第9話 死ぬな押しぃ!
ある日、大好きだったゲームの世界に転移してしまった私は、最初にてんやわんやの大騒動を起こして、牢屋に入れられてしまったぁぁぁ!
だが、そこで出会ったのが、この世の至宝、またの名はイケメン。ウォルド様! いやっふぃ!
ウォルド様は、元の世界でしていた乙女ゲームで、一押し大好きだった登場人物なのだっ!
異世界で超好みの推しキャラに出会った私は、ウォルド様の脱獄に協力(役に立ってはいなかったけど)して、そのまま一緒についていくことにしたのでやんすっ!
※注意 !ウォルド様は、結構な罪をおかした大罪人!
だけれど、私はゲームをやって知っているので、それが断罪されるべき罪だとは思わなぁぁぁい。
その世界ではエルフが迫害されているもんで?
だからだから、その友達を助けようとした際に、不幸な事故が起きてしまっただけなんでいっ!
つまり濡れ衣ぅっっっ!!
だから、私は今日も、そんな優しいウォルド様に、くっつき虫のようにくっついていくのでした。
ちゃんちゃん。
え?
いつもよりテンションが高い?
こんなもんじゃないです私?
『イツハが少し元気ないように見えた。それは私の気のせいかもしれない。しかし気になる。ウォルドは、天使(悪魔)についての対処を考えているため、彼女の違和感に気が付いていないかもしれない。旅の仲間に加わったミュセもいぶかしんでいるが、彼女が行動を共にするようになってまだ時間は浅い。だからミュセは、何も言わないでいるのだろう』
物語の中盤。
天使の神殿に行って、世界の真実を知ったウォルド様。
天使に成り代わった悪魔のしわざでエルフが迫害されていると知ったウォルド様は、天使(悪魔)の打倒を目的に定めました。
けれど、ここ最近の強行軍が体調に影響したらしい。
私「うぉぉぉぉん、ぶぉるどぉさぁまぁぁぁぁ!」
ミュセさん「おちついて下さい、イツハさん」
ミュセさんにハンカチを借りて、おーいおいおい泣く私。
ウォルド様「おい、うるせぇって。そんなに泣くな」
大変残念なことに、旅の中でなんかよくない病をもらってしまったのか、ウォルド様が倒れてしまったのだ。
宿のベッドの上に、いつでも超然としていたあのウォルド様が弱々しい姿で……。
熱がある。
覇気がない。
汗かいてる。
汗かいてる姿も色気があって恰好いい! それどころじゃなくて。
ウォルド様「あー、なんか物が二重に見えるな」
ミュセさん「しばらくは動かない方が良いですよ」
ウォルド様が、なんか朦朧としてる。
やばぁぁぁい!
私「うぉっ、ウォルド様がしぬぅっ!! 世界が終わるうっ!!」
ウォルド様「終わるかよ。縁起でもねーこと言うなって、てかうるせぇから眠れねー」
私「寝ちゃだめですぅ。眠ったら、きっと目を覚まさまないーっ。ぴぎゃー」
ウォルド様「あんた、ほんとに女とは思えねぇリアクションするよな」
ともかく、この世の終わりが来たかと思った。
けれど、病人の横で騒ぐことが良くない事だとは、私でも知っている。
ミュセさん「心配なのは分かりますが、今は静かに眠らせてあげましょう」
だから、ほどほどにしてその場から離脱っ(泣)!
ウォルド様が寝ている部屋を出て、私は決意した。
なんとしてでも治療せねば。
私「私は決意した!」
ミュセさん「はぁ、えっと何をですか?」
人類の至宝、至高のイケメンをこんな、ばっちい病でなくすわけにはいかない。
私「病気を治すには、名医!」
だから私は、ファンクラブシステムを起動して、全世界のウォルド様ファンに語り掛けた。
ミュセさん「それが天使さんからいただいたという、すごい力なんですね」
私「ええもう、ものっすごく。便利ですっ。特に携帯もないこの世界ではっ!」
ファンクラブシステムというのは、ウォルド様への愛がなした、奇跡の力。
どこにいようとも、私が布教したウォルド様ファンクラブの会員達に、私の見たもの、聞いたものを届ける事ができるのだ。
遺跡の中で、天使さんからもらった力だお!
