第18話


(……今日もログインしないんですか?)

「こないだみたいに待ち伏せされても嫌だからね。ほんとゲームばっかりしてる奴って気持ち悪い奴しかいないよね~」

(ええ、目の前の人物を見ればそれ以外の言葉が出てきません)

「は?こんな常識人を捕まえて?」

(永遠とシュミレーターを繰り返す人間が常識人?リリィは冗談のセンスが高いようで)

「そりゃあね。センスだけで生きてるからね」



僕は今ゲームにはログインせず、アイが作り出す仮想空間でずっとパルクールや戦闘訓練をしていた。


もうかれこれ1週間はこの仮想空間だけで過ごしている。

街中で大人数から絡まれた経験から、1対多を想定した訓練も取り入れてる。



(飽きません?普通ゲームなら攻略とか装備整えたりとかあるでしょう?)

「だって、装備もう完成してるし……攻略って言っても、NPCみてたら関わんない方がいいのは間違いないし……」



正直どんな装備整えても、今持っている神器には勝てない。

ただ、神器のデメリットのせいでどんな装備をしても防御力は”0”になる。


あと、”執念”という有益なアーツも手に入れ、想定する中で必要な物は全て揃ったと思っている。

だから、ゲームして何かを得たいとか無いんだよね……正直。


あと、NPCに関わりたくない。

だから、ストーリも進めない。


理由は明確。

NPCにもロクなのがいないから。



「でも、ほら!こんな事もできるようになったよ!」



こちらに走ってくるダミー人形。

その間を側転し、間を縫って躱していくことが出来るようになった。



(……で?)

「はい。それだけです」



アイは成長した。

こんな冷たい雰囲気を作り出すことさえ出来るようになった。


無駄な機能を増やしやがって。



(あと、いくつかアップデートが行われました。色々と変更点が出てきてます)

「へぇ~」

(興味ない感じですか。割愛しますね)



はい。その通りです。

というか元のシステムもちゃんと理解してないし。



(そうそう、話は変わりますがいくつかメッセージが来ています)

「ん?何?」

(まず一件目。このあいだ街中で囲まれた方々より正式に謝罪したいと連絡がきています)

「却下だねー。お前達とは2度と関わる気はない。って伝えておいて」

(承知しました)



謝罪とか別にいいから関わらないでくれ。

街中で知らない人に囲まれて話がしたいとか言われたら、普通に考えて誰か男の人呼ぶでしょ。


恐怖しかないわ。



(他にも数件リリィとコンタクトを取りたいという問い合わせが来てますが)

「ああ、そういうの全部無理。どうせロクな事にならないから」

(……承知しました)



どうせ会った事も無い奴らだろ?

こっちから話したいことも無いし、面倒ごとだけ押し付けられる可能性すらある。

だから、関わらない。

これ人類の知恵。



(では、最後にアレク大尉からです)

「えぇ~……それもキャンセルできない?」

(出来ません。既に伝言を受け取っています」

「やだなぁ……、で、内容は?」

(来週までにレベルを15まで上げておくように。との事です)



お?こっちは大したことない用事だった。

また訓練に参加しろとか言われたら断固拒否しますけど。



「はぁ~、平日の午後にでもログインするかね。土日や平日の夜はちょっと人が多いからやめときたいな」

(承知しました)


こないだみたいな目にあっても嫌だからね。



「よし、また訓練しようか!」

(何が楽しいんですかね。ほんと)



アイの言葉を無視して訓練に戻る。

いやでも、ほんと面白いんだよ。


映画とかでしか出来ない動きが出来るようになるって楽しくない?

どう考えても楽しいでしょ。


もう訓練じゃなくて、娯楽と感じている自分に驚きつつ

僕はさらに訓練に没頭していった。





「さて、久々のログインだな」



木漏れ日が水面に落ち、キラキラと輝きを放っている。

日常では見られない幻想的な光景。


それがこの仮想世界にはあたりまえのように溢れている。



(レベル上げですね?)

「そうだね。まぁ、その為に来たんだし」

(では、教会へ行きますか)

「教会?なんで?」

(……クエスト完了させて、開通させましたよね。精霊石を使用し、移動を省略できるスポットを作ったのは誰でしたっけ?)

