日になるんじゃないかな?」

「さすがにそこまで待てません。残念ですが今回は見逃してあげましょう」

「ユーリ姉、無茶言い過ぎ。なんで見逃してもらわないといけないんだ?」

「師匠の栄養の為です」


 とはいえ、タンパク質は欲しいですね。豚肉は長寿の秘訣と言う話もありましたし。

 ビタミンとか豊富で、豚肉をよく食べる老人は寿命が長いと聞きました。


「仕方ないですね。イノシシは諦めて豚肉にしましょう。アレクも後で食べに来るといいです」

「簡単に言ってくれるけど、気安く行き来できる距離じゃないんだけど?」

「師匠も会いたがっているので、たまには顔を出しやがれです」

「う……わかったよ。じゃあそのうち食べに行くから」

「今晩来なさい、今晩」


 いかにも渋々と言う感でうなずくアレク。姉の手料理が嬉しいくせに……素直じゃありませんね。


「ところでカイムさんはなぜ溜息を吐いてるですか?」

「いや、これはしばらくマールちゃんの機嫌が悪くなりそうだなぁ、と」

「あー、最近あの子の視線が『恩人のお姉ちゃん』から、『好敵手』に変わりつつあるとは感じてたんですよ」

「確かにマールとユーリ姉だと、運動能力はいい勝負だよな」

「……このクサレ鈍感系め」


 まさか鈍感系主人公をこの目に見るとは思いませんでした。

 このままでは攻略対象にされそうなので、股間に真空飛び膝蹴り入れて早々に退散しましょう。


 ――ドス。


「ふぐぉ!?」


 尺取り虫のようなポーズで地に沈むアレク。マールちゃんも報われませんねぇ。



「と言うわけでやってきました八百屋さんです。新鮮さをアピールする土がわざとらしいですね」

「イヤな客か! 帰れ!?」


 八百屋のおっちゃんは、着いた早々大歓迎です。


「主人、ここらで栽培してない野菜まで土が付いてるのは、さすがにダメですよ?」

「専門の業者に土と一緒に輸送してもらってるんだよ。その方が長持ちするから」

「おお、頭いいです」

「だろー?」

「ま、わたしなら冷凍して、もっと長持ちさせますが」

「チクショウ! 嫌がらせか!?」


 沸点の低い八百屋の主人を、少し馴れ馴れしくからかってみたり。

 まあ、品が悪ければ、元から来ないんですけどね。わたし、サイレントクレーマーな日本人ですから。


「こうして競争相手がドン引きした隙に、このジャガイモとニンジンください。後タマネギも」

「ユーリちゃん、頼むから普通に買ってくれよ」

「人混みに混ざるの苦手なんですよ」


 バーゲンセールとかはこの世界無いですけど、あったら絶対突撃できませんね、わたしは。

 ポトフでも作ろうかと思っていましたが、カレーが懐かしいですね。

 この世界にはカレー粉は無いのでしょうか?


「ご主人、カレーって料理知っています?」

「かれー? 聞いた事ないな。どこの料理だい」

「多分南方の……きっと香辛料たくさん使った料理です」

「香辛料たくさんか。そりゃ豪勢な料理だなぁ」

「この辺ではあまり見ませんしねぇ。胡椒とかも高いし」


 どこかの地方には存在するんでしょうかね?

 クミンやウコン、ターメリック等があれば、自作で研究するのも面白そうです。


「そういえばユーリちゃん、これ。今、通いの商人さんが福引やってるんだよ」

「福引ですか?」

「そ、いつも大量に買いこんで行ってくれるからね。サービスだよ」

「根菜類の栽培が苦手なだけなんですけどねー。ネギとかは自作してるんですけど」


 庵の家庭菜園(?)には他にもトマトとナスを植えてます。

 まあ、運試しにやってみますか。異世界転生引き当てた剛運を見せてやります。



 そんな訳で福引会場です。

 なんとガラガラ抽選。この世界にそんなのあったんですねぇ。開催者は野菜を運んできた商人さん、この村のことは詳しくなさそうです。

 わたしのこと、知らないようですし?


「あの後豚肉も買って、福引券は二回分。幸運度のパラメータがあれば、身体強化でチートしてやるモノを」

「なんだかわからないけど、お嬢ちゃん、やめて」

「まー、あってもやりませんけどね。ところで、なんです、その一等商品は?」

「お、こいつに目を付けたのかい? お嬢ちゃん目利きだね!」

「……いや」

「コイツは冒険者の間では名高い『抵抗の指輪(強)』! なんと金貨百二十枚で取引してるシロモノさ!」


 知ってますよ! 三日前にわたしが作ったやつですよ!

 ああ、これで一等当てた日には、師匠とアレクになんて言ってからかわれるか……

 となると、狙いは二等の……あれ?


「その……二等……」

「なんだ、こっちが狙いだったのかい。判るよ? 今都で話題の騎士様の絵姿(サイン入り)だからね! 最年少の騎士アレクの肖像、人気絵師のヴェパル先生の作さ!」

「なにが悲しゅーて……」

「コルヌスの街じゃ流行りの品ってんで金貨十枚で取引されてる、期待の売れ筋ですよ!」


 アレクの絵姿とか要りませんよ!?

 となると……三等はフォルネリウス聖樹国の有名旅館の宿泊券。四等は小麦一年分。五等が調味料各種。六等がハズレ枠で薬草一束。

 薬草一束でも結構奮発してますね。あれ、銀貨一枚しますよ?


「まーいいです。狙いは四等か五等ですね。三等は……ちょっと場所が遠いし」

「はいはい、二回分ね! それじゃ幸運を!」

「よし、いきます!」


 ――ガラガラ、ガラガラ……コツン、コロン。


「お、おおぉぉぉ!?」


 そうして、当選祝福の鐘が、二回鳴らされました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る