見た目は普通のチャット画面っぽい。
けど、ファンクラブに入会した人は、誰でもこのチャット画面を操る事ができるのだ!
私「全国の諸君! 実はかくかくしかじかなのだ!」
というわけで、チャットで大事件を詳しく説明。
各地のファン達に、名医を紹介してもらう事にした。
ミュセさん「天使様の力はすごいですね」
いやー、それほどでもぅっ。
あっ、私褒められてなかった。
情報を提供してもらった私達は、地図とにらめっこした後、移動。
一夜明けた後、ミュセさんと共にウォルド様へ肩を貸しながら、最寄りの町へ向かいましたとさ!
うおっほい。
イケメンの顔が近くに!
なんて、鼻息を荒くしてる場合じゃない。
まじめに。まじめに。静粛に。
荒ぶる私の魂よ沈まれーい!
忙しい内心をカットしながら、険しい道のり(ウォルド様が元気がないからいつもより三倍は険しい!)を進み、半日かけて、次の町へたどりついた。
町について一安心。
と、思いきや。
しかし、ここは名医のいる町ではなかった。
ミュセさん「今はお医者さんがいないみたいですね」
私「なん。だとぅ」
だとぅ。とうぅ。うぅ。(エコー)
マインド攻撃、クリティカルヒット!
私へ一万のダメージ。
ウォルド様をしかるべき場所へ置いて、病院へ向かってみれば悲惨な結果を、目の当たりにっ。
膝から崩れ落ちた流れて、思わず地面とにらめっこ!!
名医は見つかったが、そこにいなければ意味がない。その人は、診療のために他の町に出かけていたらしいし、帰ってくるのも当分先らしい。
追いかけていこうにも、今のウォルド様には、そこまで行く体力がない。
すれ違いになったら骨折り損のくたびれ儲けだ!
というわけで、収穫なしで仮拠点に帰ってきた私は土下座。
私「うぉぉぉう。神よ、仏様よ、とにかく何か様、何でもいいからウォルド様の命を、どうかぁぁぁ」
ウォルド様「いちいち大げさに騒ぐんじゃねぇって。かくまってもらってんだからよ」
で、現在いるところというと、宿屋ではない。
大罪人様ご一行は隠密行動中であるため、気兼ねなくお天道様の下を歩くことができない。
だから、全国各地にいるファン達に協力してもらって、一般人の家にかくまってもらいながら旅を続けているのだ。
今お世話になっているのも、そのファンの一人の家だ。
本来のゲームのストーリーだったら、野宿とか宿暮らしが基本なんだけどねっ。
それやっててもたまに身分がばれるから、初めから友好的な人に協力してもらっている方が、トラブルがなくて良いのだ。
さすが私。
さすが魅力あるウォルド様。
持つべきものはそんなウォルド様のすばらしさを分かりあえるファン一択ですのん!?
ファン「すいませんウォルド様、これくらいのものしかお出しできないで」
けれど、一般の人にできる事は限られてる。
部屋に入ってきた女性から、ご好意をありがたく頂戴。
ちょっと冷たい水をごちそうしてくれたり、ちょっと体にいい食べ物をもらったりした。
でも、それだけでも嬉しいけどねっ。
私「ありがとうございます! すっごく助かります!」
ミュセさんもお礼に晩御飯をお手伝い。けど、私はずっと看病!
せんべいにしちゃうからって。
ううっ。私の役立たずっ。
私「しょぼーん、なのです。ううっ。ごめんなさいウォルド様。大したことができなくて」
ウォルド様「気にすんな。自分の面倒を自分で見られなくなっただけだろ」
はうっ、ウォルド様恰好いい。
手をのばして頭をなでてもらいました。
汗でぬれた髪が肌にはりついている姿も、ちょっとやつれてる姿も絵になる! 色っぽい! 相手を気遣う優しさも、いつもよりストレートでグッとくる!
