19話:1章 チート覚醒
わたしはアレクの後を慌てて追おうとして……また庵に戻りました。どうせなら武器を届けてあげればいいんです!
自室に飛び込み、センチネルを引っ張り出す。
帰って来た師匠が心配しないように、書き置きを残しておきましょう。
アレクが山の中腹に不審な光を見たと言って、飛び出してしまいました。探してきます。ユーリ。
これでお説教はアレクだけになるはずです、完璧!
次に、火事にならないように火元を消して、泥棒が入らないように、窓や玄関を土壁の魔術で塞ぐ。
これだけの作業に五分近く費やしてしまいました。
さすがにこれ以上出遅れるのはマズイですね。急いで後を追うとしましょう。
◇◆◇◆◇
森の中を慎重に進む。そろそろ、明かりの見えた場所に着くはずだ。
ユーリ姉は、乗り気じゃなかったみたいだけど、小さな女の子が野盗に捕まってるなんて聞いて、じっとしていられるはずないじゃないか。
――微かに人の声が聞こえてくる。近いな。
姿勢を下げ、足音を殺してその場所に近付いていく。
山の切り立った崖の中腹、元は獣の巣だったと思しき洞窟。
その前の少し開けた場所で、焚き火を囲む数人の男たちが見えた。
「おめえ、あんなガキ連れて帰ってどうするつもりだ?」
「こいつロリコンかよ! ぐひゃひゃひゃ」
「ウルセェ! 奴隷に売りゃ、ちょっとは儲けになんだろ!」
「その場で殺っちまやよかったんだよ!」
「違げぇねぇ! その方が面倒がねーわな」
酒盃を呷りながら、さも豪快そうに吹聴する男。
危ない。師匠の言うほど思慮深い奴らじゃなかったみたい。存在がバレるとか、そういう心配を全くしていない。なんにせよ、彼女はまだ無事みたいだ。
人数は……意外に多いな、見える範囲で十三人。
でも、村を攻めるなら、もう少し居るんじゃ?
「くっそ、酒の肴がねぇな……ガキいたぶって憂さでも晴らすか」
「オイオイ、値が下がんだろぉ?」
「大して変わんねぇよ、あんなガキ!」
一人が酔った足取りで洞窟へ向かう。その様子からは理性の欠片も見受けられない。
ユーリ姉が追いついてくれるとか、師匠を待つとか、そんな余裕なさそうだった。
くそ、不意を突いて一人か二人、後は何とか粘るしか。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
僕は覚悟を決めて剣を抜き、気合を入れるために叫びながら突撃した。
◇◆◇◆◇
「チッ、なんだこのガキは……いきなり斬りかかってきやがって!」
村のガキか? とにかく先手を取られて、懐に入られたせいで、崖の上の弓手共が狙えねぇ。
見張りに置いておいたのに、なにサボってやがるんだ。
まあ、多少は鍛えてるようだが、しょせんは子供。俺らの敵じゃねぇな。
「いでぇ! イデェよ、カシラぁ!」
「アホが! ガキにやられてんじゃねぇよ!」
……最初に斬られたボケは例外だ、クソが。
「バカみてぇに酒飲みまくってっから避けられねえんだよ!」
「クソガキが……てめぇ、生きて帰れると思うなよ?」
「んだ、テメェ! ダルマにすっぞ、オラァ!」
威勢よく部下共がガキを取り囲む。ガキも守勢に回って凌いじゃいるが、時間の問題だ。
腕の差もあるが、何よりたった一人じゃ何もできやしない。
「くっそ、お前ら……うわっ!? もう師匠がこの、場所っ、見つけたから……さっさと逃げないとタダじゃ済まないぞ!」
「ああ? そりゃ怖えぇな! で、いつ来んだよ、その師匠とやらは?」
「つまんねー脅しかけてんじゃねーぞ! んなもんで俺らが退くかよ!」
必死に躱しちゃ居るが……あ、口先で追い払おうってか? そんな脅しに乗るかよ。
