第24話
「あ~、お腹の調子はよくなったけども、具合が悪いわ……」
さて、マオがコンビニのトイレからそう言って出てきたのは日が沈みかけた頃の事だったが、やはり体の調子は良いわけではない。
その上、魔王城にトイレがないという事態は、マオに。
(冷静に考えてお手洗いにいけないのはさ……、やっぱ辛いよね……)
と言う悩みを襲わせる。
かといって、今更寮に戻れる訳もなく、今マオの手元にある選択肢は、コンビニのトイレを使うようにするか、女性の恥じらいを捨てて、森の中でするかの二択である。
だが、正直なところ、どちらの選択もしたくない。
そんな中、マオはふと。
(そう言えば、私魔王になってどれくらい強くなったんだろう?)
魔王になってどれ程強くなったのか気になり、ステータスを思い浮かべる。
今更だが、この世界において、自分のステータスを知る方法は、自分のステータス……っと心で念じる、もしくは
しかもこのステータス、不思議なことに、中学生以下の子供達には存在しないようで、分析魔法を使っても《ステータス がありません》と表示されるだけ。
その為、ステータス未だに謎が多い分野だったりする。
(ステータス……ステータス……)
さてマオは早速ステータスを念じている。
この物語が始まる時の彼女のステータスは。
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西崎マオ
レベル5
HP132
攻撃12
防御11
魔力10
魔力耐性9
幸運238
ーーーーーーーーーー
だった。
そして今、彼女がステータスと念じ、脳内に浮かんできたのは……。
ーーーーーーーーーー
西崎マオ
レベル98
HP47800
攻撃4911
防御1223
魔力4512
魔力耐性2819
幸運238
ーーーーーーーーーー
と言う素晴らしい数値が浮かび上がる。
マオの口元もこれにはニッコリである。
がしかし、その口元が変わってしまう文字が下から浮かび上がってくる。
特殊スキル、不完全
魔王の力が人間の体に適応しない為ステータスを全て1に補正する
さて、この言葉が表す意味は一つ。
アキラのHP1という唯一無二の個性が無くなった、そういう意味である。
だがそれは、マオにとって嬉しくないことだったらしく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、何で、何で!?」
とまるでムンクの叫びのようなポーズでそう叫んでしまう。
だが、嬉しくない事は以外と連続して起きるものである。
「……つまり、私としては今晩の麻婆豆腐の肉まんには、もう少し挽き肉を追加してだな……」
「ジンレイ、それはいいが、あの粉は勘弁してくれ。 あれ、舐めるのは論外だが、麻婆豆腐に入れただけでも目が痛くなったぞ……」
「辛味のない麻婆は、ただの麻婆だぞ、アキラ……」
「いや、そんな深刻な顔しなくても、普通の麻婆でいいじゃないか……」
それは、コンビニの前をアキラとジンレイが仲良く歩く姿。
端から見れば、二人はまるでカップルにように大変親しい関係に見えるくらいに……。
つまり、言わずもがな。
「アイツ等、何いい感じの関係になってんの……」
マオの不愉快そうな目線が、コンビニのガラス越しに送られる結果を生んだ。
…………。
「何アイツら、私がいなくなった瞬間くっついたの……。 つーかあの女、私のオモチャをやっぱり盗る気だったのね……」
さて、どこかへ出かけるアキラとジンレイの後ろを、マオはブツブツ言いながらスニーキングもといストーキングしている。
それは姿勢を低くし、距離を開けて付いてきているだけなので、後ろを向かれたら一発アウト、もしくは運が良ければギリギリ闇夜に紛れることも出来るかもしれない。
「ところでアキラ、お前なんでそんなに料理が上手なんだ?」
「あぁ俺は昔から親があまり家にいなかったからな、だからよく料理を作っていたんだよ」
「ならば将来、料理人になるか?」
「……いや料理は好きだけど、俺は冒険者になるつもりだから」
「アキラ、何で冒険者になりたいんだ?」
「そりゃバカな夢だけど、楽しく生活を送りたいからさ。 動画でさ、冒険者の人々の活躍なんか見てると胸が熱くなるんだよ。 願いを叶える赤い宝石なんて物を見つけて興奮したり、化け物染みた強さの魔物と死闘を繰り広げたり、そしてダンジョンでナンパしたり……。 いろいろな人がいるけど、みんな楽しそうなんだよ……。 その、何というか、その、あ~……」
そんなマオの前方では、アキラが自分の夢をそう語るのだが、言葉が浮かばない様子。
ただ、それでも動画に出る冒険者達への憧れ……その様なものが感じ取れるだろうか?
いずれにしても、あまり上手なプレゼンとは言えないだろう。
少なくとも、後ろからそれを聞いていた人物は高評価のようで。
(何あの、ダメ人間の説明、クスクスクス……)
口を押さえて笑い声を殺しつつ、その様子をにやにやしながら眺めている。
「そうか? なら、料理をしながら冒険者をやれる職場を知っているぞ」
「ん? そんな夢のような所があるのか、ジンレイ?」
「あるぞ、私の専属料理人だ。 お前の料理、とても好きだからな」
「……マジかよ」
が、その高評価はすぐに終わった。
と言うのもジンレイの言葉を、マオは告白か何かと勘違いしたからである。
おかげでマオの表情はピクンピクン。
「え、何あれ……、泥棒猫? え、マジでムカつくんだけど……何ハッピーな展開になってるの……、アキラの癖に許されないんだけど!? ……ははーん、つまりあれだ、この石を思いっきりぶつけて天誅を下せって髪のお告げだね!」
そして、目をキラーンと輝かせたマオは、闇の中に身を隠すと、近くにあった野球ボールサイズの石を手に取りそれを思いっきりアキラにぶん投げる。
「ぐえ!」
それはクリティカルヒットだったようだ。
石はアキラの頭に直撃し、アキラは棺桶になり、マオは「やった!」とガッツポーズする。
しかし。
「……私の晩御飯……」
「ひ!?」
ジンレイの晩御飯を調理するコックを棺桶にしたのだ。
当然マオがタダで済むわけがなかった。
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