「ああ、そうだ!」



完全に忘れてた。

ていうかその追加クエストも残ったままだ。



「せっかくだから、クエストもこなすかね。アイ、案内して」

(承知しました)



目の前にゆっくりと光の筋が出来上がっていく。

アイが目的地までの最短ルートをナビゲートしてくれる。


僕はただその道を歩く。

それだけで良かった。


……



「おお?」



あのボロい廃墟のような教会。

そこに沢山の人が出入りしており、前とは見違える程の活気があった。


(なんでこんなに繁盛してるんだ?)



あの悪魔が考えた結果?いや、そんなわけない。

その理由を調べるべく、僕は人の溢れる教会の奥へと入っていった。



「心の友よ~~!」



邪教の教祖でもある青髪の悪魔。

その悪魔に部屋に入るなり抱きつかれた。



「凄いの!お酒だけじゃなくて、おつまみも買えるの!!」



知らねぇよ。

なんだその反応は。



「でも、よくこんな繁盛させたな」

「う-ん、それが……」



どうも悪魔の歯切れが悪い。

なんか珍しいな。



「新しい信徒が……、その方が色々とやってくれたのですが……」

「へぇ。よかったじゃないか」



なんで嫌そうなんだよ。

お金も集まって、人気も出ていいことづくめじゃないか。


「ああ、そうそう新しいスポットも開通させておいた」

「あら!ありがとうございます!」



悪魔は嬉しそうに笑顔を浮かべ、凄く自然に次の精霊石を渡してくる



「なにしれっと渡してんだよ」

「貴方の次の試練です。我らが神であるセプト様も見ておられます」

「お話し中の所申し訳ありません。約束の時間が迫っているのですが、よろしいですか?」

「ひっ!」



そんな事より報酬を!と言おうとした瞬間、人の好さそうなおじさんが声をかけてきた。


ただ、そんな事より。

あの悪魔が悲鳴を上げた……だと?



