第5話 あっ!?
「あー……そのだな……。 私も結婚する二人に小言を言いたくは無いのだが、逃げるニワトリにそんな事を言って情けないと思わないのか? 私も同級生からその話を聞いた時、恥ずかしかったぞ……。 第一、結婚後も二人と同居する身としてはだな……」
「ツカサ兄、どうして俺とマオが結婚することになってるんだよ?」
「何を言っている? 私がお前とマオ、二人と結婚すると言っているんだが? あぁ安心しろ、私は好きであれば男女差別せずに何人でも愛する事ができるぞ! ちなみに私は攻めるのが好きだ!」
「い、いやツカサ兄、いろいろとおかしいからね! 『当たり前だろう?』って顔してるけどさ!」
「……私じゃ不満か? アキラ……」
「あ……」
そしてパジャマ姿で床に座るアキラの下顎を、制服姿のツカサの右手がクイッと上げ、アキラの目の前をツカサの顔で覆い隠す。
それはアキラの胸の鼓動を激しくし、顔を赤く染めてしまう。
目の前に広がるのは美少女の顔。
肌に感じるのは妖艶な雰囲気纏う甘い声と生暖かい吐息。
勿論、その相手が男だとアキラは分かっている、しかし。
(つ、ツカサ兄は男……。 だ、だけど、その、だけどその魅力が……)
童貞にはその魅力に抗う力は無かった。
そんなアキラにトドメを刺す様にツカサは手慣れた様子で優しくアキラをお姫様抱っこし。
「ふふ……安心しろ……。 私が守ってやろう、心も、体も……」
「…………」
アキラにそう甘く優しく囁いた。
そして……。
「いやさ、否定してたけど、やっぱり『AKIRA IS NICE GAY』って合ってたじゃん……」
「あっ!?」
「あっ!? カメラ持ってくれば、Tシャツにコラ写真とか作って、アキラに嫌がらせ出来たのに!?」
「お前は人に嫌がらせをしなきゃ、生きていけないのか!?」
ジャージ姿であぐらをかき、その一部始終を見ていたマオに冷たい視線を向けられ、アキラはハッとした後、そうツッこんだ訳だが。
「そんな事よりアキラの部屋探索〜探索っと……。 エロ本みっけ! ん? この表紙を見るにアキラったら巨乳系妹が好きなんだ〜……! これはみんなの前で発表しなきゃ!」
「何!? 私の可愛い夫がロリコンだとバレては大変だぞ……。 仕方ない、私がお前とキスをしてだな、ロリコン疑惑を晴らしてやろう」
「俺、ロリコンじゃねーよ! 第一ツカサ兄とキスしたら、余計な疑惑が確定になってしまうだろ!」
その時には既に、マオが自宅探訪の旅を始めており、彼のベッドの下からイヤラしい雑誌を右手に掲げて、そしてツカサは凛とした笑みを浮かべながらアキラにそう告げた。
そしてツカサの興奮が最大に達したのだろうか?
「落ち着け! 治療だこれは! さぁ、私とキスをしよう!」
「ツカサ兄が落ち着け! つーか鼻血でてるって! あ……」
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ツカサお兄ちゃんから鼻血がぁぁぁぁぁ!」
アキラを含む前方の広範囲が
ここは三人の住む寮、エーテリアルの中にあるアキラの部屋。
そこで発生したアキラの不幸はまだまだ始まったばかりである。
…………。
「マオの奴、またアキラのとこ、行ってるらしいわよ、それにツカサ君も!」
「ホント!? アキラはどうでもいいけど、ツカサ君と一緒の空間にいるだなんて、ちょっとムカつくんだけど!」
「ホント、分かるわー……」
さて場所は変わって、エーテリアルの入り口付近には、24時間営業のコンビニと食堂、それに丸テーブルが並べられている。
そんな入り口は、男子寮と女子寮の入り口への境界線と言っていい場所だろう。
その入り口のテーブルにて、女子生徒三人組がマオの悪口のコーラスを歌う中。
「もっきゅもっきゅもっきゅ……」
帰りに買ったコンビニの肉まんを全て食べてしまった肉まんの妖精ジンレイは、テーブルの一角に座り、寮の中のコンビニの肉まん制覇に乗り出していた。
そう、テーブルの上の大きな皿の上に乗るそれは肉まんピラミッドとでも言うべき存在……。
そうなのだ、ここに黄河文明とエジプト文明の夢のコラボが実現してしまったのだ!
それを一段、また一段と食していくジンレイ。
これこそ、食の創造と破壊と言えるのではないだろうか!?
だがしかし、それを
「……マジで……!?」
その答えは驚愕と尊敬と言う感情かもしれない。
それは、人間と言う生物が、平均より長けた能力を良い遺伝子として認識する事があるからその様な感情が湧くのかもしれない。
「もっきゅもっきゅもっきゅ……」
だからと言って、その様な目線をジンレイは嬉しくなど感じない訳だが……。
「もっきゅもっきゅ……ゴクリ、なんの様だ?」
「あ、いや……」
さて、黙って見つめられてもジンレイは気味が悪い。
なので、その様にアキラに尋ねたのだが、どうもはっきりしない口調、というのも。
(顔、怖ぇぇぇぇぇぇ! 下手な答えをしたら殺される!?)
ジンレイの目が怖いからである。
一つ言うなら本人は怖い顔をしているつもりはない。
無意識の怖い顔なのである。
そのおかげか、二人の会話は途切れてしまう。
背後で流れる悪口のコーラス、アキラの流す冷や汗、そして小刻みな全身の震え。
その様子は、ジンレイも認識したらしく。
(む? 震えているな……、あぁそう言う事か……)
と静かに認識する。
そして、椅子から立ち上がり、アキラの前に立ち。
「トイレはあっちだぞ」
「へ?」
そうトイレの場所を指を差して教えるが、アキラはその予想外の反応に、間抜けな声を上げる。
しかしながら、この間抜けな声、ジンレイを困惑させるには十分だったらしく。
(な、なんだこの男は? ま、まさか一緒にトイレに入って欲しいと言いたいのか?)
トンデモない想像をしてしまう訳である。
世にバカはうつる等と言う言葉があるが、もしかしたら勘違いもうつるものなのかもしれない。
そして、うつった勘違いが更にうつし、勘違いが熟成するからこそ。
「わ、私は女だが? 男じゃないからトイレを共には出来ないが……」
「そ、そんなの見たら分かるって俺!」
「……つまり私をトイレに連れ込んでだ……。 もしやそういう意味で誘っているのか?」
「違う、そうじゃなくて!」
「じゃあトイレで私に何をするつもりだ、貴様は?」
「落ち着け! トイレから離れろ!」
こんな奇妙な会話を生んだのではないだろうか?
なお、アキラは。
「あのクールビューティなジンレイちゃんをトイレに連れ込もうとしたチャレンジャー」
と言われる様になるのだが、それはまた後のお話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます