第37話

 「と言う事でよ、お前仕事終わったら来ねえぇか? つーか来い、ぜってぇ来い!」

 『祭てめぇ! お願いと命令、まとめてするんじゃねぇ!』

 「何だ、未来の嫁さんの命令も聞けねぇのかテメェコラ!」

 『うるせぇ、未来の嫁なら、もうちょい女らしく出来ねぇのか!?』

 「何だ!? 俺の口が悪いっていうのかコラ、レイジ!?」

 『言ってねぇだろ、だいたいてめぇはだな……』


 さて、日が真上になった頃、魔王城についた祭はさっそく、魔王城外の扉前でレイジに電話を掛け、そのような会話を繰り広げる。

 だが、そんな会話を聞いた魔王城内のセラティア達は。


 「日本語って難しいんじゃな……」

 「俺もそう思った……」


 改めて日本語と言う言語の難しさを理解し。

 

 「のう、先にダンジョンに行くことにせぬか……?」

 「そうするか……」


 困惑した顔のまま、ダンジョン入り口の蓋を開け、入っていくのであるが、セラティアがそう口にしたのには理由があった。

 

 (うぅ……。 もう、鳥に頭めがけてフンを落とされたり、すれ違った小さい子供に「お母さん! あのお姉ちゃん、あんな格好してるし中二病だよ! あの年で痛々しいよ! もう女性として終わってるよ!」と言われとうない……。 もう被害をなるべく押さえたいんじゃ……)


 ……。


 丸い蓋を開けると、そこにはしっかりとした木のハシゴと土の壁が広がっていた。

 そんなハシゴを二人はカツカツと下っていき、20段ほど下り終えると地面が見える。

 そして、下り終えたハシゴの後ろには。


 「ここがダンジョンの入り口じゃ……」

 「…………」


 何とも不気味な像が置かれた禍々しい雰囲気のダンジョンの入り口がそこにはあった。

 だが、ツカサはここで不思議な感覚に襲われる。


 と言うのも、ダンジョン自体に来るのは初めてなのに、何故か始めて見る感じがしないのである。


 (一体どこで……。 俺、始めて来るはずなのに……)


 だが一生懸命考えてもその理由は浮かばない。

 そんな真剣に悩む顔を浮かべるアキラにセラティアは。


 「どうしたんじゃ? 何か深刻な悩みごとでもあるのか?」


 と真顔をコクりと傾けつつそう訪ねる。

 

 「実は見たことある感じがするんだよ、このダンジョンを……。 だけど俺、ダンジョンに来るのも初めてだしさ……」

 「それはきっと夢で見たのではないか? そして、それに偶然近い構造をしていたと……。 そういうところじゃろ」

 「そんなもんかなぁ……」


 だが、それでもアキラの表情を変えることはできなかった。

 それははっきりとした根拠があるわけではない。

 だが、はっきりとしない根拠があるのだ。


 しかし、いつまで考えても答えは出そうにない。

 そのため彼は。


 「とりあえず、俺は先に潜るよ。 だから援護頼む! あと、先生にもよろしく頼む」


 そう言って白い煙へ飲み込まれていくのであった。


 …………。


 アキラの後ろに白い煙はなくただの壁だった。

 動画で知っていた事だが、どうやら本当にダンジョンは一方通行のようだ。


 回りは昔の炭鉱のよう、薄暗い空間を見渡してみると、古びた線路やトロッコが放置されている。


 「へへっ……!」


 それはダンジョンに潜るワクワク感が合わさったアキラの少年の心をくすぐるには十分だった。

 だからアキラは錆びたトロッコに押し、動くかどうか試みる。


 ギギ……。


 僅かに動きがある。

 そしてアキラはトロッコに乗ろうとした時。


 「お主、何やっとるんじゃ……?」

 「うわっ!?」


 アキラはビクッと驚いた拍子に、トロッコの中へ頭から入り込んでしまった。

 そして頭を出し、声の方を見てみると。


 「全く……言っておったじゃろう。 ワシも分身でダンジョンに潜ると……」


 まるで小さな人形になったかのようなセラティアがそこに立っていた。

 これがセラティアの言っていた支援の正体である。


 それははっきり言って、死にたくない故の安全策であるが、それでも手伝おうとする気持ちはあるのだ。

 それを悪く思う者はアキラ達の中にはいないだろう。


 さて、トロッコから軽く汚れた顔を出し、そんなちっちゃなセラティアを見たアキラは。


 「お前、急に声をかけるなよ! ビックリしただろ!」


 そう大声で文句をセラティアへ送るのだが、それが良くなかった。


 「ん? お、おい後ろじゃ!」

 「グォォォォォォォォォン!」

 「ん? ぐえっ!」


 その大声は薄暗い闇に紛れる蜘蛛の化け物を呼び寄せる結果になったのだから……。


 …………。


 「……もしやお前、迎えに来たのか?」

 「違いますってレイジさん……俺死んだだけですって……」

 「だよなぁ……」


 アキラが起き上がると、そこには腕を組んだレイジがそう語りかけてきた訳だが。


 「レイジさん、迎えってどういう事なんです?」


 レイジの言葉が気になったアキラは、ふとレイジにそう訪ねる。


 「実はな……、祭に押しきられる形で『魔王城に来い!』って言われたんだが、場所わかんねぇから『場所わかんねぇぞ!』って言ったら、アイツ『待ってろ』って言うもんだからよ……」

 「なるほど……」


 どうやら、祭の言葉が原因でそう思ったご様子、レイジも頭をかきながら、少々照れ臭そうにそう語る。

 だがここで、レイジはとある事を思い出す。


 「あ……、お前ちょっと待ってろ」

 「ん? 何です?」


 レイジはそう言って奥へ行き、何かを探し始めたようだ。

 アキラは奥でガサガサ音がする間に棺桶を抜け出し、協会の長椅子に座って待つことにした。

 そして一分後。


 「待たせたな! 実はお前に武器を作っていてだな、これだ!」


 その手に持って顕れたのは。


 「おもちゃの銃ですか?」


 まるでおもちゃのような銃だった。

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