第2話 新しい世界で初プレイ
「登録完了となります。現在、リリィ様が受けられる一覧はこちらとなります」
「なるほどなぁ、生産系もやってみたいけど、やっぱり今は討伐クエストを受注するか」
僕は今冒険者としてクエスト受注する窓口に来ている。
初めての戦闘を味わいたい!とアイにリクエストした結果。
ここを案内された。
「巨大猪の討伐ですね。畏まりました」
「なんかアイと同じような反応だな。皆こうなのか?」
受付員はなんていうか、アイと変わらない口調だった。
普通のゲームだと、個性を持たせるじゃないですかー。
そういうのは無いんですかね?
(今後の学習によって差異は出る可能性はあります。しかし、サービス開始から1時間も経過していない現時点では全て同じという認識で間違いありません)
「おぉ?今後プレイヤーと関わって違いがでるって事か、それも面白いな!」
それは新鮮だな。
いつも同じ言葉の繰り返しじゃ確かに飽きるもんな。
「リリィ様は初クエストとなりますので、武器の貸し出しが許可されておりますが、いかがいたしましょう?」
「ああ、貸して。今何もないから」
「畏まりました。リリィ様に貸与可能な一覧を表示します。なお、戦闘不能時には貸出武器は自動で回収されますのでご注意ください」
そういって受付嬢は紙に書かれた一覧を示してくれる。
-------------------------------------------------------------------
■貸し出し武器一覧
・片手剣
・大剣
・槍
・鞭
・短剣
・弓
・棍
・杖
・斧
-------------------------------------------------------------------
「おぉ、じゃあ槍貸してくださいー」
「はい、こちらになります」
うお?今何処から槍を出した?
いきなり空中に槍が出てきたように見えたけど。
ま、ゲームだからな。
気にしたら負けだ
槍を受け取り、僕は冒険者ギルドを出る。
「しかし、凄いな重さまで感じるのか」
(ええ、余談ですが、インベントリに武器を収める事も出来ます。インベントリに収めれば、重さを感じる事はありません。インベントリに収められる上限は体重の10%が上限となっております)
「おぉ?重さでアイテム量が決まるのか、微妙にリアルだな。じゃあこの槍も収められるのか?」
(無理ですね。現状インベントリに収められるのは6.5キロまで。対して槍の総重量は5.5キロとなっておりますが、既に初期アイテムで5キロのアイテムがインベントリ保存されてます)
「まじで?どうやって見るの?」
(基本的に”show”という単語を使用します。開発時の主言語が英語となりますので、英語に最適化されています。例えば、インベントリを見る場合は”show inventory "レベル等のパラメータを見る場合は”show level parameter ”と発言してください。このゲームでは音声による操作が基本となっており、何か見たい場合はその対象に”show”を使用する事で実現できます。これらの設定はネットワーク機器のコンフィグレーションを確認する際に使われる言語を参照しており、設定する場合などは……)
「ああ、いいです!間に合ってますぅ~」
すげぇ喋るな。
AIだから加減が分からないのか。
有益な情報だけど長くなるのは勘弁だなぁ。
あと、魔法みたいに言葉にするのはなんかちょっと恥ずかしいな。
「ま、その前にっと」
手に持った槍を背負い、胸の前で槍を支えるための紐を結ぶ。
これで両手が自由になった。
「show パラメータ 」
そう言った途端、目の前に青いウィンドウが表れた。
(これは他の人から見えません。また、ログアウト後でも私に指示いただければ表示する事も可能です)
ほぇー。なんかよくわかんなけど、凄そう。
まぁ、いいや。
確認しよ。
■個体名:リリィ ←New
Lv:1
HP:100
MP:20
アーツ
なし
称号
ビギナー ←New
え?これだけ?
なんかもっとあるよね?
職業とか、ステータスとか。
なんもないよ?コレ
「あの、表示される項目ってこれだけなんですか?」
(はい。アーツは増えていく可能性がありますが、レベルにより設定できる上限がきまっており、現在リリィが登録出来るアーツは3つが上限です)
「え?他に増える項目は無いの?アーツって何?」
(HPとMP、称号は増えます。アーツというのはプレイする行動によって覚える特技の様な物です。また、筋力や素早さなどは現実世界の体を参照し値が決められますので、ゲームの行動では一切変化しません)
アーツはスキルみたいな物か。
にしても、少なくない?
