第6話 こっくりさん激しめ

「放課後、こっくりさんしよう」

クラスで1番うるさい奴がそう言い出して、面白そうなので俺も参加した。なんかいかにも中学生っぽいよな。実際に中学生なので「ぽい」ではない。

まあ、大体は予想が着いていたわけだ。こっくりさんの10円がマジで1人で動き出すなんてあるわけがない。テキトーに誰かが動かして、ちょっと盛り上がって終わり。それがこっくりさんの正しい遊び方だ。

だが、今日ばかりは一味違った。

「じゃーん! なんと今日は、あの! 寺生まれで霊感バリバリの恐谷鏡子おそれだにきょうこ を連れて来たぜ!」

あ、あの恐谷さんを!?

こっくりさんをやりに集まった一同がざわめく。この学校に居ながら恐谷の名を知らぬ奴はモグリだ。彼女の恐怖伝説は枚挙に暇がない。

いわく、恐谷と目が合った奴は死ぬとか、接触した奴は死ぬとか、そんな化け物級の逸話しかない。

すっ……と、恐谷が幽霊のような動きで1歩前に出た。いや、幽霊見たことないけど。

「ご紹介に預かりました。恐谷です。誤解が無いように言っておくけど、目が合ったら死ぬとか、接触したら死ぬとかは全て本当よ」

……。

……!?

「誤解じゃないんかい!」

俺は思わず突っ込んでいた。誤解が無いよう言っておくってそれ誤解解くやつだろ! 解けよ!誤解!

「ちょっと待った、にわかには信じ難いな。目が合ったら死ぬなんて、科学的じゃないね」

メガネかけていて頭良さそうな奴が言いがちなことを裸眼で阿呆の田中が言った。

「しょうがないわね」

恐谷は短くそう言って田中の手をとる。そして田中は死んだ。

「即死じゃねーか! これって殺人になんの?」

「ならないわ。今殺したてホヤホヤだから魂はすぐそこにあるの。今、戻すわね」

恐谷はその辺の適当なナニカを掴んで田中に投げるような真似をする。そして田中は生き返った。

「……はっ! 俺は今何を!?」

よく聞いたような台詞と共に田中が生き返った。確かに脈も完全に止まっていたし、油性のマジックで顔の肌色が見えなくなるまで落書きもした。これで寝たフリってなら田中は拍手もんの根性だ。

「じゃ、始めましょ」

めちゃくちゃムードのある恐谷の一言と共にこっくりさんが始まったのだった。


「こっくりさんこっくりさん、お入り下さい」

まずはこっくりさんを呼ぶ。鳥居のマークから「はい」と書かれたところへ10円が動いたら、こっくりさんがやって来たということだ。

早かった。

何がって? 10円の速度。

バシィッ!!! っとバトル漫画みたいな音がして10円高速移動。あまりに早くてちょっと焦げるみたいな匂いがした。

たぶん、っていうか恐谷の霊力的なものを得たこっくりさんがバキバキに元気になっているのだ。すげえ速さで10円が動くのを見て俺は普通に爆笑してしまった。つーか、10円早すぎて皆の指から既に外れてるし。

「えっと、何聞く?」

何聞こうかな。たぶんこのこっくりさんって即答してくるよな?

「高橋竜馬のことが好きな人を教えて!」

ちょっと! おま!なに勝手に俺のこと好きなやつ占っバシィッ!!バシィッ!!バシィッ!!!

だから早いって笑っちゃうよそんなの。

「ミ・ズ・タ・ニ・ア・ヤ・カ!!!」

は、はえー!! っていうかこの中居るし!!

「ちょぉーーい!!アホ!アホ! 違うから!いやほんとなんで!? 馬鹿じゃん!これインチキ!」

水谷彩花は俺への恋心を暴かれ、分かりやすいくらい動揺していた。

「じゃー高橋くんの好きな人も聞いてみよーよ」

あっ!馬鹿! やめろ田中!

そして動き出す10円。指し示すのは水谷彩花という名前。そう、両思いだったのだ。


ありがとう、恐谷さん。こっくりさん。

カップルが誕生しました。

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