第25話

 「ごめんなさい……もう勘弁してください……」

 「私の食事の楽しみを送らせた訳だ、当然の報いだろう? マオ……」

 「ひぃぃぃぃぃぃ! じ、ジンレイ様、もう、もう食事を遅らせるマネはしませんから!?」

 「だが、今回の分の罰は受けてもらうぞ……」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ジンレイは今、ロープでぐるぐる巻きにして連れ帰ったマオを、マオの父が所有するショッピングモールの地下倉庫にて拷問している。

 大きく開いた目は血走っており、それは普段のジンレイからは想像もできない恐ろしい顔つき……。

 そして彼女は、マオの口を無理矢理開けると右手のスプーンに乗った粉をマオの口に運び、口の中へ……


 「ん、んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 辛いィィィィィィィ!」

 「許さん……私の食を奪った事……」


 それは、以前アキラが口のして、トイレと水分補給の往復をするハメになったキャロライナの粉である。

 勿論、それを口に入れられたマオは涙を流しながら悲鳴をあげるが、ジンレイの怒りは収まることはなかった。


 …………。


 「マオを捕獲した、私の父のショッピングモールに来られたし」


 教会から蘇ったアキラは、そんなメッセージをジンレイから受け取り、ジンレイの待つショッピングモールへ向かった。

 そして、店の前で待っていた店長らしき人物が。


 「お待ちしておりました。 こちらです」


 と口にした後、地下倉庫の一角へと案内される。


 「遅かったな、アキラ……」

 「アキラ~助けて~……。 ぐすっぐす、もう辛いのは嫌だよ~……」


 そこには、マオなのか?と訪ねたくなるほど弱気になったマオの姿であった。


 もともと、アキラはマオに「何でお前は迷惑をかけることばかりするんだ!」怒鳴る気でいたのだが、流石に辛さで唇が腫れてしまったマオの姿に、厳しいことを言う気など起きず。


 「その、マオ……大変だったな……」


 マオの前に立つと、作ったような笑みを浮かべ、優しく声をかける。

 そして、その後のアキラの取り調べも、本来予定されていた厳しいものではなく、優しいものへと変化するのであった。


 「マオ、早速だがお前にいくつか尋ねるぞ? まず、協会を襲った話はホントか?」

 「はい、そうです……」

 「逃がしたニワトリはどうしたんだ?」

 「山へ逃がしました……」

 「何でそんなことをしようと思ったんだ?」

 「だって、セラちゃんからニワトリ達の気持ちを聞いたらほっとけなかったからです……」

 「ニワトリ達の気持ち?」


 それは、不気味なほどマオらしくない丁寧でもごもごした声での返答だった。


 その様子にアキラは(あの粉を飲まされ、悲鳴を何度もあげたから、元気がないんだろうな)と思ったがそれは違う。

 アキラの後ろには、これ見よがしに恐怖の粉が入った瓶を指でつまみ、それをユラユラさせて威嚇するジンレイの姿に恐怖するからだ。

 だからマオは。


 「そうなんです、ニワトリの気持ちをです……。 は、話すからフタを開けないで!」

 「ん? ジンレイがどうかしたのか? どうもないじゃないか?」

 「ジンレイ様は何も持ってません! サッと隠してません! 私どうもしてません!」

 「マオ……大丈夫か?」

 「大丈夫、私大丈夫!」


 ジンレイがフタに手を触れただけでもこの騒ぎっぷりである。

 さて、とっさに瓶を後ろに隠したジンレイはさておき、アキラはそんな様子に(大丈夫か?)と思いつつも、マオへの取り調べを再開する。


 「その、マオ……ニワトリ達の気持ちってどういうことだ? 詳しく説明してくれないか?」

 「その、ですね……。 私、出会っちゃったんですよ、魔王のセラちゃんに……。 それでセラちゃんから、子を殺されるニワトリ達の気持ちを訴えられまして、それで……」

 「同情か……それで、その魔王とやらはどこにいるんだ?」

 「魔王城にいます……。 ひっ!? 場所は森になかですから説明しにくいんです! だから瓶を開けないで!?」


 そしてアキラは話を聞いた事を踏まえ、静かに考える。


 (きっとマオの事だから、同情したのはホントだろうな。 それと、話を聞く限り、多少人間の話を聞いてくれるようだし、一度会っていろいろ聞いてみるのもいいかもしれないな? ん?)


 そんな時だった、マオの体からコウモリの羽のようなものが、制服を破って飛び出してきたのは。


 「ま、マオ! 背中、背中! うわ、キバ、キバ!?」


 そして更に、マオの口からキバが飛び出す、それはホントに吸血鬼になったかのよう。

 その変化にアキラは驚きを隠せずそう叫ぶのだが、当の本人はと言うと。


 「へ? へ? どしたの?」


 その事に気づいていない模様。


 「とりあえず、塩を撒いた方がいいか?」

 「ジンレイ! 塩じゃない、ニンニクだ、この場合は!」

 「なら、ニンニクの粉末を取ってくる」


 そしてそんな二人とは違い、割と冷静なジンレイは、アキラにそう言われた後、スタスタとニンニクの粉末を取りに行った。


 「ん? あれ? 何か違和感が……んん!?」


 マオはやっと体の異変に気がついた様だ。

 と言うのも羽が突き破って生えてきた場所が、ブラジャーのバックベルトの部分だった為、ブラがへその方へずれ始めているのだ。

 そのおかげでやっと。


 「ん? ブラのフック、外れちゃったのかな? ん? んん? 何これ……って羽が生えてる!?」


 自分に羽が生えた事を気がついたようである。

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