第11話



「お疲れ様です。予定よりも2分早く完走しました」

「10キロは問題なく走れるようになったな」



朝の日課である、筋トレとランニングを終え汗を拭く。



「そうですね、無駄な贅肉などほぼありません。理想的な体に仕上がっています」

「分かる。体がほんと軽いから……ね、はぁ……」



体のキレは今まで生きてきた人生の中でも最高だ。

ただ、今日のこれからの予定のせいで、テンション爆下げだ。



「そんなに憂鬱なら断ってもいいのでは?」

「一応撃破の報告もしなければいけないからな。最後だと思って行くさ。ていうか、放置してたら家に来そうだし」



行きたくはないけど……あのハゲ。

いや、アレク大尉の家に行かなきゃいけない。


結果も伝えに来いと言われてるし……。



「ならすぐに行きましょうか」

「いや、シャワーを浴びてからな。いくらなんでも汗臭いだろ」



一通り汗を拭きとり、自宅へと向かう。

朝の爽やかな風が頬を撫でていくのが心地よかった。





「よく来てくれた」

「こちらこそ、お誘い嬉しく思います」

「そうか。そういってもらえると嬉しい」



100%世辞だけどね!

ほんとは来たくなかったからね!!


でも、無視すると後が面倒だから、来ただけなんだからっ!



「ランチを用意してある。娘の手料理だ。上がってくれ」



よし、さっさと食うてはよ帰ろ。

こんな所にいるより、ゲームしてた方が楽しい。


大人しく従ってささっと帰る。

うん、それが一番だ。



「あの、お世辞ではなくて、本当に美味しいですね」



家に上がり、娘さんの手料理頂く。

く、悔しいけど……やっぱり美味しい。




「ああ、娘は将来栄養士になりたいそうだ」

「それは良いですね。美味しくて栄養も良い最高じゃないですか」

「だろう!!お前は分かる奴だな!!」



辞めろ!

背中をバンバン叩くんじゃない!!


痛いんだよ!このハゲ!!



「やめてくれ。まだまだだって事は自分が一番分かってる」



少し照れながら娘さんが言う。

いや、そんな事いいからこのハゲ止めてよ。


痛っ!ほんと痛いから!

止めて!!



「それでな1つ、いや2つお願いがあるんだが」

「なんでしょう?」



やっと背中を叩くのやめたと思ったらお願い?

これ恐喝だろ。


いう事聞かないと殴るよ?的な……



「1つは私と娘も君のプレイしているフルダイブ型のゲームをプレイしたいと思ってる、だだからゲーム内で色々と教えて欲しい」

「手に入るんですか?」



今凄い品薄で、マイナンバーでの転売対策が実施されているとはいえ、オークションフルセットで150万以上の値がついている。

最高値で300万とかしてたかな?


まぁ、元々80万する機材だから。数倍程度だからあり得る範囲内だけど……

家庭用ゲーム機としては悪い意味で破格だ。



「第2陣というべきかな?2次生産の販売が開始されたんだよ。君があれほどの技術を手に入れたゲーム、是非プレイしてみたい。娘も興味あるみたいでな」

「ああ、あのゲーム、調べたんだけど、料理の手順で味が変わるし、材料も現実と変わらない。なによりいくら作って食べても金や物の消費がない。料理の練習には理想的なんだ」



親子でプレイか……2つで定価160万。

よく金あるなと思ったけど。


家見れば分かるか。

金持ちだよなこの人。



「そうだ。それに娘には護身術を学んでもらいたい。君が学んだ事を娘にも教えてやって欲しい」

「ああ、なるほど」



合点がいった。

前に娘さん襲われてたし、確かに心配だろう。


ヤンキーだと思ったけど、金髪は地毛でハーフ?なのか顔もかなり整ってるからね。


変な奴に付きまとわれたとしても納得できてしまう容姿だ。


それに、あのゲームは最低限の護身術を身に着けるなら最適だろう。



「でも、すいません。お断りします。僕は人に教えるのが苦手なので……」



ま、それはそれ。

僕には関係ない。


自己責任で宜しくデスネ。



「うん。そういわれると思ったよ」



ハゲはそう言ってニッコリ笑う。

笑顔が凄く怖い。


でも、ここで引く気はないからね!

なんかあったら大声出すからね!


助けて~!!だれか男の人~~!!って叫ぶから!

それくらいの覚悟は出来てるんだから!



