第26話
「えぇ!? どういう事、どういう事!? まさか!」
さて、背中に羽が生えたマオは、もしやと思ってステータスと念じる。
するとステータスの下にあった特殊スキル、不完全の項目が。
特殊スキル、魔王化
魔王の力が辛味成分のおかげで体とリンクした為、能力が100パーセント発揮される
また、吸血鬼の力によって、夜は更に能力が上がる。
まったく別のものに姿を変えていた。
そしてこの事は、マオにとある思いを浮かばせる。
(ふふ……これだけの力があれば、あのジンレイを教会送りに出来るわね……。 ふふ、あははははは!)
それは、辛い辛いキャロライナの粉を口に突っ込まれた復讐をするため!
「ひゃははははは! これで、これであのジンレイに復讐できるわ! さぁこの魔王の力、存分に味わわせてあげるわ!」
「ま、待てマオ!」
そしてマオは羽を広げると、アキラの制止を振り切り、器用に羽をはばたかせ、素早く倉庫の中を移動する。
が、すぐにマオはターゲットであるジンレイを発見。
「ん?」
「ヒャッハー、ジンレイ!」
マオは迷わずジンレイへ突っ込み、握りしめた拳をジンレイの顔めがけて放とうとしたその時。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! ニンニクの臭いが苦しい!?」
無言でジンレイはニンニクの粉を振りかけ、マオを悶えさせる。
更に。
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁ! 痛いよぉぉぉぉぉぉ!」
鼻を押さえて悶えるマオめがけてキャロライナの粉で追撃、それが目に入ったのか、マオは目を押さえてごろごろ転がりだす。
そしてここに、吸血鬼魔王のニンニク風味キャロライナ乗せ、が完成めでたく完成するのであった。
…………。
「ごめんなさい、調子に乗りました、もう許してください……。 う、うぇぇぇぇぇぇ……吐きそうなんだけど……」
さて、狭い個室でニンニクと一緒に閉じ込められているマオは、具合の悪そうな声でガラスのドアを叩く。
魔王の力と体をリンクさせる辛さの成分が、体から消えた為か元の姿に戻ったマオだったが、どうやら吸血鬼の弱点は、人間に戻っても消えなかった様子。
おかげで今マオは、ニンニクの臭いに大変苦しんでいる訳だ。
そんな様子をアキラはジンレイと目の前で眺めながら、マオの処遇を考え始めるのだが。
「とりあえず、マオをどうする? ジンレイ……」
「それより食事を作ってくれないか……。 空腹でたまらないのだが……」
「分かった……。 まぁマオの事で迷惑かけたからな」
「ならばここの一階の奥に職員用のキッチンがあったはずだ、そこで調理するといい」
どうやら、話し合う余裕がジンレイにはない様子。
そして二人はその場を後にし、キッチンへと足を進めるのであった。
「お願いよ~助けて~……。 私ニンニクの臭いで死んじゃうって……。 ホント、ホントお願いだから……。 うぅぅぅぅぅぅ気持ち悪い……」
…………
「あ~まだニンニクの臭いが臭いが鼻に残ってるんだけど……」
「そんなことより手を動かせマオ。 さっさとジンレイの肉まんを作るぞ」
「つーか何? アキラったらあの性格の悪い女がタイプなの~?」
「人を盾にしたりオモチャにしたりするお前が、他人にそう言う事言えると思うのか?」
「言えると思うよ。 だって私、魔王だし」
「いや、魔王の力と性格じゃ別問題……ちょっと待て、お前今何て言ったんだ?」
職員用のキッチンに移動したアキラは、泣きそうになりながら助けを求め、助ける代わりに、料理の手伝いをするようジンレイから言われたマオと一緒に食材の準備をしていたわけだが、マオの口から突如告げられたカミングアウトを聞いた事により、体の動きを止めた。
「どしたの? 急に止まって?」
「もう一度言う、魔王が何だって?」
「魔王になったって話? ふふーん、実は私、カリスマ性があるとかで、魔王だったセラちゃんから魔王の力をもらったの!」
「ほう、そうかそうか……」
アキラは作業を止めて会話に夢中なマオの話を聞きながら、業務用冷蔵庫に入っていたニンニクのチューブを取り、それを右手の中指と人差し指に丁寧にベッタリと塗る。
「いやーやっぱり魔王としての才能が私にはあったのね……。 いやー私、ヤバイ……ふが!?」
そして、その二本をマオの鼻にズボッとチップインさせると同時に。
「ぎゃぁぁぁぁ! ニンニクの臭いに鼻が占拠されたぁぁぁぁぁぁ!」
「お前嘘をつくなら、もっとまともな嘘をつけ! どうせ変なもの拾い食いでもしてそうなったんだろう! 第一お前、友達少ない癖にカリスマ性とかバカ言ってんじゃないぞ!」
マオの友達少ない説を掲げて、マオのカリスマ性を否定したのだが、これが低レベルな争いの始まりだった。
「何よ、カリスマ性あるのはホントだもん! 第一、私よりも友達少ないアキラがそんなこと言えるんですか~?」
「お前よりは友達多いぞ、第一俺は男子全員と友達だからな!」
「あっはっはっは! アキラ、男子からからかわれるだけなのに友達って言えるの~? 私はセラちゃんと大親友だし女子生徒みんなと友達だし!」
「お前、嘘つくなよ! 影で女子から悪口言われてるって聞いてるからな!」
「「…………」」
そして顔を近づけ睨み合う二人は、友達の数で優劣つけようとしていたようだが。
「……やめよう、マオ……」
「……うん、何か友達の少なさで傷を負うだけだし……」
それは互いの傷に塩を塗り合う行動でしかなかったようで、この試合はドローとなった。
そんな時だった。
「おい二人とも、喧嘩するのはやめろ。 それと先生が来たぞ、マオ」
「へ?」
「マオ、お前……」
祭が心配そうにやって来たのは……。
それはジンレイが「……とりあえずお前ら、マオを見つけたら連絡くれ!」と言う祭の言葉を守ったからである。
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