「ご、5万ルギになりますよ?値上げしたんです!払えないなら無理に……」

「はい、ここに」



ドンと金の入った袋を取り出し地面に置くおじさん。

その様子を見た悪魔はただ落胆する様に肩を落としてた。



「では、訓練場へ」



悪魔は諦めた様な表情を浮かべ項垂れながら教会の奥へと歩いていく。

おじさんは僕に向かって小さく会釈すると、悪魔の後を小走りに追っていった。



「……なにかある」



もしかすれば悪魔の弱みを握れるかもしれない。

報酬の事など忘れ、僕はそんな希望を胸に足音を立てることなく僕は二人の後を追っていた。


………

……


「では、これから試練を始めます……ルールは私に一撃でも入れられたら勝ちです。ていうか、もうお願いだから殴ってクリアしてください。ほんと……」



悪魔とおじさんが向かい合う。

これは知っている。


僕が最初期に何度も何度も負けた訓練の一つだ。

いつのまにか試練になっていたらしい。



「いえいえ、私などまだ足元にも及びませんから」



おじさんはそう言って、頭を下げる。

悪魔と違い、腰は低く謙遜も出来る良い人じゃないか。



「チッ……では、開始します」



そういった悪魔は一歩も動かず構えない。

いや、なんていうか。戦う気すら感じられない……。



「キヒヒッ」



おじさんが笑う。

耳につく嫌な声で。



「動かないなら」



おじさんは少し腰を落とし、両手を上に掲げ構える。



「そのかわいいほっぺちゃんを舐めちゃいましょうかねぇー!!」



そういっておじさんは舌を出しながら走り出した。

ドスドスという音を立てそうな奇妙な姿で。


おじさん……いや、ただの変態。


恐らく強くも無い。

横にブレる走り方を見れば、運動も出来ない事が分かる。


ただ、万人をドン引きさせる事が出来る力も持った天才である事は間違いなかった。



「……ほんと無理っ!」



悪魔の間合いに入った瞬間、変態が飛んだ。

比喩じゃなく、本当に。


風船の様に宙を舞う変態の顔に、おまけ程度に体という紐がついている感じだ。



「お前!ほんとっっぉぉぉに気持ち悪いんだよ!!」



いつのまにか悪魔の手には鞭が握られ、それを勢いよく振るう。

音速を超えた鞭は、パァン!と音を立てて変態の背中を捕らえていた。



「はぁぁぁぁん!!!」



恍惚の声を上げながら、地面に叩きつけられ転がる変態。

地面にバウンドする度に”ありがとうございます”と聞こえるのは気のせいでは……ない。


……理解した。

理解してしまった。


この変態がどうしてここの信者になったのか。

どうして悪魔が心底嫌そうな顔をするのか。


分かりたくもない事実を嫌でも理解してしまった。



「マジで近づかれるだけで無理なんだよ!お前もうこの教団から出てけよ!止めねぇよ!!」



あ、いいなぁ。

変態になれば教団ぬけられるのか……


でも、最後の手段だな。

こんな風に人間の尊厳を捨てるのは嫌。



「わ、私は決して屈しません!一度心に決めたからにはそれを貫き通すつもりですっ!!」



屈してるんだよなぁ。

自分の欲求に誰よりも素直に。



「あぁ!!!ほんっっっとうにキモい!!」

「あぁ……あぁ……❤」



パァン!パン!と音速を超えた破裂音が響き、直後には耳障りな恍惚の悲鳴が響いた。



「アイ案内をお願いできる?精霊石のクエスト依頼があった場所に。そこでレベル上げも纏めてやっちゃうよ」

(承知しました)



こんな所にいたら頭可笑しくなるわ。

知り合いだと思われても困るので、僕は早々にその場を後にする。



「あぁぁぁぁぁ!!!もう嫌!!」



あの悪魔に少しだけ同情する。

こんな気持ち。

このゲームを始めてから初めてだった。





「ここが次のスポットか」

(はい、あとは精霊石を捧げるだけです)

「やっぱり、一人の方が捗るんだよな」



剝き出しの廃墟になった遺跡

ここまで来るのに何の障害もなかった。

圧倒的にレベルが上のキノコの化け物3体と死に物狂いで戦わされることも。

PKに襲われる事も無く。


うん。

これが普通なんだ。



「よし、これで終わりだ」



精霊石を野ざらしの台座にはめ込む。

台座は答えるように、淡い光を放ち消えていった。



「うん?」



その台座の後ろに小さな影が動いた。



「小鳥?」



小さな鳥だった。

その小鳥は僕から逃げる様にヒョコヒョコと必死に歩いている。


僕は小鳥に手を伸ばすと、観念したように動かなくなった。

その姿を見るとなんか……心に来る。



「お前怪我してるのか……」



小鳥を優しく拾い上げ確認する。

翼が折れ、小さな体には傷がいくつもついていた。



「待ってな。アイ、ポーション出して」

(承知しました)


ポーションをその小鳥に振りかける。

折れた羽は逆再生した様に元通りになっていた。


ただ、傷が癒えたにも関わらず、小鳥は僕の手の中で小さく震えていた。



「……アイ。この子に鑑定とかできる?」

(出来ますよ)

「じゃあ、鑑定してくれる?ああ、コマンド唱えないとダメか」

(いえ、バージョンアップでAIが理解するようになってますので大丈夫です。理解できない命令だけコマンドで指示を頂く必要があります)

「そうなんだ。じゃあ早速鑑定お願い」



◆ブルーバード

 鳥系のモンスター

 戦闘の力は持たず臆病で滅多に人の前に現さない。

 その反面、逃げる手段を豊富に持っているため討伐例が極端に少ない。

 

 希少性と美しい羽は縁起物として扱われ、特に尾羽は高額で取引される。

 一部では幸せを運ぶ鳥として崇めている地域もある。


◆状態

 微毒(13分経過 残り107分継続)



「これ、奇跡で治せないかな?」

(無理ですね。奇跡はパーティか所有物にしかかけられない仕様に変更されました)

「そうなの?」

(はい。露店で販売している毒薬に通行人が奇跡をかけ、ただの水に変えるという行為が発生したため、仕様変更となりました)

「ろくなことしねぇな……」



ほんとロクな奴がいねぇ。

まぁ、糞みたいな奴が目立つのは現実と同じか。



「まずいな……あ!この開通したばかりのポータル使えば」

(無理ですね。街中にモンスターは持ち込めません)

「……ということは、だれか人に頼んで、歩いてここまで来てもらうしかないか……」



不味いな。

ロクに冒険もしてないから、知り合いも殆どいない……



(これはモンスターの一種です。何故そこまでするのですか?)

「似てるんだ。昔飼っていた小鳥に」

(それがどんな関係があるのでしょうか?)



アイが不思議そうに聞いてくる。

確かに、今まで倒してきたモンスターとこの小鳥型のモンスターに差は無い。


咄嗟に言葉で説明。なんて出来なかった。



「分かんない。でも、ほっておくことは出来ないかなって」

(理解が出来ませんが、リリィはこのモンスターに親愛にも似た情を感じているという事でしょうか?)

