第9話 帰れ、大馬鹿野郎!

 「……つまり、彼女に自分のレベル上げに協力して貰いたいと思って話をしていただけと?」

 「そうなんだ! だからジンレイにはそのお礼に肉まんを作ると約束して……」

 「そ、そうなのか……」


 改めてテーブルに座り直し、アキラから一通りの説明を受け、そんな言葉を聞いたツカサは、いたく感動した。

 それはアキラが自分の夢の為に一生懸命行動している事を知った為である。


 しかし、その先はツカサの想像の豊かさを示す内容だった。


 「わ、私と結婚した時、夫としての役割と頑張っているとは……。 私はお前の成長が嬉しいよ……。 あぁ、言わなくても分かっている。 いずれ結婚しよう……」

 「ごめんツカサ兄、そんな事思っても無かったよ……」

 「ふふ、照れなくても良い……。 分かってる、お前の気持ち、わかってる」

 「分かってない、全然全く、分かってない……」


 幸せそうな顔のツカサ。

 そして、ゲンナリした顔のアキラ。


 ツカサを見るに、いかにポジティブな考えが幸せか、よくわかるのでは無いだろうか?

 そして、アキラを見るに、いかにネガティブな感じが現実を受け入れすぎて、より精神的に疲れてしまうかよく分かるのではないだろうか?

 いずれにしても度を越すのはよろしくない事だろう。


 しかしながら、その中で一番幸福なのは。


 「もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ……」


 寮のコンビニが閉まる前に、肉まんを買い占める事に成功し、今テーブルに置かれたその肉まんを淡々と頬張るジンレイだろう。


 …………。


 その頃教会内の祭壇の前では、邪神が復活の雄叫びを上げていた。


 「あんの盾泥棒め〜〜〜! ムッキ〜!」


 棺桶の蓋を吹き飛ばし起き上がったマオこと邪神は、悔しそうな声を上げながら蘇った。

 そんな邪神の目覚めの音である棺桶の蓋の落下音を聞きつけたのか、奥から柄の悪い若い男が現れる。

 そして男はマオに不快そうな顔を向けながら。


 「帰れ、大馬鹿野郎!」

 「いきなり何よ! 私だって、来たくて来たワケじゃないからね!」

 「ギャーギャーうるせぇ! どうせモンスターにやられたんだろうが、このバカ!」

 「そこまで言わなくても良いじゃない、この、不良神父! それに残念でした〜、私は今回、同級生にビンタをくらったからここにいるんです〜」

 「うるせぇクソガキ! ムカつくから帰れ!」

 「ガキじゃないし、美少女ギャルだし! つーか美少女に夜道を歩いて帰れって言うの!? 馬鹿じゃないの!」

 「あーうるせぇガキだな! また車呼んでやるからちっと待ってろ!」


 そう怒鳴りつけた様な声で真央と会話する。

 顔はとてもカッコいいが、その荒々しい性格が顔に出ており、一様神父をしているが、作業着に手にスパナやドライバーを持った姿は、いかにもガテン系のお兄さんの様な格好をしている……。

 そんな男、黒崎零士くろさき れいじとマオは毎回顔を合わせる度に言い争いをするが、これはある意味彼らの軽い挨拶と言っていい。


 だからこそレイジは、軽い挨拶が終えた後、最前列の長椅子に足を組んで座り、メッセージを自分の彼女に送りながらも。


 「んで、どうしたんだ今日は? えらく荒れてるじゃねぇか?」


 そう不器用ながら話を聞こうとしている訳だ。

 そして、マオもそれに答えるかの様にレイジの逆側の長椅子に座って語り出す。


 「あのさ、私の盾であるアキラが取られたかもしれないんだけど……」

 「あ?」

 「だから、私の盾がとられたかもしれないの! 泥棒猫に!」

 「あ〜……」


 レイジはその悩みを聞いて、すぐに伝えるべき言葉が浮かぶ。


 「お前どうしたい?」

 「え? それは、取り返したいけどさ……」

 「なら、そうしろ!」

 「え!? で、でも……」


 それはレイジらしい、真っ直ぐな言葉だった。

 腕を組み、強い目で祭壇のガラスを見つめ、堂々と。


 そんな言葉に、レイジは自分の考えをマオに続けて伝える。


 「自分で目的が決めたんならそこに向けて進め!」

 「で、でもさ、私不安だしさ……」

 「自分信じて足進めにゃ、取るもん取り逃すぞ!」

 「だ、だけど……」


 だが、その言葉ではマオは物足りないらしい。

 だからレイジは立ち上がり、マオの前に立つと、マオの頭にポンと手を置き。


 「迷える仔羊を救うのも教会の仕事だからな、言いたい事は全部吐き出してけ。 それで取り戻してこい!」


 その足りないパズルのピースを埋めるかの様に、真剣な顔でそうマオに告げた。

 が。


 「うわ、ナルシスト……」

 「あ?」


 どうやら、最後のピースは間違っていたらしい。


 「何それ、不良神父カッコつけてみたの〜!? うわ、ダッサ!」

 「う、うるせぇバカ! 悪いか!?」

 「超悪い、だって笑い殺す気〜」

 「てめぇ、待ちやがれ!」

 「ばーかばーか、不良神父のバーカ! あはははは」


 だが、合わないピースは笑いを生むピースではあったらしい。

 先ほどまでの落ち着いた表情と違い、まるで子供の様に笑いながら教会を逃げ回るマオと、そのマオを追いかけ回すレイジ。


 「おうレイジにマオ! ってお前ら……お遊戯会でもやってるのか?」


 では、それを見た第三者もとい第三ゴリラはどう思うだろうか?と問われれば、子供が戯れている様な印象しか受けない様だ。

 しかしだ。


 「おう祭! このバカを引っ叩こうとだな……いて!? 何でビンタしやがったんだ!」

 「うるせぇレイジ! 女に手を出すバカがどこにいやがる!? 男の風上にもおけねぇな!」

 「ふざけんな! 俺は言葉使いも知らないバカに言葉の使い方を教えるだけだぞ!」

 「お前が言葉遣い云々言うな!」

 「うるせぇバカ祭! てめぇに言われたくねぇ!」

 「バーカ!」

 「クーズ!」


 ここまで似たもの同士のカップルも、そうそういないのでは無いだろうか?

 だが、結果論で言えば喧嘩はすべきではなかった。

 何故なら、この喧嘩は長引き、結局マオを寮に送る時間は夜中を過ぎてしまったのだから。

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