第34話
「うーむ、面妖じゃのう……」
「お、おいセラティア! マオは……マオはどうしたと言うんだ! もし、
マオの身に何かあればと考えると」
「落ち着けツカサ! わ、我もこの現象が分からぬ、じゃから少し考えさせてくれ……」
ベッドの上では、その現象を悩ましい顔で考えるセラティアの表情は、ツカサの急かすような言葉により、更に深刻な表情を浮かべてしまう。
そんなベッドの前にある衣装ケースの前では。
「おいアキラ、アイツは新作肉まんを私より先に食べようとする悪魔だ。 奴を倒すなり説得するなりしなければ、私の未来が訪れないぞ!」
「ジンレイ、お前は何をいっている?」
「私の肉まんが奪われるかもしれないと言う話だ!」
「お、落ち着けジンレイ! おい襟つかんで揺らすな、おい!」
ジンレイが肉まんを奪われるかもしれないと言う事を必死に訴えかけている。
そして、そんな様子を眺めていたマオは。
(んーとりあえず幽霊生活楽しんでみるか!)
そうポジティブに考えると、壁を抜けて寮内を徘徊し始めた。
これが、後に「昼間に幽霊出現事件」と語り継がれるとも知らずに……。
…………。
「テメー等は揃いも揃って、俺に迷惑かけないと生きていけないのか!? 何だ、ここは俺に迷惑をかける集まりでもやってるのか!? いい加減にしろよ、俺には自由はないのか!? 大体だな……」
夕日が沈み始めた頃、騒ぎによって呼び出された祭はカンカンだった。
と言うのも祭は昼から、有給のとれたレイジと二人っきりで過ごす約束をしていてウキウキ気分だったのに、アキラ達のせいでそれが台無しになりそうになっているからである。
その為、いつも以上に叱る時間が長い、実に長い。
その為ベッド前に正座させられる、アキラ、ツカサ、セラティアの三人はヒソヒソと話をする。
「ヤバイって……足がしびれてホントヤバイって……」
「アキラ、奇遇だな、私もだ……。 もう足がしびれて、触られたら声をあげそうだ……」
「そ、それは我も同じじゃぞ……。 と言うか何で我も正座しなければいけないんじゃ……」
「そりゃ、祭先生が『誰だか知らんが、てめぇも関与してるんだろ! 正座!』 と言ったからだろう……。 正直、巻き込まれて可愛そうに思うぞセラティア……」
「……我、お主を見直したぞ。 口が悪くてろくでもないと思っていたが、以外とな……」
「当然だ、私の惚れた男だぞ! ぎゃん!」
だが、そんな会話を見逃すほど祭は甘くない。
祭はツカサの頭を思いっきりぶん殴ると。
「テメー等、人がせっかく説教してると言うのに何無駄口叩いてやがる! 大体だな、私は何が悲しくてデートをぶち壊されなきゃならねぇんだ! いつもいつもお前たちは……」
また長い説教へと戻るのであった。
そんな中。
「…………」
ジンレイは虚ろな目で前を見て固まっていた。
と言うのも、ジンレイは説教が始まって直ぐまで、肉まんを食べながら話を聞いていたのだが、それは当然祭りの怒りを買い。
「ふざけるなお前! 食事しながら俺の説教聞けると思うなよ、没収!」
「あぁ……私の肉まん……」
肉まんの没収を受けてしまった。
おかげでジンレイは、それからずーっとこの様子である。
だが、彼女の我慢も限度を超えたのだろうか?
「…………」ツーーー……
虚ろな彼女の瞳から、静かに涙が流れるのであった。
そんなジンレイの様子が大変嬉しいのがマオである。
「キャハハハハ、ジンレイ泣いてる~! 泣いてるじゃない~」
それは普段手も足も出ない上、アキラを奪いかねない存在であり、少し前にはキャロライナの粉を口に入れられ、更にはニンニクの粉をかけられとさんざんな目に遭わされた相手が、そんな表情を浮かべているのだ。
これが面白くないはずがない。
マオは正座したまま、フワフワ移動し。
「肉まん食べれないだけで泣いちゃうの? ねぇどうして? どうしてなの~?」
ジンレイの回りをくるくる回りながら、そんなジンレイを煽る。
だが、当然。
「ぎゃ!」
「てめぇ、説教聞く気あるのか、この大バカタレ!」
「な、何で私に触れるの、先生!?」
「バカかてめぇは! 幽霊なんて聖なる力を手に込めれば触れるんだよ! だから安心しろ、お前がバカやったら、人間の体になってようが魔王の体だろうが遠慮なくぶん殴ってやるからな!」
「げげ~……」
そんな行動は祭りの怒りを買い、マオは祭の拳によって、容赦なくぶん殴られた。
しかしながら、その祭の発言が良い方向へ進むことになる。
「そうか分かったぞ! マオが幽霊になったのは、そういう事だったんじゃな!」
「おぉそうなのかセラティア!? それで、どうすればいいんだ!?」
「まぁ落ち着け! つまり今のマオは人間であり、魔王でもある訳じゃ! つまりどっちつかずの存在になったから、幽霊なんて中途半端な存在になったのじゃろう。 じゃから、どうにかして魔王の力を取り出せば、もとに戻る訳じゃよ!」
「おぉ、なるほど! よくやってくれたセラティア!」
「ふふん、もっと我を称えてもよいぞ? ……ぎゃん!」
それを言うタイミングが悪いとしか言いようがないが……。
「マオの友達だかなんだか知らねぇが、いい加減にしろ! だいたい、おめぇらはな……」
そして彼らはその後、3時間にわたって、祭の八つ当たり気味な説教を受けることになったのである。
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