「かもしれないし、自己満足かもしれない。分かんないな」

(自分でも理解出来ない行動をするのですね。リリィは)

「そ、自分で100%理解し、納得する行動なんてほとんどないよ。そういう意味でアイの方がはっきりしてるよな」

(……理解できません。ですが、記録させてもらいます)



気分だからね。

機嫌が悪い時だったら無視していたかもしれない。

そんなもんだよ。多分。



「ああ、それよりすぐに呼べそうな人はいる?」

(現状、ミキミキなら呼べます。リリィは知り合いが極端に少ないですからね。どうしますか?)

「うーん」



正直、あんまり関わりたくないけど……

選択肢が無いな。



「なら、呼んでもらえる?」

(承知しました。承諾してもらえるか分かりませんが)

「それでもお願い」



もし断られたらその時だ。

僕が出来る事を全てやろう。それだけだ。





「遅くなった。まだ大丈夫か?」

「ミキさんありがとう。本当にありがとう」



手持ちのポーションを全て使い果たし、ストレージに残った素材でポーションを作成し、なんとか耐えていたがそれも底をつく。

そんなタイミングでミキさんが来てくれた。


本当に感謝しかない。



「で、毒はどれくらい続くんだ?」

「あと、70分位かな、でも解毒薬があれば大丈夫だと思う」



解毒薬とポーションを受け取りつつ、僕は改めて礼を言う。

事情はアイ経由で話し、事前にパーティを組めた事であらかた説明済だ。



「動物には優しいんだな」

「モンスターだよ。これ」

「わかんねぇな。ほんと」



ミキさんはなんかよくわからんけど笑ってた。

まぁ、こんあ酔狂な事をする奴なんて珍しいだろうな。


そんな事を思いながら、解毒薬を小鳥型のモンスターに振りかける。

小鳥は動かずにただ僕の手の中でじっとしていた。


毒が回復してもまだ万全じゃないんだろう。


それに、この子が回復したとしても報酬なんてない。

無駄な行為なのかもしれない。


でも、乗りかかった船。

元気に飛び立つまでは付き合うつもりだ。



「これで大丈夫かな。ああ、そうだ。アイから聞いていると思うけどさ、前にあげた指輪返してくれる?」

「変な奴に追われてるってやつな」

「うん、まさかこんな事になるなんて思わなくて」

「いいけど、条件がある。もう、ミキさんっていうのやめてくれ」

「でも……」

「分かってる、親父だろ?だから、二人の時だけでいい。呼び捨てで呼んでくれ。ダメか?」



うーん、本当は嫌だけど……仕方ないか。

ここまでしてもらって、”はい、ダメ”とは言いにくい。



「分かりました。でも、出来る限りで」

「ああ!」



ミキは嬉しそうに笑うと、ポンと指輪を投げてきた。



「これの何処にそんな価値があるのかなぁ」



ミキから放られた指輪を受け取り、注意深く確認する。

特に意匠が凝らされている訳でもなく、何処にでもあるような指輪だ。



「ん?お前コレ欲しいのか?」



すると、僕の手の中で大人しくしていた小鳥がモゾモゾと動き出し、嘴を指輪の方に伸ばしていた。



「そもそもお前じゃ装備出来ないだろ?」



僕は指輪を小鳥に差し出す。

その小鳥は嘴で指輪をカミカミすると、クイッと器用に引き寄せ、指輪の中に自分の足を入れる。


するとみるみる内に指輪は小さくなり、小鳥の足にピタッと収まった。

その瞬間、青いスクリーンが目の前に浮かび上がった。


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~テイム効果をモンスターが承認しました~


 ◆モンスターと特別な関係を構築することが可能です。

  以下のいずれかを選択してください。


 ・対象と魂を共有する

  ※これ以上テイム数を増やす事は出来ません。

   モンスターとHP,MP,アーツを共有することになります。

   モンスターが死んだ場合、プレイヤーも死を迎えますが共にリスポーンできます。


 ・対象を従属させる。

  ※様々なモンスターをテイム出来きます。

   モンスターが死んだ場合ロストされ、2度と復活出来ません。


 ・テイムを見送る


--------------------------------------------------------------------------------------------



