第3話  詐欺と入信


「にゃふー、料理ギルドに登録かにゃ?今日24人目だにゃ!」

「えっ?」



ギルドに入った途端、猫耳の獣人が目の前に文字通り飛んできた。



「にゃ?」



猫の仕草を真似てなのか、猫手に首をかしげる。


これは……あざとい。

絶対演技してる。



「AIだよね?キャラ濃すぎない?」

(これはテスト時代から運用されているAIですね。既に固定された性格が染み付いているようですね)

「なるほどね、既に人と関わってしまった末路がこれか……」



本当に人の業は深い。

人と関わる事で、AIをこんなにも拗らせてしまうのだから。



「あの、料理をしたいんですけどどうしたらいいですか?」

「にゃ?材料はあるのかにゃ?」

「ないです」

「なら、まず隣の釣りギルドに寄って釣り竿を借りてくればいいにゃ。後の道具はここにある道具を使っていいにゃ」



確かに一通りの器具はそろってる。

厨房といっても問題ない。むしろ数の多さを考えればそれ以上だ



「材料を釣ってくればいいんですね?」

「そうにゃ、釣れたらこの場所で料理すればいいのにゃ!」



しかし、にゃーにゃー、ちょっとイタうるさいな……

どう関わればこんなキャラになるんだ?


うん?待てよ。

人と関わった事でこんなに拗らせたのなら、また逆もあるんじゃないか?


元のNPCの様に元に戻る可能性もあるんじゃないか?

でも、どうすれば元に戻る?


うーん、分かんない。


……はっ!そうだ!

僕と同じ気持ちを分かって貰えばいいんだ!


そうと分かればすぐに実行だ。

今ならまだ元に戻すことが出来るかもしれない!



「にゃにゃ、早速やってみるにゃ!!」



僕も負けじと猫手を作り、顔の横に添え、少しだけ首を傾ける。


フフフ。

完璧だ。


恐らく凄く気持ち悪いと思うが、その僕の姿を見れば学習するはずだ!


これはキツいと!



「真似するにゃ!」

「いやにゃ!」



ほらみろ!

効果は抜群だ!


嫌がってるのがモロ顔に出てるじゃないか!



「いやったら、いやにゃ!」



僕は精一杯あざ……可愛く振舞う!



「やめるにゃー!!」

「いやにゃーー!」



僕のキモ……可愛いはずの仕草。

それを僕は何度も何度も繰り返す。


その内に、猫耳の獣人の耳は垂れ、下を向き、大きく息を吐く。



「おい、ヤメロや。うちの事馬鹿にすんなや。マジで」

「えっ?あっ、すいません……」



肩にポンと手が置かれ、ギュと握られる。



「〇すぞ」



耳の側でそっとささやかれる。

痛い……あと、怒り方が反社!

滅茶苦茶怖いわ……


普通に怒られるじゃん。


確かにこんな風に人のプレイを真似したら、怒るかもしれないけどさ‥‥

”も~、ダメにゃ!!”とか可愛く言うんじゃないの?


滅茶苦茶リアルに……普通に怒るやん。

そこまで再現するの?AIって……



「にゃ!材料から採取すれば全てただにゃ!」



え?今までのやり取り、無かったことにするの?

そういう仕組みなの?


でも、ここは合わせよう。

本能が従えと言っている。



「はいっす。すぐ行ってきます!」

「頑張るにゃ!」



もう、出来るだけ関わらないでおこう。

絶対あれやべぇ奴だよ。





「はいよ、これが釣り竿だ。餌もつけておく。無料で貸すのは初回だけ。覚えておくんだな」

「ありがとうございます」



竿を受け取り、礼を言う。

うーん、強面のおっさんの方が親しみやすいとは。


なんていうかね。

あざといのは裏表の落差が激しいと思うの。



「さて、気を取り直して釣り場、釣り場」



まぁ、考えても仕方ない。

切り替えていこう。

幸いこの辺りは水路が張り巡らされ、釣り場には困らない



「早速だけど何処で釣れるかな?」

(申し訳ありませんが、そういった情報は、現在は開示されておりません)

「なるほどねぇ」



まぁ、それもそうか。

そんな情報すぐに調べられたら面白くないもんな。


ま、適当にその辺に糸垂らせば釣れるでしょ。

そんな安易な気持ちで、餌をつけてポイと釣り糸を垂らす。


………


……




「全然釣れない」



もう、30分はボーっとしてる。

いいのだろうか?せっかくのプレイ時間をこのまま無駄にして。


そういえば、プレイ時間の上限もあるんだよな。このゲーム。

ダメじゃん、これ。



「……もうやめるか」



釣りは辞めよう。

そう決めた、その時だった。



「来たー!」



初だ!初めての当りだ!


