第4話 貴様! 私の可愛い弟達に何をしているんだ!?
さて、HPギリギリマスターアキラと、友情シールドの匠マオは、目の前のニワトリとにらめっこしている。
かたやHP1の男。
かたや、回復魔法が使えるレベル5の女。
そして武器など持たない二人。
相手はそんな二人の倍以上のレベルを持つニワトリ。
クチバシでつついて、二人を教会送りにするのが日課になるのでは無いか?と思われるニワトリ。
とりあえず、二人と熱い友情が結ばれそうなニワトリ。
そんな相手に対し、二人が出来るのはたった一つだけだった。
「「こっちの方が美味しいから!」」
そう、友情シールド!
自分が生き残るには相手を生贄に……ではなく、必要な犠牲になってもらうしかないと言う考えからである。
だから二人は互いを指差している。
が、しかし今日は珍しく教会送りにはならなかった。
バンッ!
『……コケ!?』
耳に響く発砲音、そして僅かに漂う硝煙の臭い、そしてニワトリの羽をかすった弾丸の感覚。
それは、二人の後方に立つジンレイが、上着の中に隠していたハンドガンのトリガーを引いたからである。
そして。
「……肉まんの具材……ジュルリ……」
『コ、コケ!?』
よだれを垂らしながらゆっくり近づくジンレイに恐怖を感じたのか、ニワトリはジンレイの前進に合わせるかのようにゆっくり後退し。
『コ、コケェェェェェェェ!?』
「あ……逃げた……」
遂にニワトリは、後ろを向いて全力で逃げ出した。
それはジンレイの殺気まじりの食への執念がニワトリに恐怖を与えたのだろうが。
「た、助けて! 俺、肉まん、肉まん作るから! 作れるかわからないけど!」
「そ、そうだから! アキラが作ってくれるから!」
その殺気はアキラとマオを怯えさせるには十分だったようだ。
しかしながら、そんな彼女の心情を知らぬ者が見たらどう思うのだろうか?
そう、トラブルの始まりである。
「貴様! 私の可愛い弟達に何をしているんだ!?」
それは突如、三人の耳に飛び込んできた中性的な声だった。
その声の主は二人より一つ年上で、隣のクラスの同級生で、二人の幼なじみである東条ツカサが発したもの。
そんなツカサはポニーテールを揺らしながら凄まじい速さでグラウンドを走り抜けてきた。
見た目は文武両道な美少女という印象を受ける容姿。
特に凛とした瞳とジンレイと同じ位高い身長は、印象的だ。
……しかしまぁ
そう、彼は男なのだ。
ミニスカートを履いているが、彼は男だ。
大きな胸もあるが、それは本物に瓜二つのパット。
だから、ちゃんとアレも付いているし、水分を放出する時は立って行う。
そんなツカサは、ジンレイの襟元を掴むと、二人のために訴えかけ始めた。
「私は、この二人の事を非常に大切にしていてだな、血が繋がってなくとも、ホントの妹、弟だと思っているんだ!」
(それよりお腹が減っているのだが……)
「そして出来れば二人に結婚までしてもらって、三人で仲良く暮らして……」
(この感じだと作るより、コンビニで何か買った方が良さそうだな……)
「何だ貴様! 先ほどからダンマリを決め込んで! 貴様が二人にやった所業はしっかり見ているんだ! これが原因で二人がイチャイチャラブラブしなくなったらどうするんだ!」
(……とりあえず、今日は何を買おうか……)
だが、勘違いからなる訴えなど、ジンレイの食欲の前では全くの無意味。
ある意味、人間の持つ食欲の凄さが理解できる一場面と言えるのかもしれない。
さて、そんな様子を見る二人はと言うと。
「いや、ツカサ
「ツカサお兄ちゃん……えっとさ……私もアキラとの結婚生活って想像できないって言うか……」
「なぁ……」
「うん……」
それは恐怖心より羞恥心が勝った瞬間だった。
先ほどまでとは打って変わり、二人は恥ずかしそうに顔を染めている。
そして決して相手の顔を見ない、それは互いに相手への意識が普段以上に高くなっているからだろう。
しかしながら。
(あ、肉まん等を買って行こう)
そんな光景も食欲の前には無意味の様で、ジンレイは相変わらずのポーカーフェイスでそんな事を考えていた。
そして遂に。
ぐぅぅぅぅぅぅ……。
空腹の鐘が鳴り響く、それはジンレイを除く三人の気を緩める様に。
そして音色を聞いたジンレイはツカサに。
「離してくれないか? 食材を仕留め損なったので、早くコンビニで晩ご飯を買いたいのだが……?」
「あ、あぁ……。 その、すまない……」
と言い、掴まれた襟元の手が離れたのを確認すると、静かにその場を後にした。
何とも言えない空気をその場に残して……。
…………。
中華料理。
それは食欲が生んだ至高の料理の一つ。
シュウマイ、麻婆豆腐、中華まん……。
これらは特に、冷凍食品として販売されていたり、コンビニで普通に発売されていたりと日本では身近な中華料理と言えるだろう。
「肉まん、美味いな……」
さて、そんな中華料理の中でもコンビニの肉まんは、ジンレイのお気に入りの様だ。
それを指し示す言葉として、この様なものがある。
彼女はコンビニで肉まん等を14個購入した。 それは店頭で温められていた全てである
それはいかに彼女が肉まんを好きか、理解するには十分なのではないだろうか?
更に言うならば。
昨日の朝も昼も夜も肉まん、その前も、その前も、その前も……
つまり、彼女の身体の殆どは肉まんで出来ているのだ。
いずれ、肉まんの妖精と言われる日も近いかもしれない。
「もぐもぐ……」
そして彼女はコンビニを出ると闇に包まれゆく道を歩く。
現実では決して聞こえない、『もぐもぐ』と言う擬音を口にしながら彼女は歩く。
森のトンネルを潜り、地面の一点を照らす様に取り付けられた電柱の明かりを横切り……。
そんな道を歩いた最後には、とても高い鉄の柵に囲まれた寮が見えて来る。
それがジンレイやアキラ達が住む寮、エーテリアルである。
そして、エーテリアルの入り口の明かりがジンレイを照らそうとした、その時だった。
「コケェェェェェェェ!?」
「来んな! こっち来んな! マオのとこに行け!」
「ちょ! 鶏さん、アキラの本日の昼ごはんに焼き鳥入ってたから! 仇を打つチャンスだから!」
「マオ、お前適当なこと言うなよ、このバカ!?」
「アキラのバーカ! バカって言う方がバカなんです〜! そんなバカのアキラには魔物惹きつけポーションをかけてあげます〜」
「上等だ! それならお前を意地でも道連れにしてやるからな!」
鶏とお友達になった二人が、後ろから全力ダッシュで迫ってきたのは。
そして、ジンレイが後ろを振り返った瞬間、ニワトリの瞳に、電柱の古い電球によって薄明るく照らされたジンレイの姿が映る。
「コケ!? コケェェェェェェェ!」
それは、死ぬかもしれないと野生の感が告げたのだろうか?
鶏はビクッとその足を止め、次の瞬間には全力で逃げていった。
「二度と来んなニワトリ!」
「私の強さにビビった訳〜? だっさーい!」
ジンレイのおかげと気づかずに、そう声を上げる二人に見送られながら……。
そして、そんな情けない二人の声を聞きつつ寮に入るジンレイは思った。
(これがバカと言う者か……)
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