「え?どういう事?!」



想像もしてなかった現象。

当然何のことか分からなくて……



「どうした?」

「なんかテイムできるか?とか選択肢が湧き上がって、アイこれ見せる事できる?」

(パーティ内であれば可能です)

「じゃあ、ミキに見せて」

「……ッ」



少し頬を赤めながらミキは僕のウィンドウをのぞき込む。



「これ、テイムして仲間に出来るって事だろうな」

「そう思う」



小鳥は満足したのか、僕の手の中から動かない。

少し羽毛を膨らませてドンと餅みたいに座っている。



「多分この選択肢ってさ、この子をペットにするか相棒にするかって事じゃないのか?」

「なら、相棒にするかな。これだけ慣れる奴も珍しいでしょ」



僕の手の中で小鳥は”チチチッ!”と鳴く。


決まりだ。

僕は選択肢の一番上を迷わず選択する。



(モンスターと魂を共有しました。今後、HP,MPが等分されアーツも共有されます。今後変更は出来ません)



アイがそんなメッセージを告げてくる。

まぁ、仕方ない。

分かっていた事だ。



「ああ、構わない」

(では、名前を付けてください。このモンスターは貴方の生涯の相棒となります)

「うん、”びちょ”。名前は”びちょ”だ」

(……登録完了しました。HP,MPは等分された状態で完全回復、状態異常もすべて回復します。今後町への出入りも許可されます)



アイが告げた瞬間、びちょは小さく輝き手の中から飛び立ち、肩に止まる。

そして、僕の首を思いっきり噛んだ。



「いたっ!!」



え?なんで噛むん?

ここは感謝する場面じゃないん?



「多分、名前が嫌だったんだよ。なっ!」



ミキちゃんが手を出すと、びちょは器用にその手に乗り同意するように”チチッ”と小さく鳴いた。



「え~、いい名前だと思うけど」

「お前、センス無いなぁ~」



ミキはケラケラと笑い、びちょの首筋を優しく撫でる。

びちょはその手を避ける事もせずに、ただ気持ちよさそうに目を細めていた。



(モンスターテイムは初情報です。公開しますか?)



アイが問いかけてくる。

意外な事にモンスターテイムは初情報らしい。



「うーん、どうしようかね」

「公表したらいいんじゃないか?」

「でもさ、公表したらなんか色々と問い合わせ来そうじゃない?常識も知らない奴らから」



目に浮かぶんだよなぁ。

どうやって取ったとか、何をすれば取れる。とか1から10まで全部聞いてくる奴。


それの対応するのが心底面倒。



「モンスターを連れて町に入った方が大変だとおもうぞ?」

「ああ、そういえばそうだね」



確かに。

バレたら、物凄い問い合わせ来そうだな。



「アイ、匿名で公開できる?」

(可能です)

「じゃあ、公開しておいて」

(承知しました。公開方法は私に一任頂けますでしょうか?)

「ああ、全部任せる。なるべく僕に面倒がかからない様に宜しくな」

(お任せください)



アイが答える。

こういった所で、アイは本当に優秀だ。



「チチッ!」



びちょが僕の肩に飛んできて、小さく鳴く。

なんとなくだけど、挨拶してくれているのが分かる。



「うん、よろしくな!びちょ!」



僕は新しい相棒に小さく会釈し答える。

なんだが、懐かしい感じだった。

昔飼っていた小鳥にしていた事が自然に出てしまったから。


少しだけ子供の頃の良い記憶がほんのりと蘇る。



「んじゃ、帰ろうか」



気が付けば随分時間が経過していた。

レベル上げは出来なかったけど、焦る事は無い。


今日はこれで引き揚げよう。



「あ!」



そういえば、大事な事を忘れていた。

忘れちゃいけない事があったんだ。


僕は振り返り、今回の功労者へと向き直す。



「ミキ。本当にありがとう」



改めてもう一度頭を下げる。

掛値無く僕を助けてくれた事。

報酬も何も渡せないのに手伝ってくれた事。


その全てに対して僕は感謝の意を込めて、頭を下げた。



「気にすんな。来週からはほぼ毎日一緒にいることになるんだ。これくらいの事どうって事はないさ」

「は?」



何言ってんだ?コイツ。

そんな思いが頭を過ぎるが、悪いのは僕だった。


僕はすっかり忘れてた。

そう、未来の就職先と引き換えに悪魔……いや、鬼と取引をした事を……。


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AIと過ごすVRMMO rirey229 @rirey229

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