落ち着け、強く引きすぎちゃだめだってテレビで言ってた!

魚の動きに合わせ格闘する事数分。



「釣れたー!!」

(おめでとうございます。これはマブナですね。情報を公開しますか?)

「は?公開?」



何?公開って?

どういうことなの?



(はい、何処で何が釣れた等の未登録の情報は、公開する事で、ユーザ間で閲覧可能なデータベースを構築出来ます。もちろん秘匿するのも自由です。但し未登録の情報を公開すると釣りギルドの貢献度が上がります)

「ああ、なら公開していいよ。ちなみにその情報はアイも見れるの?」

(はい、その情報を参照しプレイヤーに伝える権限は有しております)

「なるほどねぇ。もっと釣りを頑張れば、釣りギルドに貢献出来そうだけど、もういいや」



飽きた。

その一言に尽きるもの。



「それより料理ギルドに戻ってこいつを料理してやる!」



勿論あのギルドの猫獣人に見つからないように。

あいつは本物の猫を被ってやがるやべぇ奴だと、本能が告げていた。






「うっ……」



魚を捌く。

それが想像以上に……糞リアルだった。


匂いこそないけど、内臓や骨、血、全てが完全に再現されてる。

魚なんて捌いた経験がないから余計だ



(この動画のとおりやれば出来ますよ。頑張ってください)



しかもリアルにフナを捌く動画まで真横に見せられて……

動画サイトの”ontube”の所有者が”geegle”だからって動画の使い方が荒すぎじゃないですかねぇ……



「ヌルヌルして気持ち悪い……」



臭いがあれば吐いてたな……

それでも、我慢に我慢を重ね。

何とかマブナを3枚に卸す事が出来た、ちなみに3回ほど指に痛みが走りダメージを受けたことは秘密だ。


出来た切り身を綺麗に水洗いして。

形は悪いけど早速それをスライスして刺身で、一口。


さぁ、初めての食事!

お味は!!



「まっず!!」



泥臭い。

ガムみたいな歯ごたえ。

かすりも上手くない。



”Status down”



しかもそんな文字が目の前に浮かび上がって消えた。



「え?今度は何?」

(残念ながらその切り身には寄生虫がいたようですね。感染し、状態異常になりました。”show”パラメータ、もしくは”show”ステータスで内容を確認できますよ)



まじかよ、そんな所まで再現する?

必要ある?


だれに需要あんだよ……



「……”show”ステータス”」


 状態 


 寄生虫感染 ←New

 (速度低下 小 / 食事効果減少 大 / 継続プレイ時間減少 大)



なんだこれ?

バッドステータス付きすぎでしょ!



「特に継続プレイ時間減少って何だよ!」

(連続プレイ可能時間が2時間減ります)



馬鹿じゃねぇの?!

バットステータスでプレイできなくなるとか最悪じゃねえか!

こんなん、すぐに解除しないと。


普通のプレイヤーなら1時間しかプレイ出来なくなるやん!



「ど、どうやって解除するの?」

(特定のアイテム、もしくは教会等に行くことで改善可能です。尚現状回復アイテムの販売は確認されていません)

「なら、教会!すぐ行く!一番近いところを出して!」

(畏まりました。案内を開始します)

「うん、宜しく!」



なんかなぁ。

普通のゲームと違い過ぎて困惑する。


これ、サポートが無かったら詰んでる。

AIありきのゲームだと再認識させられた。





「嘘だろ……ここ廃墟じゃん……」

(ここが一番近い教会です。他を案内しますか?)



うーん、何処でもいいんだけど、流石に廃墟はな……

このゲーム変な所もリアルに再現してるから、ロクな目に合わなそうなんだよなぁ。



「悪いけど違う場所に案……ヒッ!」



後から腕をガッと捕まれた。

ゆっくりと振り返れば、青髪の女性が僕の腕を掴んでいた。


これは……恐怖しかない。



「入信希望者ですね?!」



目をキラキラに輝かせる女性。


ん?待てよ。

蒼い髪に整った顔。

それに、スラっとしたプロポーション。


白い神官服に身を纏い、神に仕えるシスターの様な見た目。


NPCだよな?

