第35話

 次の日。


 「ふわぁぁぁぁぁぁぁ! ベッドは気持ちいいのう……」


 マオの部屋で眠っていたセラティアは、大きなあくびをしながらベッドから起き上がる。

 そしてその足は自然と風呂場へ足を運ぶ。

 それは昨日、寝る前にマオから。


 (朝シャワー浴びると気持ちいいよ!)


 と進められていたことを覚えていたから。

 そして彼女は魔法で生み出した衣装を消し去ると、蛇口を捻って水を浴びる。


 「……確かに悪くないのう……」


 その姿は水の妖精と言っても大袈裟でないほど美しい。


 長い髪、大きな胸、細いクビレ、そしてカモシカのように細く長い足、そんな順番で流れ落ちる水は、不思議とセラティアの美しさを強調する。

 そんな流れる水を従えているかのようなセラティアは、髪を洗いながら真剣に考え始める。


 (……さて、どうやってマオから魔王の力を回収するか……)


 本来、魔王の力を回収する場合、魔王の力を持つものが消滅、つまり死亡した場所に術式を施し、魔王の力を回収する、これが一般的な回収方法である。


 だが、マオを死亡させるのは論外、となると新たな手を考えなければいけないのだが、0から技術を作るのは難しいもの。


 だから今、セラティアは頭を悩ませているのだが……。


 「んー……ちょっとセラちゃんの体型羨ましいなぁ! もっと見せなきゃいたずらするぞ!」

 「ま、マオ!? いきなり現れるな、驚くではないか!?」

 「あはは~、ゴメンゴメン~」


 この壁から上半身をすり抜けさせ、セラティアの身体を真剣に眺める幽霊は、そんな緊張感を感じていないのだろうか?

 さすがのセラティアも、そんな上機嫌のマオによって気が緩んだのか、やや緊張感の解けた顔でマオに優しく語りかける。


 「マオ、お主な、もう少し緊張を持たぬか……。 その身体にどんなデメリットがあるか知れぬのだぞ……」

 「へ? 大丈夫だったよ、全然大丈夫! それどころか大変嬉しい事になってたもん!」

 「んん? どういう事じゃ?」

 「だって自分のステータス見たもの」


 その言葉に「あ……」っと声を漏らした。

 どうやら彼女は、自分のステータスを見ると言う考えを忘れていたらしく、その目線は目の前のマオから徐々に右へと逸れていく。


 そんなセラティアに、マオは自分のステータスの変化が嬉しかったのだろう。


 「そんなことより、ステータス凄いんだって! 聞いて聞いて!」

 「ま、マオ落ち着け! 我は分析魔法サーチングも使える! だから口で言わずとも良い!」

 「なら見て見て!」


 マオは目を輝かせながらそう口にする。

 そしてセラティアは、マオの今の状態を知るべく分析魔法サーチングを使いその結果が脳内へ浮かび上がらせる。

 その結果が以下の通りである。

 

 西崎マオ

 レベル98

 HP47800

 攻撃4911

 防御1223

 魔力4512

 魔力耐性2819

 幸運238


 特殊スキル、魔王の力

 人間の体ではなくなったため、魔王の力を最大限発揮できる。


 霊体ボディ

 物理攻撃を無効にする。

 ただし、生物に触れることはできない。


 ここまでは一見素晴らしい能力である。

 だが、その下には。


 《なお、あと10日でこの霊体の身体は消滅します》


 と言う言葉が……。

 そして、その赤い文字を見たセラティアは、にっこりした笑顔でしばらくマオを見つめた後。


 「この、大バカものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 それはそれは、寮全体に響くような大きな声をあげるのであった。


