第7話 可愛いから許されるよね

 時間は少し前に戻る。


 「ち、治療とか言って迫らないでいいじゃないかぁぁぁぁぁぁ!」


 アキラは部屋を飛び出した。

 それは治療と称してツカサがアキラにベタついたからである。

 そして残されたマオと、当たり前のように血液パックから血を補充するツカサは、アキラの事など気にせず床に座って会話するのだが。


 「あははははは、ツカサお兄ちゃん、まーた振られちゃったね〜!」

 「あの年頃は反抗期だからな、私の愛についツンデレしてしまうのだろう。 しかしながら我が弟、可愛いな!」

 「いや、ツカサお兄ちゃん、アキラのどこが可愛いの? 男だよ、成人男性だよ?」

 「ふふ……。 それは、ムラムラする気持ちに抗おうとする表情だな! ふふ、ふふふ……、あぁ私もつい、激しく可愛がりたくなるな!」

 「あ〜……。 うん、まぁ、ツカサお兄ちゃんらしいよね……。 あと、落ち着かないと追加の血液パック、必要になるよ……」


 友情シールドの匠も、生贄にするリリースアキラがいなければ、ツカサのラブトークには手こずる様だ。

 しかも。


 「マオ、やっぱりお前は可愛いな! 昔からお前の可愛さは変わらないな!」

 「いや、変わってるからねツカサお兄ちゃん! 金髪に染めてるからね! ちょっとギャルっぽくして高校デビューしてるんだからね!」

 「ふふ、そう手をバタつかせて必死に言わなくてもそれは分かってる! 見た目も金髪に染めたり、上手に今風メイクをしていてとても可愛らしいが、私は今、マオの可愛いらしい内面が昔のままと褒めているんだぞ。 可愛い可愛いマオの内面を!」

 「な、内面が……えへへ……」


 ツカサの愛情たっぷりの褒め言葉にマオは弱い様で、顔を赤く染め、両手で顔を押さえて恥ずかしがっている。


 「まったく照れた姿も可愛いぞ!」

 「や、やーめーてーよ〜、撫でないで、ちょっと恥ずかしいから〜……ん?」


 そして、ツカサがマオ頭を撫でた時だった。

 視線がちょうどツカサの制服のスカートに目がいったマオはふと昔から思っていた疑問を脳の奥底から無意識に蘇生させる。

 それは。


 


 と言う昔から抱いていた疑問だった……。


 …………


 それは彼女が小学6年生になった春のことだった。


 「やぁアカネ、今日も可愛いな! ふふ……、ちゃんと食べて素敵な美女になるんだぞ! あぁ……想像するだけで……ふふ……」

 「…………!?」


 そこには、数日前まで近所でイケメン小学生と言われていたツカサがただの美少女と化しており、マオは言葉を失った。


 言葉を失って当然だろう、仲の良い知り合いがイメージチェンジ……ならまだしも、見た目の性別をチェンジしてきたのだ。

 その衝撃の強さは。


 「美男子から美少女へのチェンジを受け止められますか?」


 と言う質問に。


 「YES We can!」


 と言えないどころか、場合によっては、衝撃の大きさ故に、常識的思考を不法投棄してしまいかねない?


 だからこそ当時の彼女は。


 「ワーステキー、オニーチャンー。 アハハー」


 と片言で感想を述べている。


 だが、その時聞けなかった疑問は、徐々に徐々に膨らんでいく。

 そして今、その膨らんだ空気は逃げ場を失い、遂に。


 「ふと思ったんだけど、何でツカサお兄ちゃんは女装してるの?」

 「!?」


 口からその疑問は漏れ出した。

 当然、不意を突く様に放たれた言葉はツカサを一瞬驚かせるが、すぐに冷静さを取り戻すと、人差し指を唇に当てながら、その答えを口にした。


 「んー……」

 「…………」

 「……まぁ女装が好きだからな!」


 その時、マオは時間が止まったかの様に感じた。

 それはまるで、モノクロの写真に閉じ込められたかの様。

 そんな一瞬の時の中で彼女の脳内に潜んでいた様々な人格が声を上げた。


 (女装は萌えだから正義だよね)

 (お兄ちゃん、嘘ついてる……)

 (可愛いから許されるよね)

 (女装するの普通だよね)

 (何となく思っていたけど、やっぱりお兄ちゃんとあの事は何か関係が……)


 そして、その人格たちの意見が出終えた時、時間は進み始め。


 「ナラ、シカタナイネー。 アハハー」


 彼女は片言な返事を口にした。

 それは彼女の脳内で(聞いたら負け)と言う結論が出たからであろう。


 …………。


 「遅い! アキラは何をやっているんだ」

 「ホント遅いわ! アキラ何やってるのよ!」


 それは10分が経過した頃だった。

 ツカサはアキラのあまりの遅さに心配し始め、遂には。


 (も、もしや、あまりの可愛らしさに男達に拉致監禁され、そこからもしや、ソイヤソイヤソイヤソイヤから、みーみみみーな展開になっているのでは……)


 可愛らしさのかけらも無いアキラのどこが可愛いのか?と言いたくなる言葉を言いつつ、残念な妄想をしてしまう。

 そして常識の再インストールが済んだマオも。


 (なんか面白くない! アキラからかいたい! 嫌がらせしたい! たーいーくーつー!)


 とまるで子供の様な事を考え、脳内で手足をばたつかせていた。

 どうやら、ダウンロードしたソフトウェアは最新では無かった様である。


 しかしながら、アキラがいないと困ると言う結論は同じ。

 そして二人は。


 「よしマオ、アキラを探しに行くぞ!」

 「うん!」


 アキラを探す冒険の旅へ出発したのである。


 …………。


 ……が、そのアキラを探す冒険は、5分も経たないうちに終わりを迎えたのであるが。


 「む?」

 「げげ、あれは……」


 二人が壁から上下に並んで覗き見る先では、アキラとジンレイがテーブルに向かい合って座っていた。

 そして、その様子を目にしたマオは嫌悪した目でマオを睨んだ。


 それは、マオがジンレイの事をと認識をしているからである。


 しかも、その友情シールドは、長年付き合いがあり、しかも友情シールドとしての始めてを奪ったのも彼女だ。

 それだけ愛着のある盾を見ず知らずの他人に奪われると考えると、彼女が嫌悪した目をするのは仕方のないことではないだろうか?


 だからこそ彼女はジンレイを見ながら。


 「ははーん、あの泥棒猫〜! アキラを魅了して私の盾を奪う気ね。 よし協会送りだ!」


 ジンレイを倒すモチベーションを一気に高める。

 しかしながら、アキラほど残念でないにしろ、彼女はレベル5である。

 正攻法は死亡フラグである。


 ついでに言えば、一撃しか耐えられない盾を使うより、他の盾に変えた方がいいのではなかろうか?


 ただ、そうしないのは彼女は盾に対して強い想いがあるからだと言えるだろう。



 そして、マオの下から覗くツカサはと言うと。


 (私の……私のアキラを取ろうとしているのか……)


 愛情と欲望が入り混じった様な、ドロドロの感情に支配されている様だ。

 その強さは、かなりのモノなのか、握っていた壁の角にヒビが入ってしまっている。

 いずれにしても、危険な状態である。



 そして、そんな二人は、互いに目線を合わせると、静かにうなずくと、まるで蛇の様に足音立てずにジンレイの背後へ回り。


 「アキラ、みっけ……。 そして、初めまして泥棒猫……」

 「少し君に、少しお話があってだな……」


 そうジンレイの背後から声を上げるに至ったのである。

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