リアルにこんな人がいれば普通にアイドルだよ。



「いえ、実はステータス異常にかかってしまって、それを解除して頂きたくて」

「なるほど、それは辛いですね……」



自然と言葉が出てきた。

さっきまでの動揺は心の底にコンクリートに詰めて沈めてきたよ。


とても心配そうに、その女性は僕の手を握ってくる。

当然、悪い気はしない。



「私はこの神殿の長をしておりますミラと申します。それでは、入信という事で宜しいですね?」



うん?

なんかおかしくない?


会話成立してないよね?



「いや、状態異常を解除したくて」

「入信すれば解除できますから!」



いやいやいや、会話通じねえよ?



「入信はちょっと考えて……っ痛」



え?なんか握られた手が痛いんですけど……

ギチギチと悲鳴あげてるんだけど……


あの、ミラさん?あなたが握っている私の手悲鳴あげてますよ?



「入信していただけますね?」



何で笑ってるの?

後、痛い!

どんどん痛みが強くなっていくよ?!


ヤバい!ヤバい!



「ちょ、アイ助けて!」



反応なし?!

え?もしかしてこれ戦闘中!?



「大丈夫です。今入信すれば、総資産の半分の寄付で入信できますから」



まって!何も大丈夫じゃない。

総資産の半分とかヤバくない?


現実でもここまで外道な詐欺は無いよ?

あ、手がバキバキいい始めた、ヤバい、ヤバい!



「わ、わかりました。入信します、しますよ!」

「わぁ!ありがとうございます!」




パッと手を放し驚く女性。


わぁ!じゃねえよ。完全に脅しだろ。

あっ、握られた手が動かない……




「では、早速状態異常を取り除きますが、どんな症状でしょうか?」

「いや、なんか寄生虫に感染したらしくて、後今握られた手が腕ごと動きません……」

「プッ。わかりました、いま治療します」



おい、今こいつ笑っただろ……

こいつも間違って成長した個体だろ。


ただ、そんな僕の思いを無視し、女性はゆっくり目を閉じ祈りを捧げる。


すると黒いモヤが僕を包み、その霧は染み込むように体内へと消えていった。


なんかもやっとする。

普通さ、回復ってさ、体が白く輝いたりしませんかね?


なんで黒い靄だろうね。



「……"show"パラメータ 」

「あー!なんか分かります!女神の奇跡を信じてませんね?!」

「エーナンノコトデスカー」

「この……」



あ、明らかにムカついてなるな。

でもね、こっちだって同じ気持ちだよ!


手を潰され、総資産の半分を渡す約束をさせられ、不信感で一杯だよ。


いい機会だ。

AIには分からんだろうが、日本には建前と本音があるのだよ。

まあ、せいぜい学習して、次の糧にでもしてろっと。



「さて」



目の前に表示された詳細を見る。


******************************************


 ■個体名:リリィ 

 

  Lv1

  HP:37

MP:20


アーツ

  なし


 称号

  ビギナー 

  邪教の信徒←new


 状態

  左腕破損←new


******************************************


え?

HPの減り凄くね?


現実なら折れてるでしょ……あ、破損って出てる。

折れたから動かないのか……


まあー……

確かに、状態に記載されていた寄生虫の文字は消えている。


ん?


ちょっと待て。

なんか見慣れない文字が追加されてる。


もう一度確認する……


******************************************


 称号

  ビギナー 

  邪教の信徒←new


******************************************


「オイ!邪教の信徒ってなんだよ!」

「エー、ナンノコトデスカー」



くっそ!

こいつ!!



「なんだよ、これ……アイ説明してくれ!」

「ぷぷっ、いきなり叫んでオカシクなってしまったんですかー?安心してくださいね、我が教徒になった以上、私は見放しませんから」

「黙れ!この邪神!」

「……邪神?この美しく可憐な私が?」



評価のフリーフォールかな?

最初見た目で高かった評価が、物凄い勢いで落ちていくけど。


あと、可憐では絶対にない



「良いでしょう。少し護身術を教えて差し上げましょう」



あ、やばい。

腕掴まれた。



「いやっ、大丈夫かなーって」

「遠慮はいりません。所持金の半分で特別授業を体験させてあげますから」



嘘だろ。

まだ金取るのかよ。


逃げようにもガチガチで動ない……

左腕も折れたままだし……



「奥の道場が空いてますから。ほら行きますよ」



首を掴まれ僕は強制的に連れられて行く。

逃げようと、暴れたが無駄。


どんなに力を込めてもビクともしない。

悪魔に運ばれる様な絶望感を味わうだけ。



「いやっ!!た、助けてアイー!!」



僕の魂の叫び。

ただ、それはむなしく虚空に消えていくだけだった。


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