24-八月三日(水)

 潮風が鼻をくすぐる。視界内には大勢の海水浴客がいる。六人で海へ遊びに来たと記憶が示している。交通手段は東尋坊家の所有するワゴン車である。友人のなかで唯一普通自動車免許を所持している小林大吉が運転を担当した。

 佐藤うずらは現在、両親と共に富良野にある母方の実家へと帰省している。これは佐藤露草から聞いた情報である。

 現在時刻は午後二時前後。

 タイム・タイムの遡行時点には、二十四時間の場合±十分前後のぶれがある。

 九丹島ミナトは、全員を呼びつけると、深々と頭を下げた。

「──悪い! どうしても、行かなきゃいけないところができた!」

「え、ミナトくんどこか行くの?」

 右手にビデオカメラを持った永久寺八尺が、そう尋ねた。

「ああ、富良野だよ」

「富良野!?」

 佐藤露草が仰天する。

「というか、うずらに会わなきゃならなくてさ」

「ちょ、待って! なんでアンタがうずらのこと知ってるのよ!」

「あれ、言わなかったっけ? 夏休みに入る前、僕がうずらを助けて──」

「僕ッ!?」

 狸小路綾花が驚愕の声を上げた。

 主観時間では幾度も経験した反応である。

「──キューブ?」

 東尋坊あんこに笑みを向ける。

 東尋坊あんこはキューブの存在を知っている。

「それで、私に運転を頼みたい──と、そういうことでしょうか」

「ああ、頼めるかな?」

「私は構いませんが……皆様にはしっかりと説明をなさったほうがよろしいかと」


 虚実交え五人を丸め込む。

 その結果、全員で富良野へ泊まりがけの小旅行をするという話がまとまった。佐藤露草が両親へと連絡し、寝場所を確保する。その際、うずらがポシェットを所持していることも確認した。

 佐藤家における夏季休暇中の家族旅行は二度。いずれも道内である。

 道外への旅行があれば、その時点で詰んでいた可能性がある。

 僥倖と言えた。




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