どうせ村のガキが、英雄気取りで山に入って、偶然ここ見つけたんだろうが。
こうなったら生かして帰すわけにはいかねぇ。
「そのガキは殺せ。生かして売ろうとか思うなよ?」
「当然でさぁ!」
「ヒヒ、殺っちゃうぜぇ、殺っちゃうぜぇぇ!」
じわり、と包囲を狭める。ガキが逃げようとすれば、後ろからバッサリな距離だ。
終わったな――そう思った時、森の中から声が響いた。
「アレク、その剣を取りなさい!」
声と同時に……巨大な剣が飛んできた。
◇◆◇◆◇
マズイ、逃げられない。完全に包囲され、逃げ場もなくなって諦めかけたその時――足元に巨大な剣が突き立った。
「その剣を取りなさい!」
考える余裕なんか無かった。とにかく反射的に剣の柄に手をかける。
巨大過ぎる剣に、『持てるのか?』と疑問が沸く暇もない。生き延びるにはこれしかない、その時はそう確信していた。
――カチリ、と身体の中でなにかが嵌った様な感触。
今までの足運びが、体捌きが、剣の握り方すら間違っていたと、本能的に悟る。
巨大な剣の突然の登場に、呆気に取られた盗賊どもの、その隙に……手に取った剛剣を叩きつけた。
ボンッと、拍子の抜けるような音と共に、その盗賊の上半身が吹き飛ぶ。
これが軽量化の効果? 片手でも軽々と振り回せる重さに驚愕が浮かぶ。
軽くなっても質量が消える訳じゃない。振った後は威力を逃がさないと、こちらが振り回される。
慣れない剣に体勢が崩れたその瞬間を隙と捉えたのか、盗賊どもが飛びかかってくる。
「野郎、よくも!」
「っざけんな、オラァ!」
立ち直ったのは二人。センチネルの勢いを逃がした動きをそのまま活かし、身体を回転させ、横に薙ぎ払う。
圧倒的な間合いの差で、こちらの刃が先に届いた。二人纏めて真っ二つに薙ぎ払うセンチネル。
あまりにあり得ない、突拍子もない光景……
ようやく十を幾つか越えたばかりの少年が、身の丈を遥かに超える大剣を振り回す、非現実的な光景に、盗賊達がたじろいだ。
「っか野郎! なにボーっとしてやがる! デカイ武器にビビってんじゃねぇぞ!」
後ろの首領らしき男が、吠える。このままだと部下が逃げ出す……その気配を感じ取ったのだろうか?
「デケェ武器は隙が大きい、懐に潜り込め! 槍を相手にしてると思え!」
「お、おぅ!」
槍との戦いを経験してるのか、さらに三人が踏み込んでくる。
だが、剣と槍は大きく違う。ましてや、このセンチネルは軽量化で片手剣並の重量しかない。
本来ではあり得ないほどの剣速と軌道。防御の隙間に滑り込む複雑怪奇な剣閃。
素人に毛が生えた程度の盗賊では、あしらい切れない。
瞬く間に、三人は斬り伏せられた。
……凄い、この剣持つだけでここまで違うとは思わなかった。これがギフトの能力か。
なんか、背後の森の中から嘔吐するような、嗚咽が聞こえるのはきっと気のせい?
残り六人を牽制するように視線を走らせると、首領らしき男が手を振り下ろす姿が見えた。
なにを――と、思う間もなく、矢の雨が降り注ぐ!?
「う、わぁ!?」
咄嗟にセンチネルを盾に使ったけど、右肩に一本受けてしまった。
矢は右肩を貫き……かなり深い。
「いっつぅ!」
ずるり、と柄から手が離れる。俺は片手しかないから、この傷はヤバイ!
俺に向かって降り注ぐ矢。左右から飛びかかる残り五人。
「っこの!」
左腕を使ってセンチネルを引き倒し、その下敷きになって矢を躱す。
でも、ここまで……か? その時――
◇◆◇◆◇
「うっげぇぇぇ」
いや、確かに人を殺すかもとは思っていましたが……あそこまでグロイとは思いませんでした。
ミンチより酷いよ、アレク!