「だが、二つ目のお願いだ。これを聞いてから判断してほしい」



少し間をおいてハゲは言う。

僕は少し身構え、いつでも逃げられるようにいざというときのルートを確認する。



「君に娘の大学の送迎を頼みたい。こう見えて娘は大学1年なんだ」



は?そんなお願い聞くわけないでしょ。

アホなの?



「すいません。それはちょっと難しいかと……」

「まぁ、聞いてくれ。娘は美人だ。それもとびきりの」



はいはい。ソウデスネー。

美人デスネー。


だから何?

僕には一切関係ないですね。



「そのせいか、色んなやっかみを受ける。こないだの件もそうだ。親としては心配しかない。だから君に護衛についてもらいたい。この件は娘も説得済みだ」

「いやいや、私だってこれだけ美人の娘さんに何するか分かりませんよ?」

「あ”?」

「すいません。嘘です。すいません」



こわっ!!

何あの”殺すぞ?”みたいな目。


恐喝だよ、恐喝。

冗談でも口にしたらダメな奴だ。


え?もしかして詰んでる?

これ引き受ける以外選択肢無いの?



「まあ、一理ある。娘は美人だ。だから君なんだ」

「はい?」



なんでだよ。意味が分からない。

手を出したら殺しやすいから……とか、そういう理由?


やめてよね。本気で戦ったら僕が勝てるわけないじゃん。



「君のプレイしているゲーム。あれはアイ君の様なサポートAIが全員に付くだろう?当然、そのサポートは我が娘にも付く。となればAIに監視してもらえばいい」

「お任せ下さい。私の相棒が何かすれば、私が即座に通報します」

「うん。こういう事だ」



は?

何勝手に返事してるの?アイ君。


これね、断る感じの奴だからね。

なにトチ狂ってハゲに味方してるの?


その辺匙加減間違えないでね。

アイ君が1万円以下だったら叩き壊してる所だからね?



「だが一つ言っておくぞ。もし本当に娘に手を出せば、私と君でルール無用の殺し合いだ」



うーん、馬鹿なのかな?

僕に一切のメリットが無いじゃん。


やりたくもないし、勘違いされたら殺されるんだよ?

ここは……折れずに笑顔で断り続けるしかないな。


後から死ぬより数倍マシだ。



「すいません。僕には」

「君は今無職だそうだな?」



断ろうとした瞬間、言葉を遮られた。



「いつまで無職でいる気が知らないが、間が空けば空くほど再就職しにくくなるんじゃないか?」

「……そうですね」



その通りだ。反論しようもない。

だけど、今は働く気になんてサラサラなれなかった。


後、2-3年はこんな自堕落な生活を続けていたい。というのが本音だ。



「もし娘を無事卒業まで護衛してくれれば、君に就職口を斡旋しよう。まぁ米軍基地での勤務になるが年金も出る。日本の様なサービス残業もない。私がいうのもなんだが環境としては悪くない」

「でも、軍人なんて僕には……」



凄く魅力的な誘いだけど。

軍人なんて無理だ。

絶対やりたくない。



「安心していい。施設を運営するただの事務員だ。そこに捻じ込めるだけの権限は持っている。年収は最低でも600万。勿論昇給もある。残業もほぼ‥‥いや、確実に無いな」



え?軍人じゃなく事務員?

それって普通の仕事なの?



「日本の米軍基地での勤務は、通常の日本の求人と比べても非常好条件ですね。問題ないかと」



アイがアドバイスしてくれる。

マジで?娘さんは大学1年で……。


後3年後には卒業。

そして卒業すれば僕は米軍基地で事務員……。



「娘が授業の間はトレーニングでもすればいい。大学の施設は申請すれば使いたい放題だ。どうだ?娘の護衛とゲームプレイ協力。頼めないか?」

「一命に変えても、マスター」



気が付けば僕はアレク大尉に膝をつき頭を下げていた。



「では、新年から娘の護衛を頼む。今年はもう冬休みに入っているからな。私も休暇に入っている」

「承知しました。僭越ながら免許も持っておりますので、車さえあれば車での送迎も可能です」

「わかった。こちらで用意しておこう」

「畏まりました。お嬢様。これから宜しくお願いします」

「だれがお嬢様だ」



お嬢様から白い目で見られてるけど関係ねぇ!

うひょー、これで就職口もゲットやで!!


いやー、マスターが話の分かる人で良かった。

今日は帰って祝杯をあげよう!フゥー!

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