第33話

 「つまり、私はカオシソウに呪いをかけられていたから、あんな丸出しな格好でいたのだ……。 くっ、クソ……」


 ツカサの事情説明は終わった。

 そんなツカサの様子は、右手の拳を強く握りしめ、実に悔しそうな表情を浮かべ、その目からは涙がポロリと溢れる。

 だが、その涙はカオシソウに呪いをかけられて、マオを襲ってしまったからではなく。


 (くそ、あのカオシソウがもうちょっと根性がある奴だったら、呪いを盾に、流れでマオと……くっ!)


 そういう邪な考えからである訳で……。

 だが、それは事情を知らない者達を騙すのには十分なようで。


 「ツカサ……お前と言うやつは……、うぅ、立派じゃ……」

 「ツカサ兄……いつもはあんなだけど、ホントに大切に思ってたんだな……」


 現に二人、見事に騙されているのであった。

 そして、そんな二人を見るマオとジンレイは。


 (わー……、二人とも詐欺とか簡単に引っ掛かりそう……)

 (口には出さないが、嘘つきってちょっとオーバーな事を言うものだからな……)


 とやや冷ややかな目線を送るのであった。


 …………。


 「さて魔王セラティア、私はお前に領土を渡す準備がある……」

 「「「!?」」」


 さて、アキラが料理を作る中、ジンレイがあぐらをかいて口にした言葉は、ベッドに座る三人を驚かせるには十分だった。

 そんな三人をさらに驚かせるように、ジンレイが懐から取り出したのは、土地の権利書、それも12km2平方キロメートル


 どうやら、ジンレイは父親の力で土地を買い取った模様だ。


 当然それは、セラティアを喜ばせるには十分で。


 「こ、これは……よ、良いのか、ホントに!?」

 「本当だ。 更に維持費、食事の提供も考えている。 そして、侵入者を防止すべく、この土地を壁で囲い、更に10億円ほどで城も建てるつもりだ。 自然を守りたいなら、建築はしないつもりだが……」

 「是非、お願いするぞ! いや、是非お願いします!」

 「分かった」


 セラティアは目を輝かせながらジンレイの手を掴んで、そう願い出るのであった。

 だが、残りの二人はというと。


 「え、ジンレイって金持ちなの……」

 「あの発言から、私はそう感じたが……」

 「奇遇だね、ツカサお兄ちゃん。 私もそう聞こえちゃったんだよね……」

 「そうか、やはり現実なのか……」


 突然発掘された事実を受け入れられず、硬直した顔でそれを聞いている。

 

 それは、あまりにも大きすぎる衝撃的事実であったのか、はたまたその現実を受け入れたくなかったのか……。

 いずれにせよ、マオの理解シェルターはガラガラと閉店し。


 「いいや、そんな訳ないわ! 夢よ、きっと夢よ! お兄ちゃん、頬をつねって!」

 「わ、分かった! よしつねるぞ!」

 「いだだだだだだだだ! お兄ちゃん、もっと強く! この程度じゃ夢から覚めなさそう!」

 「わ、分かった! もっと強くだな!」


 覚めない夢から覚めようと、ツカサに頬を引っ張ってもらうのであった。

 ベッドで騒ぐそんな二人はさておき、ジンレイとセラティアの話は更に進んでいく。


 「じゃが、それだけ破格な条件を出したわけじゃし、どんな裏があるのかのう……」

 「話が早いな。 こちらの条件はダンジョンの使用権利はもちろん、及び城の一部を自由に使える権利だ」

 「ほう?」


 だがここでセラティアは引っ掛かる。

 それは彼女がジンレイと出会って間もないのもあるからであるが、提供に対しあまりに破格すぎる対価を相手が提示してきたのだ。

 そんな甘すぎる話にセラティアは警戒し、そしてしばらく考え、たどり着いた答えは。


 (一体何故だ……もしや、魔王城の一部を使うとは、こやつ、魔王城から世界征服を行い、そして失敗すれば我のせいにするつもりなのか!? そ、それにもし我が断った場合に、我を殺せるように武装しているのではないか!?)


 という答え。

 さて、その答え合わせだが、ジンレイが考えているのは。


 (ダンジョンで食材採取、それを城の中で調理して新しい肉まんを食べる。 実にいいな……。 それにアキラの願いを叶えて一石二鳥!)


 ダンジョンで食材採取し、新たな肉まんを食べること。

 ジンレイはどこまでいってもジンレイだった。

 

 だが、互いの考えを知らない二人は、ここで更なるすれ違いをするのである。


 「それで、わが城の一部を自由に使うとは……、一体わが城をどうするつもりなんじゃ……?」

 「勿論、拠点にするのだが?」(あぁ、新たな肉まん、楽しみだ……)

 「なっ!? そ、それで拠点を使って何をするつもりなのじゃ?」(こやつ、やはり世界征服を!?)

 「肉まんを作って食べる……じゅるり……」(肉まん、肉まん、肉まん……)

 「だ、ダメじゃ! 絶対に食べさせぬ!」(肉まん……、つまりクックキング達を食べて、世界征服する力を蓄えるつもりか!?)

 「な!?」(ま、まさかセラティアは肉まん愛好家……。 新たな肉まんの試作品は貴様より先に食べる!と言いたい訳か……)

 「「…………」」


 二人は静かに睨み会う、まるで相手を仇として見るように……。

 そして二人がとある考えに行き着いた時。


 「なるほど……、自分を押し通すには……」

 「相手を力でねじ伏せるしかないのう……」


 ジンレイは懐から銃を、セラティアは自身の腕を竜の爪に変えて襲いかかる。


 バン!


 先に動いたのはジンレイの方だった。

 ジンレイの発砲した弾は、セラティアの額目掛けて飛んでいくが、至近距離であるにも関わらず、セラティアはそれを右に動いて避けるのだが。


 「ぎゃ!」

 「ま、マオォォォォォォォ! マオが棺桶に!」


 流れ弾がマオに当たり、棺桶になってしまう。

 だが、二人はその程度のことマオが棺桶になった位では止まらないほど感情的になっている様子。


 「いきなり発砲とは、不意打ちをせねば我を倒せぬか?」

 「勝てばいい、それが戦いだ……」

 「ならば勝てぬな、我に不意打ちも通じなかったのじゃから……」

 「その傲慢が十分なスキだ……」


 そう言い合った二人は互いに相手の動きを瞬きせずに睨み、相手の出方を伺っている。

 その時だった。


 「おいジンレイ、追加の肉まんを持ってきたぞ」


 アキラがそう言って、皿一杯の肉まんを持ってきたのは。


 「肉まん!」


 それを見たときのジンレイの動きは早かった。

 一瞬でアキラの持っている皿を奪い取り、部屋のすみに移動すると。


 「肉まんは渡さん……肉まんは渡さん……」


 セラティアを睨みながら、肉まんをガツガツ頬張るのである。

 しかし、それと同じにとある事件が発生していた。


 「ん? あれ? 何で教会で蘇ってないの? 何で体が半透明なの? 何で私、浮いてるの!?」

 「ま、マオ!? お前、う、幽霊か!?」

 「へ? マジ……」


 それは、何故かマオが幽霊となって甦っていたからである。

 

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