 …………。


 そしてアキラの部屋のベッド前にて……。


 「バカだろ、お前バカだろ! 何でそんな大切なことが分かった時、すぐに言わなかった!?」

 「だってさ、嬉しかったんだもん、こんなすごい能力を手に入ったんだ、アキラを煽れるって! 第一、こんな真下にある赤い文字なんて気づくわけないじゃん!」

 「気づくんだよ普通は! やっぱバカだ、バカだろお前! 見ろ、お前のせいでツカサ兄はああなってるんだぞ!」

 「……マオが、マオが消えるのか……」

 「お、落ち着くんじゃツカサ!? な、泣いたって何かなるわけではないぞ!」


 そんな報告は当然、マオを知る者達を動揺させる。

 アキラは、マオを盛大に罵倒し、ツカサはショックのあまり、壁際でメソメソ泣き、それをセラティアがなだめようと必死になっている。


 だが、そんな中でも冷静な人物が一人いる。

 それは当然。


 「もぐもぐもぐ……」


 肉まんを食べるジンレイである。

 だが、それにはきちんと理由があった。


 「もぐもぐ……アキラ、前に言っていた願いを叶える赤い宝石って言うので何とか出来るんじゃないか?」


 それは既に、そう言うアイディアを用意していたからである。

 しかもそのアイディアは、文句があるどころか。


 「ジンレイ! そうか、その手があるよな!」

 「おぉ、私もその案には賛成だ! これでマオが救われるぞ!」


 アキラもマオも納得の模様。

 だが、それとは対照的なのはセラティアである。

 彼女は冷静な意見として。


 「だが、それがどこにあるのか分かっているのか?」


 とジンレイの意見を牽制する。

 だが、そんなセラティアの意見にジンレイはこう問いかける。


 「案がないのに慎重になってどうする? 動かず結果が出ないのが最も最悪ではないのか? 肉まん泥棒」

 「た、確かにそうだが……。 と言うか、我は別に肉まんを狙ってはおらぬ!」

 「何!? ならお前は、ダンジョンのアイテムを使った新たな肉まんの試作品を狙っている、肉まん愛好家ではないのか?」

 「何をいっておる!? と言うか貴様こそクックキングで肉まんを作ろうとしていたのではないのか!?」

 「肉まんにして食べていいなら遠慮なく食べるが?」

 「だ、ダメに決まっておろう!」

 「そうか……」


 ジンレイはあからさまに悲しそうな顔をしている。

 だが、先程の発言でジンレイが、クックキング達を肉まんにしようと思ってないことを理解したセラティアは気を使って、このような情報を流す。


 「ま、まぁダンジョン内にもクックキング、出るからのう……」

 「セラティア、今日から君は友人だ! 魔王城の事などの件は私がしっかりやっておこう!」


 それは一瞬の事だった。

 先程まで悲しそうな顔だったジンレイが、一瞬で口をニッコリさせてセラティアに握手をしていたのは……。

 その時セラティアは悟った。


 (あはは……こやつ、肉まんが相当好きなんじゃな……)


 と……。

 だが今はそんな話をしている場合ではなかった。

 そう思ったセラティアはギャグからシリアスへと表情を変え、話を本筋へ戻す。


 「ま、まぁとりあえず話を戻すぞ……。 じゃが、皆でもう少し考えてみても……」

 「あぁだが動いていたって考えることはできるし、状況を変えるからこそ見えるものもあるだろう。 それに、より良い案が見つかれば、その時点で切り替えればいい。 何事もケースバイケースだ」

 「むむ……、悔しいがその通りだな……。 分かった、我もその案に従おう」


 そしてそんなジンレイの意見により、セラティアもジンレイの案を受け入れることにしたようだ。


 「よし、ならば手分けして宝石の情報を集めよう!」

 「「「おーーー!」」」


 そして彼らの意識はひとつになった。

 そう、それはマオを救うために!


 (マオに霊対の体を利用して、毎日嫌がらせされかねないからな……)

 (マオにハグできないのだけは私は我慢できんぞ……)

 (まだ肉まんを食べたりない……)

 (マオ……。 我は必ずお前を助けるからな!)

 (あれ……私助けようとしてくれるのはいいんだけど、私暇になる感じじゃない、これ?)

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