第22話

 さて、現在魔王城のテーブルを囲み、


 「つまりだセラティア、今からマオに魔王の力を渡そうとしていた所だと? そして残念なことにマオは悪落ちして魔族の仲間入りをしていないと!」

 「ふむ、そういう事じゃな、ツカサとやら! さて、今からマオに魔王の力を渡すとするかのう……」

 「おぉ! つまり魔王の力を受け取ったマオは悪魔のような姿に露出の激しい姿を身に纏わせ、世界を破壊しようとするのだな! 想像するだけで興奮するぞ! きっとその姿を見ながら点滴5本はいけるな!」

 「お、おいマオ! ツカサとやらは混乱しているのか? それとも幻覚魔法をかけられておかしくなっているのか?」

 「セラちゃん……。 ツカサお兄ちゃんはあれが普通なの……。 常に幻覚魔法をまとい、混乱状態なのがツカサお兄ちゃんなの……」

 (ん、お兄ちゃん? うむ、もしやマオが間違っていったのかもしれぬし、愛称かもしれぬのう……。 これは聞き流した方が流すか……)


 セラティアはツカサに、魔王の力を渡そうとしていた事を話し、ツカサもそれを理解したわけだが、想像力が豊かなツカサはセラティアの理解を越える発言をし、戸惑わせる。

 そして、マオの言葉によってツカサがそんな人物だと理解したセラティアは。


 「そうなのか!? わはははは、それは面白い! そこまで欲望に忠実なのは素晴らしいぞ! 我はツカサ、貴様の事も気に入った! よし、その欲望の一端を叶えるべく、我がマオのために魔族のセクシーな衣装を作ってやろう!」


 どうやら引くどころか、相当気に入った模様。

 それはツカサもであったようで。


 「おぉ、分かってくれるのかセラティア! よし、私もその衣装の礼に力を貸そう! なに、マオがセクシーな衣装を着るためだ、何でもやってやる!」

 「おぉぉぉぉぉ! わはははは、そうかそうか、ならば貴様の力、存分に貸してもらうぞ! よし、早速衣装作りじゃ!」


 二人の手はちゃぶ台の上で握手をする結果を生んだ。

 それは、もしかすると二人の熱い友情の始まりなのかもしれない……。


 「あれ、私、何かセクシーな衣装を着る展開になってない? 着ないよ私、絶対に! と言うか、魔王の力を渡す件は後回しなの!?」


 …………。


 その頃、ジャージ姿のアキラと全身黒のいつもの格好のジンレイは、ショッピングモールへやって来ていた。

 と言うのも、アキラが気晴らしに色々な肉まんを作っていたら冷蔵庫の中身が空になった為である。


 「悪いジンレイ、食材費を出してくれるだけでなく、行き帰りのボディガードまでやってくれて……。 しかしジンレイ、まさか『好きなだけ買って良い、店全部の物を買うつもりでも問題ないぞ』という冗談をお前から聞くとは思わなかったぞ」

 「本気でいっているのだが……まぁ良い、聞き流してくれ」

 「ははは、分かった分かった、聞き流すよ」


 そんな二人の雰囲気は悪くない。

 仲良くカートを押す姿は、カップル……というより、学生服を着た弟とその姉といった感じ。

 どこぞの変態が見れば「わ、私のアキラが取られた……」等と言ってもおかしくないかもしれない。


 そんな二人がが挽き肉を買うため、肉のコーナーへとやって来たときの事だった。


 「うーん……どの肉を使うか……」

 「おいアキラ、私は激辛麻婆豆腐が入った肉まんも要求したいのだが?」

 

 どの挽き肉を使うか考えているアキラにジンレイが突如そんなことを告げた。

 それにアキラは少し驚いた。

 いつも美味しそうに肉まんを食べるジンレイが、初めてそんな要求を口にしたのだからである。

 だからアキラはその理由が気になり。


 「麻婆豆腐の入った肉まん? 何でそんなものを?」


 とジンレイに訪ねる、すると。

 

