1章:修行編

04話:1章 身体を鍛えようと思います

 わたしがハスタールの弟子になって三年が過ぎました。

 この三年で大きく成長したのは、師匠が触れても怖くなくなったことでしょうか?

 他の人はまだ怖いので、師匠も人の居る場所には連れて行ってくれません。

 師匠の庵にはたまに客が来るので、自分の回復具合がわかります。


 そうそう、わたしの口調ですが、師匠に盛大にダメ出しされるので、思考でも丁寧語で考えるように調されました。

 正座でお説教は、どこの世界でもツライのです。


 この三年ひたすら魔術の基礎を学び、応用を学び、家事を雑用をこなし……こなせず失敗しています。

 逆にこの三年で、師匠はユーリという少女の身体能力を学んだようです。

 とにかくこの身体は、ドンくさい。虚弱。ひ弱。身体能力が徹底的に低い。

 失敗するたびに、わたしは『こんなはずじゃないのに』とこぼす。


「あれだけ死んだのに……計算では千を軽く超えるほど死んだのに……」


 そうなのです、リリスの町に居たのはおよそ二か月。

 毎日二十回以上死んでいたので、千二百回は成長していたはずなのです。

 ……いや、確かに成長はしていましたが。”復活成長”は解除していなかったので、成長は確かにしてイマシタヨ?


「後で考えてみればオカシイと思ったのです。あれだけ死ねば、生命力なんかも上がって、次第に死に難くなるはずですから」


 普通に成長すれば生命力も上がり、死に難くなり、反比例的に成長も鈍ったはず。

 なのになのに、わたしは最後まで、ポクポクと死に捲くっていました。

 その原因は、弟子入りしてすぐ判りました。


 ――魔術の神才。


 このギフトは、あらゆる魔術の適性を伸ばす為、成長すら魔術に最適化してくれやがったのです。

 今のわたしのステータスは、なんとこんなです。



  ◇◆◇◆◇


 名前:ユーリ 種族:人間 年齢:13(肉体年齢10) 性別:雌

 職業:見習い術師 称号:なし

 身長:130cm 体重:28kg 髪色:銀 瞳色:紅

 状態:健康


 器用さ:1

 敏捷さ:1

 筋 力:1

 生命力:1

 魔 力:1836

 精神力:1836


 ギフト:

  状況適応

  不死の肉体

  不老の肉体

  魔術の神才

  黄金比の身体

  神の名器

  復活成長

  識別


  ◇◆◇◆◇




「かつて……かつて、こんなアホなチート状態があっただろうか! イヤ無いです!」


 でも、探せばあるかもしれません……自信が無いので。

 それにしても、性別:雌って失礼ですね。どこかの平面ドリームノベルのヒロインじゃあるまいし。まだメス堕ちなんてしてませんよ。これからもする予定はありません!


 ちなみに、この世界の普通の人間の能力は10~20と言う所でしょうか。

 普通じゃない師匠は、魔力が60ほどあります。器用さと精神力も40ほどでした。

 一般人の三~四倍です、凄いです。

 腕利きと自称していた、最初に会った冒険者の筋力でも25くらいでしたし、師匠はさすがです。

 いや、四桁行ってる私が言うことじゃないかもしれませんが。



 そんな訳で、わたしは今も虚弱なまま。

 水汲みに行けば桶をひっくり返し、薬草を摘みに行けば行き倒れ、魔道具を作ろうと槌を持とうとすれば持ち上がらない。

 大きな鳥(ヴァルチャーと言うモンスターらしいです)には、ヒョイとお持ち帰りされ、食人植物に頭からカップリ噛み付かれ……なぅ。


「そんな感じで平和に暮らしています、まる」

「いや、平和じゃないだろう。『風よ、刃となりて斬り裂け』」


 ザシュッと風刃の魔術一発。

 食人植物に頭を咥えられ、吊るされながらアメリカンな感じに肩を竦めたわたしを、師匠が魔術で助けてくれました。


「ありがとうございます、師匠。危なくリアルでマ○る所でした」

「○ミる……?」

「故郷では頭部を咥え、持ち上げられることをそういったんです」

「なんだか怖い故郷だな」


 師匠がタオルをこちらに投げてくれました。

 触れるようになった今でも、必要最低限しか触れてこない辺り、やはり紳士です。


「しかし、ユーリの虚弱さも一種のギフトだな」

「まあ、ギフトのせいではありますけど?」

「確かに不老のせいで成長しないのは、自衛の観点からも問題があるな」


 そっちじゃないですけどね?

 タオルで大きなメガネを拭きながら、ボヤキます。

 このメガネは師匠の作ってくれた封印具で、黄金比の身体による魅了を無効化してくれます。

 師匠は『封魔鏡』と呼んでいますが、わたしはシンプルに『封印メガネ』と呼んでいます。

 おかげで今のわたしは、トンデモなくカワイイ女の子程度に見えるそうです。

 師匠は精神力の高さもあって、『封印具無しでも十分程度なら自我を保てそう』と言ってましたが。

 師匠でも十分……抵抗の指輪って凄いですね。

 最初に会った冒険者は、精神力は人並みだったのに、三時間程は正気でいましたから。

 指輪が弾けた瞬間に理性も弾けましたが。


「うーん……ユーリ、しばらく魔術より武術を学んでみないか?」

「武術ですか?」

「うむ、剣は無理でも体術なら多少は齧ったことがある」

「体術……わたしにできますかね?」

「なに、できなくても体力が付けば上等ってことで」


 成長のために魔術の神才を切って死ぬのも、勘弁してもらいたい所ですし、何事もチャレンジしてみますか。



 庵に戻って巻き藁を立て、早速体術の訓練です。

 師匠は拳の握り方から、突きの出し方まで、わたしに触れない様にしながら、丁寧に教えてくれました。


「ではまず、『突き』の練習からしてみよう。格闘の基本だ。拳はこう握って……そう、じゃあ試しに、この巻き藁を軽く殴ってみようか」

「えい!」


 ぺき


「に゛、に゛ゃああぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」


 指が! 指の骨が!? 

 すぐさま黄金比の効果で骨折は癒されましたが、とんでもなく痛かったです。

 魅了以外は封じてないので、治癒は有効なのです。さすが師匠の魔道具。


「こ、これは手ごわい……」


 師匠、なぜ戦慄の表情でこっちを見ているデスカ?


「うん、拳は危険みたいだから、蹴りにしよう。こう、膝から先に上げてね……」

「こ、こうですか?」

「そう。最後に鞭のように、爪先までしならせ、腰を入れながら体重を乗せて振り抜く。これが回し蹴り」

「フムフム……」

「巻き藁は危険だから、私の手に向かって蹴ってみなさい」

「とぅ!」


 ごき


「おっふうぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」


 股が! 股関節があぁぁぁぁ!


「……ユーリ、女の子にあるまじきポーズで悶絶するのはやめなさい」

「そう言われましても!」


 すぐに治るんですが、しばらくはM字開脚で左右に転がって悶絶していました。

 状況適応が有っても、痛い物は痛いのです。

 と言うか、あれは耐えられる痛みの上限が増えるだけで、痛みが消えるギフトでは有りません。


「……うむ、無理だな」

「諦めるの早いです、師匠」

「もう一回、巻き藁殴るか?」

「遠慮します」


 また折れるじゃないですか?


「とにかく、動きの型を教えるから、これから毎日柔軟して、型を流す事を日課としなさい。後、牛乳一リットル飲むのも追加で」

「ウ、ウス!」



 翌日、牛乳で溺れているわたしが発見されました。

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