じゃあじゃあ、気を取り直してご飯は「あーん」をしますね!
ウォルド様「それはいらね」
がびーん!
名医に診てもらおう作戦は失敗。
というわけで、次はお薬の調達だぁぁぁ!
翌朝。
鶏がコケコッコーとなく頃から、頑張ります!
ファンクラブシステム、起動!
私「皆の衆! ウォルド様の症状に該当する病名と、その病気を治す薬の名前を片っ端からあげていくのだ!」
というわけで、今週も他力本願の時間がやってきましたよ。
全国各地にいるウォルド様ファン達の知恵をかりて、どうにか病名を特定。
必要な薬をつきとめた。が。
そうはいかねぇぜ的な展開!
それは、それから半日後に起こった。
私「なん、だとぅ」
ミュセさん「本当に一つもないんですか?」
店主「うむ、今この村では、薬の在庫がきれていてのぅ」
訪ねた小さなお店。薬局にいた仙人っぽいじっちゃんに聞いたら、そんな有様だったのだ。
これじゃ、ウォルド様の病気が治らない!
私「うぉぉぉん、どうか薬をぉぉぉぉっ!」
店主「じょっ、嬢ちゃん落ち着きなされ! むしろ嬢ちゃんの方が薬が必要じゃないでか!?」
おっと、失礼。
uウォルド様、病に倒れるの想像が暴走してmつい取りd乱してしまった。
今の心境を文字列にしたら、きっとこんな見るにたえない事になるだろう。
しかしこうなるのは仕方ない。
ウォルド様が元気ないと、ウォル二ウムとかウォルなんとか酸A・B・Cとかウォルニアーゼとかが摂取できないのだからね!
一蓮托生! つまり私も共倒れさっ!
ミュセさん「あんまり根を詰めないでくださいね。イツハさんが倒れたらウォルドさんが悲しんでしまいます」
大丈夫です!
私、今まで一度も風邪とか引いたことないんで!
あれこれうろたえているうちに、ウォルド様は自分で自分の看病をしだした。
ベッドから抜け出して、鍋をぐつぐつ。
おうちに住んでいるファンの女性はお留守みたい。
おおっと?
器用ですね?
看病役はいらない?
というか私、役に立ってない?
私「ウォルド様! 立ってていいんですか! おかゆなら私が作りますっ」
ウォルド様「パス。お前がつくると、せんべいになる」
私「あれから練習したんですよーぅっ。やわらかせんべいくらいで止まります」
ウォルド様「せんべいにはなるんだな」
のりも巻けますし、しょうゆで味付けもできちゃいますよ!
ウォルド様「本格的にせんべいにしてどうすんだ」
ミュセさん「私の地元にある、ぬれせんべいみたいですねっ」
おや、ミュセさんの地元って和風な地域?
とにもかくもに、助力は失敗。
戦力になるミュセさんだけ残して、私は台所から追い出されてしまった。
ううっ、本格的に役立たずじゃないですん。
扉の前で落ち込んでたら、数分後食器をもったウォルド様登場。
もう完成で?