 「実は前にコンビニで麻婆豆腐の肉まんと言うものを買ったのだが、辛さが物足りなくてな。 だからお前に辛い麻婆豆腐の肉まんを作ってほしい」


 ジンレイはどうやら、コンビニで購入した麻婆豆腐の肉まんをアレンジしたものが食べたい様子。

 なので。


 「なるほど……、分かった、作ってみよう!」


 そう返事して、辛い肉まんの為に唐辛子を探し始めるのだったが。


 「アキラ、それではダメだ」

 「それもダメだ」

 「論外だ」


 どの唐辛子もジンレイの舌を満足させるには至らない辛さらしい。

 そんな事を何度も繰り返すうちに、さすがのアキラも。


 「ジンレイ、ならどんなのが良いって言うんだよ!」


 と声を上げてしまった。

 すると、ジンレイは口を隠すように右手を当てて考え出す。

 そして少しして、歩き出すと、近くを歩いていた店員に。


 「キャロライナの粉末はあるか?」


 と訪ね。


 「あ、ジンレイ様、キャロライナですね。 あれ、店頭においていたら苦情が来るので、今は倉庫に置くようになってるんですよ、ちょっと待っててください」


 そう言って店の奥へ入っていった。

 そして、そんな店員の後ろ姿を見ながら二人は呟くのであった。


 「ついに店頭に並べられなくなったのか……。 まったく差別はよくないな」

 「ジンレイ、俺何となくだけど、純粋に危ないからじゃないかと思うんだが……」


 …………。


 「もぐもぐ……しかし、私の地元のヨウシーが『教師と影の生活指導部が生徒の買い食いを制裁するため、戦車や戦闘機で追いかけ回すの!』と言っていたが、ここはそんな事ないんだな……」

 「買った肉まんを食べてから話して良いんだぞ、ジンレイ。 それと日本に戦闘機や戦車で生徒を追いかけ回す学校はない。 第一その友達は、アニメか何かを混同してるんじゃないか?」

 「まぁアニメやマンガが大好きだったから否定はできないな……」


 さて、店員が来るまでの間、雑談していた二人のもとに。


 「お待たせしましたジンレイ様、キャロライナです」


 やっと店員が手のひらサイズの赤いラベルの瓶を持って戻ってくる、しかし。


 「店員さん、何で完全防備なんですか?」

 「お兄さん、世の中には聞かない方が良いこともあるんですよ」


 店員は白い防護服で全身を覆い、顔面も眼鏡にマスクと完全防御体制を強いている。

 まるで危険物を扱うかのように……。

 そんな店員にジンレイは近寄り、その瓶を受けとると。


 「おぉ、良い香りがするな、これならよい激辛麻婆豆腐が出来そうだ」

 「それは何よりです、ジンレイ様」

 「あぁ、では仕事に戻って良いぞ」

 「では、私はこれで」


 そんな会話を親しげに交わし、店員は奥へと去っていった。

 だが、その様子を(なんかジンレイに腰が低いように感じるのだが……? それも様付けで話してるし……)と感じたアキラは。


 「ジンレイ、お前今の店員さんと親しげだが知り合いなのか? しかも様付けって、お前どこかのお嬢様だったりするのか?」


 ふとそんな事を訪ねる。

 だが、そんなジンレイから帰ってきた言葉は予想以上に大きかった。


 「まぁ世間的に言えばそうだな。 ここは父が私の為に買った店だ、だから店の者は私を様付けで呼ぶのは普通だろう。 だから『好きなだけ買って良い、店全部の物を買うつもりでも問題ないぞ』と言ったんだ私は」

 「……とりあえず、ジンレイお嬢様と読んだ方がよろしいですか?」

 「別にジンレイで良い……。 今まで通りの付き合いをしてくれ、アキラ……」

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