第10話 酒と神器



「あんな方法を使うなんて……ズルい。ズルすぎます!この試合ノーカンです!!!」



シスターの姿を模した悪魔がなんか吠えてる。

ククッ。もっと叫べ、悔しがれ!


それが最高の祝福だ!!



「ノーカン!ノーカン!!」



手を振りながら悪魔は主張する。

その姿はあまりに滑稽で、僕を幸せな気持ちにさせてくれる。



「あれれ?どんな形であれ最後まで立っていたのは私ですけどー?いいんですか?この世界で約束を破るなんて事ができるんですかぁ~?」

(安心してください。この世界の約束は反故にする事は出来ません)



アイの声が聞こえる。

そうだろう。


この世界の約束は口約束ですら必ず守らされるんだから。



「それにお金まで払ったのに、なかった事なんかにできるんですかねぇ?」

「ぐっ……」



悪魔は悔しそうな顔……って、えぇ……。

その顔はしちゃいけないだろ。


いくらなんでもその顔はねぇよ。

般若じゃねぇか。



「……そんなつもりはないですよ?ただ冗談です。冗談」



そのあふれ出る悔しさを隠そうともせず悪魔は言う。

なんか、うん。


般若が喋ってるよ。

色んな意味で凄いや。



「まぁいいですよ。それより報酬を下さい。報酬がもらえる約束でしょ?」

「ああ、そういえばそうでしたね。ペッ!」



なんだその態度。

まぁ、チャレンジするだけで総資産の半分を支払わなきゃいけないクエストだ。


相当良いアイテムか何かが貰えるに違いない!!

これはテンション上がる!上がるに決まってらぁ!!!



「はい、報酬渡しましたー」

「は?え?」



あ?ナニイッテンノコイツ。

ただ、2,3言ブツブツと呟いていただけじゃんか。



「貴方に我が教団の幹部の称号を与えました。これは数人にしか与える事の出来ないヒジョーにレアな物です」

「嘘?!”show"パラメータ」


******************************************************************


 ■個体名:リリィ 

 

  Lv1

  HP:1

MP:20


アーツ

  ピュリフィケーション(奇跡)

  執念(P) 


 称号

  ビギナー 

  邪教の幹部←new



**********************************************************************


いらねぇ!!やめろよ!

コレ悪の組織みたいじゃないか!!

頑張った成果がコレかよ。本当にコレなのかよ!


……涙が出そう

そう嘆いている僕の前にゴトリと宝箱が落ちてきた。



「あー、そういえば、これは試練を達成した人に与えられる報酬です。私からじゃなくて、契約……じゃないや、我等が主であるメリス様からの贈り物です。大事にしてくださいね」



まじか。

あと、この悪魔が信仰する神はメリスっていうのか。


初めて知ったわ。

でも、こっちが本命だと思う。


僕はゆっくりと宝箱を開ける。

すると淡い光が僕の体に吸い込まれていく。



(神酒を入手しました。効果を確認しますか?既に鑑定済のアイテムです)

「ああ、お願い出来る?」



【神酒】

とても美味しい。飲んでも翌朝には補充される。



……これだけ?

え?嘘でしょ?


本当にこれだけなの?!!



「頑張って、努力して達成した結果がゴミかよ……」



なんか涙が出るわ。

稼いだ金全部つぎ込んで、体を鍛え技術を身に着け……

全てを注ぎ込んだ結果が、コレ。


強い武器でもなければ、スキルでもない。



「幹部の称号?こんなゴミみたいな宗教の幹部ってなんの価値があるんだよ。全財産のほとんどを持っていかれた成果がこれかよ!ふざけんなよ!」



怒りがふつふつ沸いてくる。

もう抑えられなかった。



「金は取られる!試練は糞難度!報酬はゴミ!!こんなクズ宗教価値ねぇよ!もう即刻辞めるわ!」



僕は叫ぶように言う。

それは偽らざる僕の本音だった。



「ぐっ、ひひっ、ぐっ……」



後から声がする。

この場所には悪魔しかいない。


だから、声の主は決まっている。

普通じゃない声。

相当キレてるのかもしれないな。


まぁ、こっちも引く理由は無い。

怒る理由は無数にある。


いいよ。

ここでやり合うならやってやんよ!

