第27話
「マオ……、お前一体何があったんだ?」
「…………」
「マオ、黙ってたら何も分からないぞ、なぁ……!」
「…………」
四人は今、食堂のテーブルを囲むように座っている。
そんな中でマオは今、非常に気まずい気持ちである。
当然だろう、目の前に座る祭が大変心配そうな顔を浮かべ、マオを見ているのだから……。
勿論、堂々と「ニワトリが可愛そうなんで、やっちゃった!」等と言えば……。
『そうかマオ? あははははは……。 このクソガキィィィィィィ!』
そう言われて鉄拳制裁を食らう図しかマオは思い浮かばないのである。
かといって言わないと話は進まないでエンドレスに聞かれる可能性もある。
そう思ったマオは斜め右に座るアキラに向け、右目をパチパチさせて助けを求めるのであった。
「…………」(助けて! 助けてアキラ!)
「ん? マオ、目にゴミが入ったのか?」
「…………」(んな訳ないでしょ! 少しは察しなさいよ!)
「お前、もしや!」
「…………」(そう、あと一声!)
「先生、マオが目を痙攣させてます!」
「違うってバカ!」
だが、瞬きだけで相手に自分の思いが伝わる程、二人の意思疏通は出来ているわけがない為、マオはそう叫びながら机を叩くのであるが。
「おいマオ、お前ほんとにどうしたんだ!? 俺、ほんとに心配だぞ……」
その言動は更に祭を混乱させる。
そんな状況の中、ジンレイはふと思う。
(冷静に考えたら、肉まんが完成する時間が延びるな……)
確かに今は調理を中断し、話し合っている訳なのでこのままだと、肉まんの妖精の大好きなものはお預けになる可能性も出てくる訳だ。
なのでジンレイはここでマオに挑発するような発言をし、マオの失言を狙い、話し合いの終息を狙うのであった。
「先生、落ち着け! アキラはともかくマオの心配はするだけ勿体ないぞ」
「ジンレイ、それどういう事よ! さすがに失礼すぎない!?」
「私は事実を言っているまでだ。 お前が心配されるような事は何もないだろう?」
「何言ってるの! 私は魔王のセラちゃんの話を聞いて……あ!」
容疑者の自白はあっという間だった。
そして、マオの自白により祭はニコニコしながら。
「マオ~、素直に話してくれるよな~……? 俺、答えによってはお前をグーで殴り飛ばしたくなっちまうかも知れねぇんだ~……。 なぁ、答えてくれるよなぁ~……!」
「は、はい……」
右手の拳を握りしめる姿を見て、『はい』と言う答えしか返すことができなかった。
…………。
「つまり、何か? 魔王の話を聞いて同情したから協会を襲撃したと? 更に今、魔王の力も手にいれていると?」
「その通りです先生……。 だから暴力は勘弁してください」
「いやマオ、おめぇを殴る気になんかならねぇよ」
「へ?」
さて、アキラが肉まん作りに精を出す中、テーブルに二人で向かい合って座りつつ、事の次第をすべて聞いた祭は、マオを叱ることはなかった、それどころか。
「第一おめぇ、ニワトリに関する主張は確かに筋が通ってる! それを叱るなんて恥ずかしい真似できねぇよ! だからマオ、正しいと思うのなら胸を張れ! 他人の主張を恐れるな! ただ、困ったときは誰でも良い、相談することを忘れるなよ、人は支えあって生きているのだからな!」
そうマオの行動を誉め、そう背中を押した。
その発言はとっても嬉しかったようで。
「先生ありがとう! 私、とっても嬉しい!」
と祭にそう嬉しそうに話すのであった。
そんなマオを見ていた祭は、ふと思うことがあった。
「なぁマオ……」
「ん? 何先生?」
「お前、アキラの事、異性としてどう思ってる?」
「へ?」
それは、マオも予想もしてなかった一言だった為、マオの顔は真っ赤になる。
そんなマオを真っ赤になるような質問を、祭がしたのには訳があった。
「まぁ俺の持論だが、からかって良い反応をする異性を好きになるもんだからな! だからお前ももしやと思ってな!」
それは祭が見るに、マオはアキラに異性として好意を持っていると読んでいるからだ。
そして、そんなマオ本人はアキラの事をどう思っているのか?だが。
「……先生、恋するってどんな感じなんですかね……? その、あまりに長くアキラといたせいか、異性としての見方がわからないと言うか……」
それ以前にマオは恋の感覚が分からないらしい。
少なくとも悪くは思っていないし、一緒にいて楽しいと言う好感はある。
しかし、好きかどうかは本人も分からないらしい。
それは多分、長年の付き合いから、そんな意識が出来ないのかもしれない。
さて、そんな悩める年頃の生徒、マオの質問に対する祭の答えはこうだった。
「そいつと一発子作りして、孕みたいか考えればいいだろ? そしたら異性として見れるんじゃないか?」
「先生、教育者だから、もっとオブラートに包んだ方が良いんじゃないの!?」
「お前オーバーだな~。 昔なんかドラマで1アンアン、2アンアンは普通にあっただろ? 第一アンアンするのは人間として普通だろうが?」
「アンアンを隠語みたいに連呼しないで!」
流石、風呂に押し掛けた恥女だけはあるだろう、祭は1アンアン2アンアンと言う新たな単位を作り出したようだ。
だが、新たな単位を使った会話は、流石のマオも困惑してしまう。
そして、そんな一部始終を祭の隣で眺めていたジンレイは、自身の沈黙を破るように、その重い口をついに開く。
「……何をそんなに恥ずかしがってるんだ? 素直に言えばいいだろう? アンアンではなく、セッ……」
「ジンレイ! アンアンだ! その言葉を使ったらイヤらしいと思われるぞジンレイ! 俺も昔、連呼してたらヤリマンって思われた!」
「それは先生が全裸で風呂場に突入したりするからじゃ……」
「セック……」
「アンアンだジンレイ! その言葉は禁句だ! ちゃんと遠回しにアンアンと言うんだぞ、アンアンと! もしくはパンパンでもセーフだ!」
「と言うか先生、アンアンはセーフかもしれないけど、パンパンは絶対アウトだって!」
しかし、そのワードは禁句だったらしく、ジンレイがそれを言い終わる前に、腕を組んだ祭は自身の言葉で禁句を隠し、アンアンとパンパンと言う代用ワードを提供する。
しかし、マオ的にはパンパンと言うワードはアウトだったらしい。
それは彼女が机をバンバン叩きながら訴える姿を見ていると、その本気度がよく伝わってくるのではないだろうか?
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