はやーい。
ウォルド様「なあ」
私「何ですウォルド様。あっしのことは気にせずに、こんなちり紙にもならないごみ屑に話しかけるより、自分で自分の面倒みたほうが、ううっ、有意義ですのん」
ウォルド様「あんたたまに、いきなりテンション下がるよな」
私「自分を客観的に見たらの巻。なので」
けれど、ウォルド様が話しかけてきてくれたのは嬉しいので、傾聴。
ウォルド様「あんたの目には俺はどう映ってる?」
私「イケメン」
ウォルド様「それ以外」
うーん、私の推しは何を聞きたいのだろう。
私「えーっと、推し? あとは……神、唯一神」
ウォルド様「二番目と三番目はたいして違わねぇだろ」
おっと失礼。
するとミュセさんが助け舟をだしてくれました。
ミュセさん「ウォルドさんはイツハさんの事を思いやって、言ってるんですよ」
私「?」
ウォルド様「あんたは俺をことあるごとに評価してくるが、本当に旅の目的をなしとげられるとでも、思ってるのか? こんなざまでよ」
私「……」
ウォルド様は天使(中身は悪魔)に反逆を企てている大罪人である。
しかも、人類の敵であるエルフもかばうという大罪をおかしている。
客観的に見ると、かなり危ない人だ。
一般人なら、間違っても近づきたくないだろう。
けれど、私は真実を知っている。
人間に親切を働いている存在、天使の中身が、実は悪魔だという事を。
人間と手を組んで、人間に慈悲の心をみせながら、エルフと悪魔を滅ぼそうとしている事を。
人類が敵対している悪魔の中身こそが天使で、エルフが迫害されるのはただの濡れ衣なのだ。
けれど、その真実を知るものはこの世界にはあまりいない。
ウォルド様はそんな味方が少ない世界で、敵だらけの世界で、必死に戦っていかなければならない。
彼はいつだって、自分が正しいと思った正義を貫いていた。
大切な友達を助ける。
そんなシンプルな、それでいて大切な願いを抱いて。
けれど、内心自分ひとりでなしとげられるのかどうか不安だったのだろう。
私は、珍しく弱った姿を見せるウォルド様に向かって言う。
こじゃれたことは、何一つ言えないけれど、本心なら言葉が尽きない。
私「私はウォルド様を信じてます。きっと、自分の目標を達成できるって、心の底からそう思っています。だって私が好きになった人ですから。できないはずがないんです」
その思いは伝わっただろうか。
ウォルド様「あんたは本当に、ガキみたいなやつだな。怖いくらいにまっすぐでよ」
ウォルド様は、力の抜けた笑みをみせて、笑いかけた。
おっふ、その笑顔でご飯三杯いけそう。
しかし私、ウォルド様を怖がらせるなんて、いけない女ですねーえ。
ウォルド様「そんでまじめな顔してりゃ、もうちょっといい線いってたのにな」
えっ。何がっ?
もしかした私ルートへのウォルド様フラグが立ちかけてた!?
そんな、まーさかっ。
ともかく、ウォルド様の様子は戻ったようだ。
呆れたような様子で、お手製のご飯をかき込み始めた。
おっと、推しのリラックスタイムですね。
はいけんタイム提供ですか!?
提供ウォルド様の、深夜番組放送ですかっ!(ただし健全)
今いい雰囲気だったし、このまま眺めてても良さげ?
なんて思ってたら、片目をあけて、おでこに指を「あてっ!」デコピンされた。
ウォルド様「食い終わった、食器洗いくらいならできんだろ?」
おっと、お邪魔でした!
これから眠って体力回復ですね。
残念だけど、ウォルド様の完全回復を思えば、仕方ない!
ミュセさんと共に、せっせか動きます!
私「今度はちゃんとしたおかゆ作ってみせまーすぅ!」
ウォルド様「焦がして迷惑かけんなよ」
そんなこんなで数時間後。
起きたウォルド様はすっかり顔色が良くなっていました。
ウォルド様「はー、よく寝たよく寝た」
私「へへっ、ウォルド様、家来がやってきましたよっ。さあ、朝ご飯をどーぞっ」
ウォルド様「おっ、今日は焦がしてなかったみたいだな」
いつも気高く、強くて立派なウォルド様。
でもそんな人でも、体調が悪い時は弱る事があるんですなぁ。
体の不健康は心の病から、なんて言葉もあるし。
画面の向こうの登場人物じゃない。
私の好きな人は、今ここにいるあなた。
ウォルド様は、悩んだり苦しんだりする、一人の人間なんですよねっ。
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