第11話
■
「お疲れ様です。予定よりも2分早く完走しました」
「10キロは問題なく走れるようになったな」
朝の日課である、筋トレとランニングを終え汗を拭く。
「そうですね、無駄な贅肉などほぼありません。理想的な体に仕上がっています」
「分かる。体がほんと軽いから……ね、はぁ……」
体のキレは今まで生きてきた人生の中でも最高だ。
ただ、今日のこれからの予定のせいで、テンション爆下げだ。
「そんなに憂鬱なら断ってもいいのでは?」
「一応撃破の報告もしなければいけないからな。最後だと思って行くさ。ていうか、放置してたら家に来そうだし」
行きたくはないけど……あのハゲ。
いや、アレク大尉の家に行かなきゃいけない。
結果も伝えに来いと言われてるし……。
「ならすぐに行きましょうか」
「いや、シャワーを浴びてからな。いくらなんでも汗臭いだろ」
一通り汗を拭きとり、自宅へと向かう。
朝の爽やかな風が頬を撫でていくのが心地よかった。
■
「よく来てくれた」
「こちらこそ、お誘い嬉しく思います」
「そうか。そういってもらえると嬉しい」
100%世辞だけどね!
ほんとは来たくなかったからね!!
でも、無視すると後が面倒だから、来ただけなんだからっ!
「ランチを用意してある。娘の手料理だ。上がってくれ」
よし、さっさと食うてはよ帰ろ。
こんな所にいるより、ゲームしてた方が楽しい。
大人しく従ってささっと帰る。
うん、それが一番だ。
「あの、お世辞ではなくて、本当に美味しいですね」
家に上がり、娘さんの手料理頂く。
く、悔しいけど……やっぱり美味しい。
「ああ、娘は将来栄養士になりたいそうだ」
「それは良いですね。美味しくて栄養も良い最高じゃないですか」
「だろう!!お前は分かる奴だな!!」
辞めろ!
背中をバンバン叩くんじゃない!!
痛いんだよ!このハゲ!!
「やめてくれ。まだまだだって事は自分が一番分かってる」
少し照れながら娘さんが言う。
いや、そんな事いいからこのハゲ止めてよ。
痛っ!ほんと痛いから!
止めて!!
「それでな1つ、いや2つお願いがあるんだが」
「なんでしょう?」
やっと背中を叩くのやめたと思ったらお願い?
これ恐喝だろ。
いう事聞かないと殴るよ?的な……
「1つは私と娘も君のプレイしているフルダイブ型のゲームをプレイしたいと思ってる、だだからゲーム内で色々と教えて欲しい」
「手に入るんですか?」
今凄い品薄で、マイナンバーでの転売対策が実施されているとはいえ、オークションフルセットで150万以上の値がついている。
最高値で300万とかしてたかな?
まぁ、元々80万する機材だから。数倍程度だからあり得る範囲内だけど……
家庭用ゲーム機としては悪い意味で破格だ。
「第2陣というべきかな?2次生産の販売が開始されたんだよ。君があれほどの技術を手に入れたゲーム、是非プレイしてみたい。娘も興味あるみたいでな」
「ああ、あのゲーム、調べたんだけど、料理の手順で味が変わるし、材料も現実と変わらない。なによりいくら作って食べても金や物の消費がない。料理の練習には理想的なんだ」
親子でプレイか……2つで定価160万。
よく金あるなと思ったけど。
家見れば分かるか。
金持ちだよなこの人。
「そうだ。それに娘には護身術を学んでもらいたい。君が学んだ事を娘にも教えてやって欲しい」
「ああ、なるほど」
合点がいった。
前に娘さん襲われてたし、確かに心配だろう。
ヤンキーだと思ったけど、金髪は地毛でハーフ?なのか顔もかなり整ってるからね。
変な奴に付きまとわれたとしても納得できてしまう容姿だ。
それに、あのゲームは最低限の護身術を身に着けるなら最適だろう。
「でも、すいません。お断りします。僕は人に教えるのが苦手なので……」
ま、それはそれ。
僕には関係ない。
自己責任で宜しくデスネ。
「うん。そういわれると思ったよ」
ハゲはそう言ってニッコリ笑う。
笑顔が凄く怖い。
でも、ここで引く気はないからね!
なんかあったら大声出すからね!
助けて~!!だれか男の人~~!!って叫ぶから!
それくらいの覚悟は出来てるんだから!