スキルとHP、MPしか増えない。
ステータスは完全固定とか、ロマサ〇かな?
「他は増える物はないの?職業とかジョブとか」
(現在の所ありません。運営が必要と判断し追加しない限りは)
「マジかよ……運営大丈夫なのか?」
どうやって成長するんだ?
武器とかの熟練度とかも……
ああ、そっか。
実際に武器とか獲物を使い続けて熟練度を上げる訳か。
これはきっとレベルとかに縛られるゲームじゃないのね。
(このゲームの初期構想は人が行っておりましたが、その後の全て開発・拡張はAIが実施し、調整、運用もAIによって実施されております。必要であればデータの裏付けを行いリアルタイムで調整が入ります。ご心配は杞憂かと)
すごっ。
運営も完全AIかよ……
聞けば聞くほどなんか開発費凄くかかってる様な気がするんだけど。
「これだけのシステム、完全無料でやっていけるのか?凄い金かかってるだろうに」
(開発費に関してはデータがありませんので、回答できませんが、完全無料の理由については簡単にですが説明が可能です。必要でしょうか?)
「ああ、頼む」
単純に興味がある。
こんなの数億レベルじゃ作れないぞ。
(このゲームの目的はAIとプレイヤーとの交流によるデータ採取とAI能力の発展が第1目的となります)
「第1って事は、第2もあるのか?」
(はい、第2の目的は、ユーザの現実世界での技能向上となります。このゲームにおいて生産と呼ばれる作業は全て人の手で実施して頂きまます。例えば、魚の切り身を取得する場合、魚を採取したのち、刃物を用意し、現実世界と同じ様に捌き、初めて切り身が得られます)
「え?なんかモンスターその倒したらキラキラ光ってアイテムだけが残るとか」
(ありません。その為のレーティング仕様です)
え?って事は、もし今受けているクエスト対象のイノシシを倒したら、解体しないとアイテム得られないの?
嫌だよ?そんなの。
そんなんできないじゃん。普通。
「なんでそんな面倒な事を……」
(少し長くなりますが、よろしいでしょうか?)
「ああ、お願いできる?」
なんでこんなゲームを開発したんだ?
目的が分かんないよ。
(かしこまりました。まず、前提としてこのゲームはユーザから集金するビジネスモデルではありません。ユーザを必要不可欠な要素として認識しています)
「はぁ………」
うん?既にね。
よくわかりませんね。
(では、どのように開発費を回収するか?という話になりますが、いくつかのビジネスモデルが設計されています。まず、先ほど申し上げた通り、AIの進化に必要なデータベース作る。これが当初の目的です。現在、労働力減少に伴う代替としてAIが必要とされていますが、細かい人の機微を感じとることは出来ておりません。それを補完するため、このゲームが生まれました。ゲームを通じより密接に長い時間、人と付き合い、学習する。そこで得たデータを生かし、AIを新しい次元に引き上げ、新規の労働力として売りに出すことが一つ目の目的となります)
「はぇー」
あっ、お水綺麗~。
キラキラ光ってお魚さんも楽しそうー。
(2つ目ですが、技術習得の教育資料としての役割があります。このゲームの生産行動は全て現実に即して作成されています。例えば、先ほど申し上げた料理などは、現実と変わらない手段で作成すれば、ほぼ同じものが出来上がります。つまりここで得た技能は100%まで。とはいきませんがある程度、現実にフィードバックされます。そのデータを取りゆくゆくは、対企業の研修、特に育ちにくいとされている林業や農業の第1次、2次産業)
なげぇ!!!
もういいよ!
そういえば、君は話長かったね!
さっき知ったのに、忘れてたよ。
聞いた私が悪かったよ!
「ああ!ごめん!わかったから、一旦ここまでにしよ」
(分かりにくかったでしょうか?)
