第6話 アキラ、みっけ……。 そして、初めまして泥棒猫……
「俺は、大食いだと驚いただけで!」
その言葉から始まった対話は今。
「もっきゅもっきゅ……もがが、もがもががもがもがが、もがもがもががもがもがもが?」
「いや、食べ終わってからで良いから、話すのは……」
「もがが?」
平和的な解決が実現しようとしていた。
二人きりとなった入り口のテーブル。
そこで向かい合って行われた会談は、二人の誤解は解き、互いの印象は変える事ができた。
肉まんを頬張るジンレイは、《とても怖い転校生》と言う認識から《肉まんが好きな人》と言う認識に!
そしてアキラも、《かわいそうな人》から《やっぱりかわいそうな人》に!
この結果から、いかに話し合う事が大切か、理解出来るのではないだろうか?
「もっきゅもっきゅ……ゴクリ、まぁ何だ、お前も大変だな……」
さて、食べ終えたジンレイは、とりあえず同情の言葉を送る。
と言うのも。
「だって、だって、ヤバかったんだ、ツカサ兄の色気が! ホント、ヤバかったんだ!」
アキラはロリコン認定された後、治療と称して積極的なスキンシップを取られそうになった為、逃げ出して来たと悲しそうに訴えられたから、彼女なりに気を使って出た言葉であった。
しかしながら、本音を言えば「そんな人間と付き合う方が悪い」と思っている上、正直肉まんのおかわりを買いに行きたくて仕方のない彼女は。
「そうだな、それより肉まん食べたいな……」
そう適当な返事をした。
それは実に正直かつ、適当な返事だろう。
しかし、これは浅はかなアキラが浅はかな考えを思い浮かべるに至る事になる。
(ん? ふと思ったが、もしかして肉まんをあげたらレベル上げに付き合ってくれるんじゃないか?)
それは物で人を釣るという策。
確かに、友情シールドの匠たるマオに協力してもらうよりは、圧倒的に頼りになるだろう。
そしてアキラは早速、交渉に入る。
「その、ジンレイさん」
「別にジンレイでいいぞ」
「じゃあジンレイ、休日だけで良いから、俺のレベル上げを手伝ってくれないか? その代わり、毎日手作りの肉まんを提供す……」
「何個だ?」
「ん?」
「何個か聞いているのだが?」
しかしながら、ここもアキラが浅はかな所だろう。
当然、ジンレイは2〜3個で満足するわけがなく、かと言って毎日大量の肉まんをご馳走出来るほどアキラは裕福ではない。
そう、彼は今迫られているのだ!
財政を重視し、彼女に渡す肉まんをギリギリまでケチり、自分の素晴らしい人間性を見せるか?
それとも、財政を無視し、出せるだけの肉まんを渡す誠意を見せ、第三者からしてつまらない選択肢をするか?
もしくは、第三の決断を選ぶのか?
そして、そんな選択肢から彼が選んだのは。
「俺は出来る限り……、小遣いから考えて、多分一日6個が限界だと俺は思ってるけど、ジンレイの希望はいくつだ?」
誠意をみせるやり方だった様だ。
実に主人公らしくも、つまらない選択だった。
(ほう?)
その言葉にジンレイは好感を持った。
肉まんの妖精である彼女としては、出来る限りの量を、それも手作りの肉まんと言う作り手の個性が光る味覚を堪能させてくれると言っているのだから。
……それが、美味しいハーモニーを奏でるか、素晴らしい不協和音を奏でるかは分からないが……。
そして彼女は腕を組み、息を整えると。
「いいだろう……」
冷たい目を保ちながらもそう言った。
その結果にアキラの右手は、テーブルの下で静かにガッツポーズをした。
それはまるで、勝利を確信したかの様。
その様子はやがて顔にも浸透し。
「ふっ……」
口から笑みを溢してしまう。
のだが……。
「アキラ、みっけ……。 そして、初めまして泥棒猫……」
「少し君に、少しお話があってだな……」
「うわっ!?」
それは笑顔と言うには殺気を放ち過ぎた、不気味な笑みだった。
マオとツカサの二人は、ジンレイの背後から湧き出し、そして肩にそれぞれ手をポンと置く。
ただ、その手は軽く力が入っている為、肩に軽く指がめり込んでいる。
「肉まんを買ってくる……」
なのでジンレイは察した、ここにいたら面倒な事になりそうだと。
だから彼女は空腹を満たすついでにその場を去ろうと立ち上がるのだが。
「まぁ待ちなよ泥棒猫……。 肉まんなら、パシリ兼シールドのアキラに買いに行かせればいいからさ〜……」
「そうだな……」
「ま、マオ! それにツカサ兄も勝手な事を言うなよ!」
ジンレイの左右の肩にそれぞれ二人の体重がかかって立ち上がれない。
その様子は目の前に座るアキラにも十分に伝わっている。
だからアキラは、この状況をなんとかすべく、口を開くのだが。
「と、とりあえずここはだな、ジンレイとも……」
「アキラ、ここからオトメ同士の話し合いが行われる事になったんだ、だからゆっくり肉まんを買ってきてくれ」
「だ、だけど……」
「行け……」
「はい!?」
ツカサが滅多に見せない冷たく恐ろしい表情の前では無駄であり、その顔を見て怖くなったアキラは、急いでその場を後にした。
しかし、オトメ同士とは一体……。
さて、ジンレイは現在の様子から、二つの事を察した。
一つは逃げるタイミングを完全に逃した事。
そしてもう一つは。
「大丈夫だよジンレイちゃん。 大丈夫……」
「そうだジンレイ、少しお話をするだけだからな……」
何故だかジンレイに負の感情が寄せられている事からだろう。
その証拠として、ジンレイの肩を握る二人の手の力がギリギリ強くなっていっている。
(私は何かしたのだろうか?)
そしてジンレイは静かに、何故負の感情を向けられているのか、考えるのであった。
しかしながら、教会送りの双璧であるマオの強気な態度は一体どこから出るのであろうか?
ジンレイに敵うはずがないであろうに……。
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