第16話 シュワさん、面白い冗談だ

 それは二人が電話していた時、学校から西にある農村地帯での事。

 スタローン、そしてシュワちゃんの様な肉体のご老人二人が楽しく会話しながら元気に畑仕事をしていた。


 「よう、スタさん! 相変わらず無駄に鍛えられた肉体をしているな。 だが、私には敵わないがな!」

 「シュワさん、面白い冗談だ。 見た目だけで判断せず、結果で判断してはどうだ? ん?」

 「コケェェェェェェェ!」

 「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


 それは一瞬の出来事だった。

 ニワトリ達が森から出現し、畑を荒らし回ったのは……。

 勿論、老人二人も抵抗はしたが、ニワトリ達の数には敵わず、畑の作物はズダズダに荒らされるのであった……。


 …………。


 「わっはっはっはっは! 我は愉快だ! 愚かな人間供め、我々の強大な力、思い知ったであろう! ふふ、これで人間どもめ、我々の力を恐れ、領土としてこの島を明け渡し、魔族国家を認めさせてやるわ!」


 その結果を森の奥で聞かされた、魔王セラティアは満足気のご様子なのだが。


 「わっはっは……わっはっはっはっはっは! 痛!? つつくでない、痛いぞ貴様ら!? 痛、ほんとに痛いから! や、やめろ! や、やめて下さい!?」


 ニワトリ達はそうは思ってない様子。

 と言うのも。


 「コケェェェェェェェ!」(ふざけた事を言うな! あの老人二人に我々の同士が何匹もやられたのだぞ!)

 「な、何を言う!? 貴様らレベル253じゃろう!? それがたかが二匹を群れで攻撃しているのじゃぞ!?」

 「コケコケコケ! コケェェェェェェェ!」(貴様こそ何を言う! あれは我々の目から見ても異様な強さだった、なのに『いくら強くても、人間の老人二人、恐れる必要はない!』と言って襲わせる命令を出したのは貴様ではないか!?)

 「コケコケ!」(この役立たず魔王!)

 「コケコケ!」(そうだ、自称軍師型の役立たず!)

 「コケコケ!」(口だけの役立たず)

 「わ、我が悪かった、悪かったから役立たずって言わないでくれ……。 我が悪がったがらぁぁぁぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁん!」


 老人二人の肉体は伊達ではなかったらしい。

 彼らの同志達は何匹も捕らえられ、そして残ったニワトリ達の多くがボコボコにされたのだから……。


 なので結果を言えば、畑を荒らせたが、手痛すぎる損害を受けた。

 それがニワトリ達が認識する答えだろう。


 …………。


 しかし、ニワトリ達のその認識も間違っていたと言える。


 「……それで、チートジイ様達はニワトリをいっぱい捕まえたから、俺が代わりに売り捌いて来いと?」

 「そうだ神父、我々の畑は台無しになったが、インターネットでニワトリを売り飛ばせば、損害など無かった様な額の儲けになるだろうが、その手の手続きはお前が得意だろう? だから教会で暇してるお前に任せたい!」

 「あぁ、シュワさんの言う通りだ」


 その理由は、巨大ニワトリは高値で取引されるからである。


 さて、周知の通りだが、巨大ニワトリの生むヒヨコは、必ずレベルを上げる力がある。

 その為現代では、単なる自己のレベル上げ以外にもそれを利用したレベル上げ商売や、ニワトリの転売など、様々な商売に繋がる高額な生き物となっている。

 つまり。


 「まぁ俺が代わりに段取りして、売るのはいいけどよチートジイ様達、巨大ニワトリは一匹2000万以上の高額な取引になるしあの数だ。 そしてその手間もあるし、時間がかかるぞ?」


 二人の老人は損害を受けるどころか、一夜にして億万長者になったと言う事である。


 …………。


 次の日、 その話は、祭を通して生徒達に広まる事になった。


 「……と言う事で昨日、ニワトリの襲撃があったらしいが、例の武闘派のジイ様二人がそれを返り討ちにした上、何匹も捕獲したから億万長者になるんだとよ。 それと今、教会には近づくなよ、捕まえたニワトリを保管し……」

 『『『ざわざわざわ……』』』


 それはアメリカンドリームならぬ、ジャパンドリームと言うべき夢のある話で、当然生徒達は、その夢のような話に目を輝かせる。

 そんな様子に祭は。


 「あのなお前ら……、億万長者の夢を見るのは良いがあのジイ様二人みたいな事、普通出来ないからな? あの二人は例外中の例外なんだぜ……」


 生徒達へ現実を見るよう言いたかったらしいが、既に後の祭。


 「ニワトリをいっぱい捕獲出来れば、それを売ったお金で悠々自適な生活が送れるな……」

 「アキラに札束ビンタ……、アキラに札束ビンタ……」


 億万長者と言う言葉だけ頭に残った生徒達はザワザワ近くの仲間達と話しだし、それに紛れて、アキラ、マオは自分の夢、そしてしたい事を想像し、そう呟いてしまう。


 「てめぇら、俺の話を聞きやがれ!」

 

 だが、その行為はゴリラ祭の怒りを買うのである。

 そしてゴリラは、教壇を片手で掴み、怒りに任せて後ろの壁へ向けてぶん投げる。

 それはあくまでストレス解消と威嚇を込めたつもりであったのだが、それは。


 「これはやっぱり神様が、HP1の俺に悠々自適な生活を送るチャンスをくれたって事だよな、ヒャッホー」ガンッ!


 興奮のあまり立ち上がった一人のHP1に直撃し、彼をただの棺桶にする。


 言うまでもないが、はっきりいってただの不幸な事故であり、加害者が存在するものではない。


 とても分かりやすく言えば。


 《ツカサがマオとアキラの着替えを見て、鼻血を吹き出した》


 そんな程度の話なのである。


 そして、その様子を見た男子生徒は、それぞれ冷静な口調でコメントするのであった。


 『おかしな人を亡くしてしまった……』

 『だが、何度でも蘇るさ……』

 『世に平穏のあらん事を……』


 

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