第8話 あーあー聞こえなーい

 「「私たちの盾(彼)を返せ!」」


 それは嫉妬から来るモノなのか?

 それとも独占欲?

 はたまた別の何か?


 その答えはわからないが、一つだけ答えが出せるとすれば。


 (あぁめんどくさい……)


 目の前でテーブルを叩き、声を合わせてそう言った二人は、壁に張り付いたシール並みに大変めんどくさい存在だという事だろう。


 そんな面倒な存在達の気持ちは、まだまだ治らない様子で。


 「あの盾、私専用なんだから! 何で他人の盾を取ろうとするの!?」

 「私はだな、アキラの事を小さい頃から運命で繋がっているんだぞ!」

 「第一、盾なんてその辺の男を使えば良いじゃないの! その辺の男を!」

 「なのにその運命の糸を、私とアキラの愛の糸を切ろうと言うのか!?」

 「それに私は、アキラが心底嫌がる表情が好きでたまらないの! そこまで私はアキラに盾としての価値を見出しているの!」

 「私はな、HP1のくせに、モンスターを倒して悠々自適な生活を送ろうと夢見がちなことを言うダメ人間らしさが、愛おしくてたまらないんだ! だからアキラとの赤い糸は切らせはしない!」


 それは不協和音の二重奏であり、自己主張の塊であり、言われている当の本人アキラが喜ばない言葉であり……。

 少なくとも、得する者がいるのか?疑問の声を投げかけたくなる主張であるだろう。


 しかしながら、そんな主張を黙って話を聞いていられるほど、ジンレイは気長ではなかった。

 その理由はたった一つ。


 (早くしないと寮のコンビニが閉まるな……)


 それは、彼女の肉まん補充ポイントである寮のコンビニに営業時間があるからである。


 無論、肉まん補充スポットは寮のコンビニだけではないが、一番近いコンビニの肉まんは帰りに買い占めてしまった為、寮のコンビニが閉まれば1時間近くかかるコンビニまで行かなくてはいけない。


 早く空腹を満たしたいジンレイとしては、その展開だけはさけたいところ。

 だからジンレイは覚悟を決める。


 


 そう覚悟を決めたジンレイは席を立ち、入り口の扉の間反対にあるコンビニへ足を進め始めるが。


 「ちょっと何立ってんの! 私達の話はまだ済んでないんだけど!?」

 「そうだ! 我々の話はまだ終わっていない!」


 当然、不協和音を歌う二人は、まるでレトロゲームのモンスターの様に横並びになり、大の字で行く手を遮る。


 敵とエンカウントした。


 その言葉がぴったり合う瞬間だった。

 そして当然、エンカウントしたと言う事は。


 「もう言葉で無反応な感じもムカついていたし、物理的会話で理解させてあげるわ!」

 「ふっ……。 なら私も物理的会話をさせてもらおう」


 モンスター達との戦いの始まりであろう。

 モンスターAであるマオはジンレイに向かってジャンプし、その落下速度とジンレイへ向かう力を拳に込めてぶつけようとしている。

 そしてモンスターBであるツカサも魔法の力で二刀の剣を手に、マオに続くようにジンレイへと迫る。


 人数の上では明らかに不利、しかも片方はなかなかの腕を持つ雰囲気がある。

 しかし。


 「ぎゃ!」


 もう片方が、ビンタ一発で黒い棺桶の姿なってしまう程弱すぎる為、あまり気にする必要は無かったようだ。

 そして、その棺桶姿のモンスターAはモンスターBの弱点でもあったらしい。

 モンスターBことツカサは、マオの棺桶にサッと近づくと、マオに対して労いの言葉を送る。


 (棺桶という言葉を使っては、マオが自分が弱いと傷つくかもしれない)


 そう思いながら……。


 「マオぉぉぉぉぉ! 貴様、マオを棺桶姿にしたな……。 おお、マオ、可愛そうに……。 こんな黒くて硬い物体に……、そう、黒くて硬い物体に、何で……。 うぉぉぉ〜〜〜!」

 「ツカサお兄ちゃん、その言い方はやめて! 素直に棺桶って言って! あと、ガンガン棺桶を叩かないで! ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 「す、すまないマオ……」


 しかしながら、悔しさのあまり棺桶を叩いてしまった結果、戦闘不能の仲間への追い討ちになってしまった。

 おかげで、先ほどまでの不協和音はガンガン響く金属音とマオの悲鳴、そしてツカサの鳴き声の三重奏へと変化を遂げ、その様子を淡々と見るジンレイは、無表情のまま、そっと耳を塞いだ。

 だが、それはツカサの怒りを買うことになった。


 「き、貴様……。 貴様のせいでマオは棺桶姿になったのだぞ! 今更耳を塞いでも現実は変わらない!」


 ツカサは正当防衛という言葉を知らないらしい。

 それに、棺桶になったから永遠に会えない訳ではない。

 蘇生魔法を使うなりするか、カップ麺を作りつつ待っていれば、教会で蘇るのだ。

 何をそんなに怒る必要があるのだろうか?


 だからこそジンレイは。


 (さて、どうするべきか……?)


 この、冷静さを欠いたモンスターBの対処法を静かに考え始めるのであった。


 (む?)


 そして考え始めて直ぐに、とある記憶が鮮明に蘇る。

 それは、彼女の地元の女友達である宥希ヨウシーが教えてくれた事だった。


 「いい、ジンレイ? アニメでは相手の話を書きたくない時、使える便利な言葉があるの。 それは……。 あのさ、話を聞く時くらい、肉まんを食べるのは……」


 そして、ジンレイは今、その助言を活用すべく、実行に移した。


 「あーあー聞こえなーい」


 それは見事なまでの棒読みだった。

 棒読みだが、耳を塞いでいる姿を見ると、それは本心のようにも感じられる。

 だが、その助言を使うタイミングが悪かった。


 マオを教会へ運ぶ宅配手続きが済んだタイミングだった様で、みるみる棺桶が薄くなり、そしてシュッと消え去ったのだから。


 そこは失敗と言えるだろう、だがしかし。


 「貴様!? もう許さんぞ! ん?」

 「ツカサ兄、落ち着いてくれ!」

 「う! は、離せアキラ、このままではマオが浮かばれないんだ!」

 「ツカサ兄、マオは死んでいないから!」

 「ふふ……。 しかし良いな、羽交い締めにされるのも……。 お前の心の成長も、体の一部分の成長も感じられて……」

 「ツカサ兄、お願いだから頬を赤くして言わないでくれ!」


 アキラはジンレイを助ける為に今、ツカサを羽交い締めにしているのである。

 そしてその行動は、ギリギリ主人公の威厳をギリギリ保てたのではないだろうか?

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