今まで得た力で全力で殺し合ってやるよ!!



「よしゃあ!来いよ!!」



僕は短剣を抜きながら振り返る。

そう。

悪魔がいる方へと。



「びぇーん!!!!」



えぇ……?

振り返った瞬間、悪魔が泣いていた。


しかも普通じゃない。

見た目は大人なのに、子供の様に泣くじゃん……



「ど、どうしたの?」

「悪口、わる”ぐちいったぁぁー」



大泣きだよ。

泣きたいのはこっちなのに、ドン引きするぐらい泣いている。



「お、落ち着こう?お茶でも飲んでさ」

「やだ。お酒がいい……」



こいつ……泣いてなかったら、ぶっ飛ばしてるからな。



「あ、あとで買ってくるよ」

「高いのだよ?約束だよ?」

「……はい」



この野郎。

僕は拳を握りながら必死に堪える。


そんな気持ちを知らず、シスターを模した悪魔は僕の服に顔を埋める。

涙や鼻水。

色んな液体を擦り付けながら。


あっ、人の袖で鼻かむなよ。


いや、嘘でしょ?なんでそんなことするん?

マジで辞めてよ。


ただ、その我慢のおかげか悪魔は徐々に泣き止んでいった。






「何で人が集まらないんですかね」



てめぇのその糞みてえな人格のせいだよ!

その言葉をギリギリで飲み込む。



「試練だってちゃんと設けてますし、お金だって総資産の半分しか持って行ってないし……」

「総資産って事は、持ってる所持金ってことじゃないのは分かってるよね?」

「装備や所持品も全て含めてです。だって信仰心があればそんなのやすいものでしょ?」



ねぇよ!

どんだけブラックだよ



「そうだね、でもそれ緩和したら人が来るんじゃないかな?」

「え?無理ですよ。もうメリス様と契約しちゃいましたし。変更不可ですよ?」



これ詰んでね?

絶対人来ないだろ。



「ねぇ、これからも試練ってあるの?」

「ありますよ!まだまだたくさーんあります」

「それ受ける度に総資産半分になるの?」

「はい!」



無理だろ。

詰んでるよ。

やめちまえよ。もう。



「俺も辞める事って出来なるのかな?」

「ははっ、無理でしょ。もう幹部ですから」

「嘘でしょ……」



もうやだ。

キャラの作り直しとか出来ないのかな?


あ、出来ないって説明受けた気がするわ。

前にアイに聞いた事あって、網膜とかで認証しててなりすましも出来ないって言ってたな。


セカンドキャラすら作れない仕組みだって。

はぁ……このまま、頑張る……しか、ないのか。



「なんか他にここだけの特色は無いんですか?」

「んー、ないですよ?」



無いのかよ!

金だけ貪って、他より優れた点が無いとか終わってる……。



「じゃあ、なんでもいいです。他の教団でも出来ることでも!」

「ええ?まぁ、強いて言えばメリスの加護が強い土地なら即座に移動できるポータルがある位ですねかね」



それだよ、それ!!

あるじゃないか!


オンラインゲームで移動短縮とか、絶対必要な奴やんけ!



「それ今すぐ使えるんですか?」

「魔力を定期的に補充しないといけなくて、今は使えないですね」



補給しにいくの面倒で。と悪魔は笑う。

何笑ってんの?

お前まじで仕事しろよ。


数少ないアドバンテージじゃねぇか!!



「それって魔力さえ補給すれば誰でも使えるんですか?」

「ええ」

「なら、通行料とればいいじゃないですか、開通させて」

「え?あ……天才か?」



いや、おめぇが馬鹿なだけだろ。



「まぁ、あとは魔力を補給させる方法ですけど」

「ちょっとまって!!」



悪魔は慌てて別の部屋に行き、ダッシュで戻ってくる。



「これ、この石を各地に散らばるポータルに埋め込んで来てください。これは私しか作れない物で、幹部以上の称号が無いと渡すことも出来ないんです!!ああ!丁度いい!!」



なんだそれ。

お前さっきまでノーカンって言ってたろ。



「お前、いえ!熱心な信徒よ。これは試練です。各地に散らばるポータルにこの精霊石を埋め込むのです」

「おい、今”お前”っつたろ」



泣いてたよな。

一瞬前まで泣いてたよな?