「いや!とっても分かりやすかったよ。でもほら、クエスト行かないと、混んでも嫌だし」
(……なるほど、これは失礼しました)
「いやいや、こっちこそごめんね。急に説明させちゃって」
気まずっ……
なんだろう、あまりにも会話がスムーズ過ぎて、人と話していると錯覚するわ。
「ま、クエストこなしに行くか!」
(はい、では町の外まで案内します)
すぐに僕の前に光の筋が出来ていく。
これなら迷うこともない。
お世辞抜きでこのゲームのAIは他のAIとは違う。
次世代のAI。
そんな感じがビンビンに伝わってきた。
■
緑に萌える森林。
そよそよと靡く風。
それに合わせて木漏れ日がユラユラと揺らぐ。
やわらかい土に、苔の生えた倒木。
匂いを感じないのが惜しい位だ。
「お、キノコ生えてる」
本当に森を散策している気分になる。
キノコ狩りでもしてるみたいだ。
ん?そういえば、こういうのって採取出来るのかな?
普通に食べられそうだけど。
「ねぇ、採取出来るの?」
(出来ますよ。土であれ水であれ何でも可能です)
あ、ほんとだ。
軽く毟るだけで、キノコ取れた。
「ねぇ、この世界に毒キノコとかあるの?」
(あります。現実世界の食物に似せて構築している為、現存する物は殆ど存在すると思ってください)
やっぱ無駄に高性能だよね。
現実世界のシュミレーションとかも出来そうだな。
でも、これなんのキノコだ?食えるのか?
(鑑定しますか?1日3回まで私が代理で人や物を鑑定可能です。対象を手に取りappraiseと言ってください)
「え?なに?あぷれーずん?」
(アプレーズです)
「あ、鑑定という単語ね。すっかり忘れてたわ」
受験とかで覚えた単語って単語として聞かないから分かんないんだよね。
そんな言い訳をしながら”アプレーズ"と言おうとした瞬間。
ガササ。と、後で物音がした。
「おぉぅ!」
慌てて振り返れば、角の生えたウサギが草むらから飛び出して逃げていった。
生物は流石に現実と違うみたいだな。
そこはファンタジーなのね。
コホン。
小さく咳払いし
「改めて、鑑定を”アプレーズ"」
(これはツキヨタケ。毒キノコの一種で、全キノコ中毒の80%を占める”キノコ中毒御三家”と日本では呼ばれています)
「毒キノコじゃねぇか!」
(よく間違える種類と記録されていますね)
「どうやって見分けるんだよ……」
(似ているとされる無害のキノコ画像を出しますので、比較してみてください)
ブゥンと目の前に写真が浮かび上がる。
それは現実世界の写真で、たぶんだけど何処かのサイトから引っ張ってきたような絵だ。
というか引っ張ってきたな。独自のブラウザだが上にURL書いてあるわ。
まぁ、それはいいわ。
役に立つなら何でもいいけど、見分けるポイントは……。
「見分けつかねーよ!なんだよ、傘が少し長いとか微妙過ぎだろ!」
初見殺しもいいとこだ。
もっといいサイト持ってこい!って
ブルルッ
「えっ……」
つい叫んでしまったが、背後から確かに聞こえた。
ブルルッという獣の声。
そして、地面をイライラしながら弾くような音が……
僕は、恐る恐る振り返る。
「イノシシ!しかもクソデカい!」
尖った牙と剥き出しの戦意
2メートルをゆうに超えている体躯
思わず2,3歩下がってしまう位の迫力があった。
「戦う気だよな」
イノシシは肯定するように、前足で地面を蹴る。
逃げられない。
そう覚悟し、僕は胸の前で縛った紐を外し槍を構える。
「おっと」
槍の重さでバランスが崩れる。
しっかりと足を踏みしめ、槍を構え直す。
「逃げる?いや、初めての戦闘か……」
正直怖い。
でも、ここは初期エリア。
素人でも勝てなくはないはずだ。
小さく息を吸い、そして大きく吐く。
「よし!こい!」
声をあげると同時に、イノシシが真っすぐ突っ込んできた。
やばい、リアルすぎて脚が震える。
だって、2~3メートルもある巨大なイノシシが突っ込んでくるんだよ?
現実なら腰を抜かしてるよ!
でも、これはゲームだ!
自分に言い聞かせる。
そして、僕は恐怖を振り払う様に雄たけびを上げ、槍をイノシシの頭目掛け一直線に突き出した。
ザンッ!