「だが、二つ目のお願いだ。これを聞いてから判断してほしい」
少し間をおいてハゲは言う。
僕は少し身構え、いつでも逃げられるようにいざというときのルートを確認する。
「君に娘の大学の送迎を頼みたい。こう見えて娘は大学1年なんだ」
は?そんなお願い聞くわけないでしょ。
アホなの?
「すいません。それはちょっと難しいかと……」
「まぁ、聞いてくれ。娘は美人だ。それもとびきりの」
はいはい。ソウデスネー。
美人デスネー。
だから何?
僕には一切関係ないですね。
「そのせいか、色んなやっかみを受ける。こないだの件もそうだ。親としては心配しかない。だから君に護衛についてもらいたい。この件は娘も説得済みだ」
「いやいや、私だってこれだけ美人の娘さんに何するか分かりませんよ?」
「あ”?」
「すいません。嘘です。すいません」
こわっ!!
何あの”殺すぞ?”みたいな目。
恐喝だよ、恐喝。
冗談でも口にしたらダメな奴だ。
え?もしかして詰んでる?
これ引き受ける以外選択肢無いの?
「まあ、一理ある。娘は美人だ。だから君なんだ」
「はい?」
なんでだよ。意味が分からない。
手を出したら殺しやすいから……とか、そういう理由?
やめてよね。本気で戦ったら僕が勝てるわけないじゃん。
「君のプレイしているゲーム。あれはアイ君の様なサポートAIが全員に付くだろう?当然、そのサポートは我が娘にも付く。となればAIに監視してもらえばいい」
「お任せ下さい。私の相棒が何かすれば、私が即座に通報します」
「うん。こういう事だ」
は?
何勝手に返事してるの?アイ君。
これね、断る感じの奴だからね。
なにトチ狂ってハゲに味方してるの?
その辺匙加減間違えないでね。
アイ君が1万円以下だったら叩き壊してる所だからね?
「だが一つ言っておくぞ。もし本当に娘に手を出せば、私と君でルール無用の殺し合いだ」
うーん、馬鹿なのかな?
僕に一切のメリットが無いじゃん。
やりたくもないし、勘違いされたら殺されるんだよ?
ここは……折れずに笑顔で断り続けるしかないな。
後から死ぬより数倍マシだ。
「すいません。僕には」
「君は今無職だそうだな?」
断ろうとした瞬間、言葉を遮られた。
「いつまで無職でいる気が知らないが、間が空けば空くほど再就職しにくくなるんじゃないか?」
「……そうですね」
その通りだ。反論しようもない。
だけど、今は働く気になんてサラサラなれなかった。
後、2-3年はこんな自堕落な生活を続けていたい。というのが本音だ。
「もし娘を無事卒業まで護衛してくれれば、君に就職口を斡旋しよう。まぁ米軍基地での勤務になるが年金も出る。日本の様なサービス残業もない。私がいうのもなんだが環境としては悪くない」
「でも、軍人なんて僕には……」
凄く魅力的な誘いだけど。
軍人なんて無理だ。
絶対やりたくない。
「安心していい。施設を運営するただの事務員だ。そこに捻じ込めるだけの権限は持っている。年収は最低でも600万。勿論昇給もある。残業もほぼ‥‥いや、確実に無いな」
え?軍人じゃなく事務員?
それって普通の仕事なの?
「日本の米軍基地での勤務は、通常の日本の求人と比べても非常好条件ですね。問題ないかと」
アイがアドバイスしてくれる。
マジで?娘さんは大学1年で……。
後3年後には卒業。
そして卒業すれば僕は米軍基地で事務員……。
「娘が授業の間はトレーニングでもすればいい。大学の施設は申請すれば使いたい放題だ。どうだ?娘の護衛とゲームプレイ協力。頼めないか?」
「一命に変えても、マスター」
気が付けば僕はアレク大尉に膝をつき頭を下げていた。
「では、新年から娘の護衛を頼む。今年はもう冬休みに入っているからな。私も休暇に入っている」
「承知しました。僭越ながら免許も持っておりますので、車さえあれば車での送迎も可能です」
「わかった。こちらで用意しておこう」
「畏まりました。お嬢様。これから宜しくお願いします」
「だれがお嬢様だ」
お嬢様から白い目で見られてるけど関係ねぇ!
うひょー、これで就職口もゲットやで!!
いやー、マスターが話の分かる人で良かった。
今日は帰って祝杯をあげよう!フゥー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます