第15話 わりぃお前ら、ちょっと自習しててくれ!

 「おい、ジンレイだったな! お前がニワトリに出会う少し前までの事、綺麗さっぱり話してもらうぜ!」


 その言葉にジンレイは静かにうなづくと、事の次第を語り出した。


 「マオがニワトリに追われて来た時、私は肉まんの具材……じゃなくてニワトリに数発打ち込んだ。 すると奴は森へと逃げ出した訳だ。 そしてそこから奴を追い、森へと入っていった私は、奴の血を辿って追いかけていたのだが、森の奥深くにある草が生い茂った場所で、落とし穴に落ちたんだ……」

 「落とし穴はどんな感じだ?」

 「複雑な穴ではない、深く掘った穴に枝を置き、茂みを乗せた様なものだろう」

 「…………」


 この発言を聞いたレイジは静かにスマホを取り出し、祭にかけ始める。

 この異常な事態を伝えるために……。


 …………。


 「くっくっく……。 おろかな人間が、我が配下のニワトリを狩ろうなど、言語道断……。 我の策の前では赤子同然よ……」


 その頃、山奥の森の中ではニワトリ達に囲まれる一人の美少女の姿があった。

 その美しい肌は、シミひとつない白さで、彼女の長い銀髪とエメラルドのように青く大きな瞳は大人のお姉さんを思わせる。

 そして、人間でない事を示すかの様に、頭から角のようなものが生え、手足から鱗のようなものが目につき、そして半袖の白いドレスの隙間から、龍の様な小さな羽が背中から生えている。


 そうなのだ、彼女が人間ではないのだ。

 そう、彼女の正体は。


 「さぁ貴様ら! 我々は人間の勝手な出来事で生み出され、そして奴ら人間の勝手な都合で、虐殺されたり捕獲されたりする。 奴らには分かるまい、一度しか命を持たない貴様らのの気持ちなど!」

 『『『コケェェェェェェェ!』』』

 「だが、それは終わりを迎える事を我が約束しよう! この、魔王たる我が頂点に立ち、この島に我々魔物の世界を人間に認めさせると! この魔王セラティアが宣言する!」

 『『『…………』』』

 「お、おい! そこは我を讃えよ、そして崇めよ! な、泣くぞ、我泣くぞ! おい、おいったら!」

 『『『…………』』』


 ニワトリ相手に魔王を名乗るまごう事なき変人であった。

 そして……。


 『お、おい!? 我を置いてどこにいくのだ! おい、我を置いていくな貴様ら! ちょ、おい!』


 そんな自称魔王の変人にはニワトリだって付き合いきれないらしい。

 ニワトリ達は、魔王を名乗るマスコットを置いてどこかへ去っていった。


 だが、ニワトリ達の判断は当然だと言えるのではないだろうか?

 魔王を自称するなんて、実に現実が見えていないと言えるし、そんなファンタジー脳の変人と面白半分以外で付き合いたいと思わないだろう。

 実に賢明な判断だろう。


 「ま、待て! 我は魔王だぞ! その、我をもう少し大切に扱え! ……しゃなくて我をもう少し大切に扱ってください!」


 …………。


 そしてその頃、学校では……。


 「つまりだ、現代において冒険者とはある意味生産者に当たるのかもしれないな! ちなみにアメリカでは、冒険者を新たなアメリカンドリームの象徴になりつつあるらしい。 まぁ日本より広大な領土がある分、一攫千金のチャンスを持ったダンジョンに出会いやすいのかもな!」

 『『『おー………』』』

 「おいお前ら、なんで俺を見るんだよ」

 「……そりゃアキラが一獲千金のチャンスすらないから哀れんでるのよ……」

 「よーしそこの話してるアキラ、マオの二人組〜、授業中に話をするなー。 一様朝のニワトリの件を哀れんであえて見逃すが、次しゃべったら殴り飛ばすぞ〜!」

 『先生、笑顔で二人に優しくするのは素敵ですけど、チョークを指先だけで粉々に握り潰すのはどうかと思います』

 「おーいそこの女生徒〜。 俺は怒りをチョークに向けて、お前等ぶん殴らないように我慢してるんだぞ〜、とりあえずもう一本粉砕しとくか〜?」

 『『『…………』』』


 物理的圧力で教室内の無駄話を弾圧しつつ、現代社会の授業が行われていた時だった。


 「さて、授業を再開し……ん?」


 ポケットに入れていたスマホが祭を呼んだのは。

 祭は右手でスマホを取り出し、その相手を確認すると。


 『バカ』


 とレイジの事を示す言葉が画面に写っていた。


 (そう言えば、ジンレイの姿が見えなかったし、もしやジンレイは教会送りになったのか?)


 そんな通話相手と現在の状況を照らし合わせ、そう思った祭は。


 「わりぃお前ら、ちょっと自習しててくれ!」


 そう生徒達に伝えて廊下に出ると、レイジの電話に出た。

 その時まで祭は軽い気持ちで。


 (まったく、こんな世の中じゃ、アイツらに苦労させられるな)


 等と思っていた祭だが、電話の内容はそれを吹き飛ばす言葉だった。


 「ようレイジ! もしかして、ジンレイって名の女子が来たんだろ? 大丈夫、二人を除けば俺のクラスの奴らはヤワじゃ……」

 「祭、確かにそいつは今ここにいるが、俺が言いたいのはそんな事じゃねぇ……。 もしかしたらマズイ事が起きるかもしれねぇんだ」

 「……よう、冗談は無しだぜ、レイジ?」

 「ニワトリが落とし穴に人間を落としたり、その落ちた人間を群れで攻撃したって聞いたらどう思う?」

 「……やべぇなそれ……」


 その時祭は、レイジの電話してきた意図を理解した。


 地震の前兆などに動物は異常な行動を取ると言う……。

 つまり、ニワトリが今までしなかった行動をした今、何かが起ころうとしている。

 そう彼女は認識するのであった。


 …………。


 そして、それは間違いではなかった。


 『コケェェェェェェェ!』


 ニワトリ達が今、群れでどこかへ向かっているのだから……。


 「ちょっと待て! 我を置いていくな!」

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