「で、何処にあるんですか?」

「ここに地図があります。これを参考に各地へ回ってきてください」

「ああ、ありがと……」



きったねぇ。

油シミとか……汚れとか無数についてんじゃん。

これ鍋敷きか何かにして使ってたろ……


でも、これの他に地図もないので僕は渋々そのきたねぇ紙と精霊石を受け取る。



「はー、なんか話したらスッキリしました。そうですね!また頑張ればいいのですね!」

「エー、そうですね」



もうどうてもいいや。

好きにして。


こっちの方が疲れるわ。



「そういえば、宝箱なんでした?使えない物だったら何か交換してあげましょうか?」

「ああ、これだよ」



インベントリから手に入れた神酒を取り出す。

その時だった。



「ファ?!」



悪魔が口を開け僕の顔を見る。

そして手にした神酒を見つめ、また僕の顔を見る。



「くっっそ当りでしょ!これーーー!!!」



悪魔が吠えた。

今日一番の声量で。



「えぇ……」

「寄越せや!いますぐ寄越せや!」



僕の胸倉をつかみグワングワンと振る。

僕は抵抗しない。


もうなんか諦めたから。

でも、放っておいたら辞めるだろうとおもったけど、一向に辞めない。


こいつ……


ゴン!


僕の頭を揺さぶる事に夢中の悪魔の顎を掌底で殴り上げた。

2,3歩たたらを踏み、悪魔は僕から離れていく。



「嫌です。これが今回の唯一の戦利品なので」



当たり前だ。

やるわけないだろう!ボケが!!


このために全財産を何回持っていかれたと思ってんだ!!



「なら、交換だ!待ってろ!動くんじゃねぇぞ!!」



悪魔はそう言い残しまた全力で駆けていく。

そして何かを手に持ち、全力で戻ってきた。



「オラァ!これならいいだろ!」



悪魔からポンと投げられた物

それは……



「短剣?」

「致命の短剣だ。神器だぞ!神器!!」



なんか……鞘から抜かれた短剣から赤黒いオーラが立ち上がっている。

これ絶対神器なんかじゃないでしょ……


呪われた奴だよ。絶対。

こんなのが神器であってたまるか。


神器ならもっと神々しいオーラを放てよ。



「鑑定してくれる?apprais 」

(畏まりました)



【致命の短剣:神器】  耐久:∞

  クリティカルで敵に一撃死を与える。

  ただし、人には過ぎた武器の為、どんな防具を装備しても使用者の防御力は0になる。


  装備条件:メリス教に多大な貢献を行い、認められた者のみが使用可能。

  特性:神器、譲渡、販売不可、インベントリへの保存不可。

     



「おぉ?本当に神器なのか……すごくね?」



 壊れじゃね?

 どんな敵でも一撃で倒せるとかゲームバランス崩すぞ?



「早くそれ寄越せよ!!神器渡したんだぞ!神器!!」

「ああ、どうぞ」



神酒を取り出して悪魔に渡す。

正直、これが神器と交換とかいいのか?


交換レートが違い過ぎる。

さすがに悪い気が……



「ほぉぉぉ!!これが伝説の酒や!!!」



いや、平気だな。

滅茶苦茶喜んでるし。


こいつ本当にAIなのか疑いたくなる。



「うっわ……」



僕は悪魔を無視し、神器を軽く振ってみる。

そのたびに、禍々しいまでに赤黒いオーラに揺れる。


禍々しいエフェクト付きの武器。

これはやべぇな。


うん。メリス教に入ってよかったと初めて思う。



「いつ飲むか?これだけの酒、勿体ない。だが飲まないのも……」

「あ、それ、飲んでも自動で補充されるらしいですよ?」

「まじかよ!!!フォォォォォォ!!!」



うるせぇな。

まぁ、いいか。

すげぇ物貰ったし。


僕はその短剣を腰につける。

インベントリにしまえないみたいだけど、重さはそこまで感じない。



「うめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



あ、やっぱり飲み始めた。



「塩だ!塩!!塩だけで何杯でもいけるわ!!」



うん。もう帰ろう。

アレとは、関わりたくない。


一口飲んでは絶叫する悪魔を残し、僕はそっと廃墟教会から去る。

神器という普通じゃない装備を得て、正直嬉しくて踊り出しそうだった。




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