センチネルの直撃を受けたら、まさに挽肉。刃先が掠るだけでも手足が飛ぶほどの威力。
ギフト持ちって、適性合う武器使うと凄いんですね。
半数を一気に打ち倒した様子を見て、安心したのでしょう。ちょっと耐え切れませんでした。
脇の草木に栄養を与えていると、アレクに矢が撃ち込まれてました。
右肩に攻撃を受け、センチネルの下敷きになるアレク……
それを見たわたしの脳で、プチン、と頭の中でなにかが切れる感触。
――この雑魚共! わたしの弟分に、なにするんですか!
射手がどこに居るのか判らないので、目の前の空間全てに識別を掛け、敵の居場所を確認。
この行為が予想外の効果を生みました。
敵の動きが……視線の動き、岩や草の配置、空気の流れに至るまで、全てが把握できる。
「ぐぅ、今までアイテムや生物を対象にかけていた識別を、『空間』に掛けると、こうなるんですか……」
突然大量の情報が流れ込んで、脳が悲鳴を上げてます――が、知った事か!
軋みを上げる頭痛は状況適応のギフトで耐える。
自分の魔力領域の空きまで正確に把握できるほど、知覚が広がります。
この間屋根を吹き飛ばした熱線を二つ起動しつつ、熱球を五つ並列で起動。
本来、魔術師は一つの魔術を複数発動させる事はできるけど、二つの魔術を同時には起動できません。
まずイメージを描く必要性。そして魔法陣を描く魔力。そういった物を並列に処理できないから。
だけど今のわたしには、できる。魔術の神才で並列に魔術を処理できます。
識別で知覚が急速に拡大し、自分の発現したい現象が脳裏に浮かぶ。
二種類の魔術、七つの攻撃。それらを纏めて一つの事象としてイメージ。
「吹、き……飛べぇぇぇぇ!!」
絶叫と共に熱線を二つ解放。
崖の上、二箇所に居た射手を足場ごと蒸発させる。
抉り取られた岩塊の切り口が融け崩れ、溶岩の様にボタボタと流れ落ちてくる。
突然の烈光に腰を抜かす盗賊たち。
――だけど赦しませんよ? ウチの子に怪我させた償いを受けてもらいます!
首領を除く五人に向けて、並列発動した五つの熱球の魔術を飛ばす。
この熱球はいつもの暖房用の物と違い、高温かつ収束を甘くしてあります。
アレクを掠めるように、反応も出来ないほど高速で飛来した熱球が盗賊の身体を焼き、体内に潜り込んだ所で爆発四散させます。
バジュンと、熱した油の中に一滴水を落としたかのような音と共に爆発する盗賊たち。
あ、危険ですので試さないでくださいね?
問答無用の殲滅劇。瞬きする刹那に七人の命を奪ってしまいました。
わたしはそのまま、手に風刃を待機させ、ゆっくりとアレクへと歩み寄ります。
「大丈夫ですか、アレク」
「あ、うん……」
センチネルを退け、左腕を持って助け起こす。
右肩の矢傷はかなり深いので抜くのは簡単そうですが、その後の出血を考えると、まだ抜かない方がいいでしょう。
治癒ポーションとか持って来る暇無かったですし。
「治療薬を持ってくる暇が無かったので、もう少し我慢してください。まぁ、自業自得って思って」
「うん……それは、まあ、いいけど」
「ではわたしは、あっちのに話があるので」
アレクの容態に危険が無いと判断して、首領らしき男へと向かいます。
「おっ、お前!」
「聞きたい事があります」
「話すと思――ぎゃあぁぁ!?」
口答えする気配を見せた瞬間、風刃を放って、左腕を切断。
「四肢がある内に答えを聞きたいものですね」
「ああぁぁぁぁああぁぁぁぁっ、腕が、俺の腕があぁぁぁぁ!」
「さて、他に仲間はいますか? 攫ってきた少女はどこです? 言っておきますが今のわたしは……かなりキレてますよ?」
「ひぃっ! 腕が……腕……」
反応が鈍いので、足首も切断しました。
「ああ! ひぎゃああぁぁぁぁぁ!?」
「ついでに気も短いです。早く答えた方がいいと思います」
「仲間は……もう、居ない! 全員アンタが蒸発させちまった! ガキはあの洞窟の中だ! だから助け――ゲブッ!」
聞きたい事は聞いたので、風刃で最後に首を刎ねて黙らせておきます。
これがわたしの初めての『殺人』でした。
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