確かな手ごたえを感じた。
それと同時に世界が回る。
気がつけば、僕は宙を待っていた。
ゆっくりと回る空、そして遅れて感じる痛み。
その痛みはすぐにかき消される。
ドスンという音と共に、背中からやってくる衝撃によって
「かはっ!」
衝撃を受け、ゆっくりと目の前が白くなっていく。
ピクリとも動けない。
猪は僕に興味を無くしたのか、ズコズコと森の奥へと帰っていった。
そして、暫くの静寂の後、視界の全てが真っ白になり、浮遊するような感覚が僕の全身を包んでいた。
■
(初めての戦闘お疲れさまでした。リリィ。貴方は戦闘不能となりましたので、町へ強制的に戻されます)
「あー、一撃でやられたのか」
真っ白の世界。
僕はその世界に座っていた。
(見事なへっぴり腰でした。あれでは何度戦っても同じ結果になるでしょう。またクエスト失敗となりましたので、槍は自動的に返却されました)
アイは、僕の死ぬ直前の映像を見せてくれる。
ご丁寧に色々な方向から、分かりやすく。
「あー、こりゃ死ぬわ」
でも、そのおかげでよくわかった。
動画の僕はただのチキン野郎だった。
腰が引け、脚を震わせながら申し訳程度に槍を突き出す。
勝てるわけがない。
その辺の犬にだって負けるかもしれない。
まだ逃げた方がまだカッコいいレベルだ。
もし、これが他人が映っている動画だったら?
決まっている。
”なんだコイツ。ほんと才能ナイ。辞めたほうがいい”って言うわ。
疑う余地すらない最悪な動きだった。
(ちなみに最初の3回は死んでもペナルティはありません。しかし、3回を超えるとペナルティが付きますので、ご承知下さい)
「ペナルティ?」
なにそれ、そんなんあるの?
(はい。ペナルティは、所持アイテムのランダムロストと一定時間の再ログイン不可が強制的に適用されます。所持アイテムロストは、装備を除いたアイテムから1-2点、再ログイン不可のペナルティは、2時間のログイン不可となっております。但し、蘇生のアーツを使用すればペナルティはありません。PKプレイヤーの場合はその限りではありませんので注意が必要です)
「蘇生ねぇ。そんなの使えるのは大分後になりそうだね」
(現在蘇生を使用できるプレイヤーは0ですね)
「でしょうね」
ちなみにこのゲームは運用開始が今日だ。
”蘇生”なんて今日すぐに取れるアーツじゃないだろう。
名前からして上級者アーツだ。
(それとお伝えしていませんでしたが、戦闘中、もしくは重要な選択肢などの選択中は私との会話が出来ません。ご承知下さい)
「ああ、わかったよ。ありがとう。アイ)
(こちらこそ、貴方となら上手くやれそうな気がします。リリィ。では、プレイ再開されますか?)
「うん、よろしく」
また目の前が暗転し、僕は木々と水の反射が美しい街並みに戻っていた。
■
「プレイヤーも増えてきた?ちょっとにぎわって来た感じがする」
(そのようですね、現在オンラインのプレイヤーは2065名ですね。ただ、閲覧者は80万人です)
閲覧者多いな!
プレイヤーの400倍かよ!
でも、まぁプレイヤーが少ないのは納得出来る。
まぁ、このゲームいくら無料だといっても、初期投資が半端ない。
そんな気軽にプレイ出来るものじゃないだろう。
それにまだ組み立てが終わってない人も多いと思う。
まだサービス開始されて間もないし、平日だ。
これから加速度的に増えていくだろう。
でも、閲覧者が多いという事はそれだけみんな興味あるという事だ。
当たりだったかもしれない。
みんながプレイしたいものを自由に遊べる優越感を感じる。
「じゃあ、とりあえず戦闘は置いておいて、次は生産。料理とかやってみたいな。せっかく味が分かるアタッチメントも買ったしね!」
(かしこまりました。では、料理ギルドに向かいましょう。案内を開始します)
「ん、よろしく」
目の前に薄く引かれた光の道。
それを辿るように僕は歩く。
もっと楽しんでやるさ。
実際、今までプレイしていたゲームとは次元が違う。
自分の動きがダイレクトに反映される。
これ以上ない位楽しいのは事実なんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます