02話:序章② 救われるまでのこと

 気づいた時、俺は子供になっていた。しかも全裸で銀髪紅瞳の幼女。


「要求と違う! 断固、やり直しを要求する!」


 そんな叫びも平原に放り出された俺の救いにはならなかった。

 体力を試す為走ってみてもその足は遅く、十メートルも走らないうちに息が切れる。

 草原でひっくり返っていると、視界の左隅に光る点を見つけた。

 意識を集中すると、目の前に半透明のスクリーンが開き、白い文字が浮かんでいた。


「うぉ! ステータス画面ってやつか!?」


 喜び勇んでデータを確認するが、読み進めるほど絶望が増すばかりだった。

 表れた数値はこんなものだった。



  ◇◆◇◆◇


 名前:ユーリ 種族:人間 年齢:10 性別:幼女

 職業:なし 称号:なし

 身長:130cm 体重:28kg 髪色:銀 瞳色:紅

 状態:健康(全裸)


 器用さ:1

 敏捷さ:1

 筋 力:1

 生命力:1

 魔 力:1

 精神力:1


 ギフト:

  状況適応

  不死の肉体

  不老の肉体

  魔術の神才

  黄金比の身体

  神器

  復活成長

  識別


  ◇◆◇◆◇



 あまりにも低い能力、せめてこのギフトとやらが有用な能力なら……そう思い詳細を調べる。



 状況適応

 極限状況に追い込まれても、適応できる耐性を持つ。毒物や魔法、苦痛などに耐性を持つ。


 不死の肉体 【解除不能】

 病や毒物を受けても死亡しにくくなる。また、死亡したとしても再生し、復活できる。


 不老の肉体 【解除不能】

 老いない肉体を持つ。寿命なども存在しなくなる。


 魔術の神才

 あらゆる魔術的才能を併せ持つ。ただし、それらを伸ばす努力は通常通り行わなければならない。


 黄金比の身体 【解除不能】

 最も美しいとされる理想の比率、配置を持つ肉体。その身体は決して崩れることが無い。あらゆるモノを魅了する。


 神器 【解除不能】

 同性異性異種族を問わず、発情させ、至高の快楽を与える肉体。欲に溺れ際限が無くなる。


 復活成長 【解除不能】

 通常の成長の他、瀕死、もしくは死から蘇る事で身体能力を強化することができる。


 識別

 他者もしくはアイテムの詳細を知る能力。ただし、隠蔽されている場合はその限りでは無い。



 そう、『神』はできる限りこちらの要望に応えたのだろう。


 状況適応は無敵の身体を。

 不死と不老は不滅の身体を。

 魔術の神才は魔法の才能を。

 黄金比の身体は美形を。

 神器はハーレムの要求を満たすためか?

 復活成長や識別など、要求していない能力もついている。これはサービスだろうか?

 十歳と言う年齢は、若さと言う要求に、極限まで応えた結果なのだろう。


 全て自業自得……なのか?

 解除不能となっていないものは、意識を集中させると、灰色の文字に変化した。これが解除したという事なんだろう。

 なんにせよ、この歳にして不老不死は泣けてきた。せめて後五歳、いや性別が男なら……


 ステータスを確認していると、一人の男が声をかけてきた。

 話をしてみると冒険者らしい。しかも彼女持ち。

 この男も『抵抗の指輪』をしていた。詳細は識別で見ることができた。

 町に着くまでは厄介になろうと会話してる最中に、指輪が弾け飛んで――俺は、この男に襲われた。


 いきなり押し倒され、胸元をまさぐられ、首筋を舐め上げられた。その感触に怖気が走り、反射的に近くの石を拾って、頭を殴りつける。

 俺を襲うことに集中していたのか、男はその一撃をまともに受けてしまった。

 だがまだ息はある。そもそも俺の筋力では、一撃で気絶させることなど、できようはずもない。


 俺は身を守るために、本能に任せて追撃した。

 男にまたがり、執拗にその頭部に石を振り下ろす。

 やがて打撃音は湿っぽい音に変わっていき、男がピクリとも動かなくなっていることに気付いた。

 そう、俺は初めて、人を殺してしまったのだ。


 その結果に耐え切れず、俺はその場で嘔吐した。

 胃がひっくり返るほど吐き続け、やがて気を失ってしまう。

 目を覚ましたのは翌朝になってからだった。


 平凡な日本人であるところの俺は、危機管理能力が低い。

 この段階で、危険を理解していたが、それほどの危機感は感じていなかったのだ。

 頭で理解しても実感できない。そんな典型的日本人の俺は……

 だから、あんな迂闊うかつな事をしてしまった……遺品を彼女の元へ届けてやろうなどと。



 男の荷物から地図を見つけ出し、魅了阻止の為に体をすっぽりと雨具(男の荷物にあった)で覆った俺が、リリスの町に着いたのは三日後。

 口先で人の良い門番を丸め込み、彼女の元に遺品を届ける。

 彼女は感謝し、一晩の宿を申し出てくれた。それを迂闊に受け入れたのが、事件の始まりだった。


 その夜、俺は彼女に殺された。

 当然の話だ。彼女にとって、俺は恋人を殺した犯人だ。

 もちろん俺が殺したとは一言も話していない。だが俺が着ていた雨具は男の物である。

 ならば彼女が真っ先に犯人と疑うのは、俺だった。


 俺は彼女に殺され、そして生き返った。不老不死の効果は絶大だったというわけだ。

 しかし、目を覚ました場所が悪かった。

 そこは冷たい土の中。息もできず、声も出せず、指一本動かすことができない。

 何より呼吸すらできない。

 結果として、ものの数分で俺は息絶えた。

 そして生き返る。


 何度それを繰り返したのか、わからない。

 死んで蘇り、再び窒息死する。何度も、何度も、何度も……


 普通なら気が狂って、楽になったかもしれない。

 しかし状況適応のギフトがそれを許さない。

 狂うことすらできず、生と死を繰り返す。延々と、終わりなく。


 そしてどれだけの月日が過ぎたのか、わからなくなった時――ようやく救いの手が、差し伸べられた。

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