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幸いにして、客は次第に増えてきた。町全体の閉鎖的な気配を察してか、店には山っ気の強い荒くれた旅人たちが多く集い、よそ者同士の気安さで毎夜賑わった。
そして、雇った用心棒には、目を見張らされることになった。
実によく働くのだ。眉をひそめた第一印象がまったく嘘のようだった。黒眼鏡とマントを取り、エプロンをつけさせてみると、彼はごく人当たりのいい青年に早変わりし、かいがいしく注文を取ってきた。おまけにそろばんなどは、私よりも得意なほどだった。
かといって不必要に卑下することもなく、いざこざが起これば、すかさずショットガンを手にしてにらみを利かせ、あっという間に収めてしまう。非の打ち所がなかった。
はじめはどこかうさんくさく思っていた私も、これほどできる男なら、無気力に満ちたこの町ではかえって嫌われもするのだろうと、なんとなく納得してしまった。
私は彼を信頼した。信頼をこえて、好意を抱くようになっていた。その好意は、本当は、ただ孤独感を癒したいだけなのだと、内心では気づいていたけれど、だからといって一度おこった顔のほてりが収まるはずもなかった。何より、彼が運んできてくれた、忙しくも安息の日々を、私は噛みしめて味わっていた。
「ありがとう」
あるとき私がそう言うと、彼は苦笑した。
「俺は俺自身のためにやってる。感謝されるいわれはないぜ」
照れたように言う様子に、私はまたひとつ、心の中に幸福感を転がしたのだった。
その後も、順調な経営が続いた。これといって事件は起こらなかった。このぶんでいくと、家族がもしすってんてんになって戻ってきても、故郷に戻ってやり直せるくらいの小金は、じきに貯められるだろう。私は、私の賭けに勝ったのだ、そう感じていた。
開店からひとつき経った。
その日は珍しく、日が高くなっても、ひとりも客が入ってこなかった。大きな商隊が入ってくるという話だったので、仕入れを多くしておいたのだが、どうしたことだろう、と、新品の酒瓶を棚に収めながら、私は首をひねっていた。
からん……という扉の鈴の音がした。ようやく来たか、と私が顔を向けると、木の床に革靴の音を響かせながら入ってきたのは、私の雇った用心棒だった。
「……なんだ、あなたなの」
「なんだはなかろう」
「お客だと思ったのよ」
彼が普段と違う格好をしていたからだ。私と初めて会ったときと同じ、黒眼鏡をかけ、長い汚れたマントを羽織っていた。
「着替えてよ。その格好でお客を迎える気?」
「まだ来てないじゃないか」
「それなのよね……来るはずの商隊が、どうなっているか御存知?」
「もう着いているが、宿や食事を手配する様子はなかった」
「自前でキャンプを張るってこと?」
「知らん。だが……着いた早々、町の連中も巻き込んで、妙な賭けを始めていた。どんな賭けかというとだな」
私は眉をひそめた。町でいつも味わう不快な雰囲気を、店の中に持ち込まれたくなかった。
「聞きたくもないわ。あの人たちのしてる賭けの内容なんて」
が、彼はカウンター席に座り込むと、無視して話を続けた。
「……まぁ、聞けよ。ある競争で賭けが行われる。形式は、誰が一着で、誰が二着を獲得するかを当てる、いわゆる
私は聞いていないふりで店の準備を進めていたが、内容のあまりの奇妙さに思わず反駁してしまった。
「……何それ? そんな連中で、何を競争するのよ」
用心棒は、さぁな、と大仰に肩をすくめてみせた。
「……だが、口の大きい男はやたらに声が大きくてな。そいつの最後の言葉がこうだ。『何しろあすこのおかみは美人だって話だからな。楽しめそうだ』。その意見には俺も大いに同感だが」
彼はそう言いながら、私の目をじっと見据えていた。その美人とは、どうやら私のことのようだった。
「……」
私はあきれるやら照れるやら、ともかく絶句してしまった。気を引くために、馬鹿げた話で私をかつごうとしているのだろうと思った。自分がその賭けとやらに本当に関連があるとは、夢にも思わなかった。……私は、一度幸福が訪れたら、その幸福は二度と去っていかないと勘違いする、愚か者だったのだ。
だが。
再び、からん、と鈴の音がして、言葉通りの、招かれざる客の到来を告げた。
いらっしゃいませ、すら言えなかった。―――次々入ってきた彼らを見て、私は激しい吐き気を催した。
顔を手で覆い、カウンターの内側に突っ伏した。だが、それぞれの姿を直視してしまったことさえも、激しく後悔せずにはおれなかった。入ってきたのは、それほど奇怪で、珍妙で、気味の悪い、化け物としかいえない存在だった。
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