第3話 コケェェェェェェェ!?

 「…………」

 「「…………」」


 昼休みの教室、窓の外を並んで覗く二人はジンレイの無表情かつ冷たい目を背中に受けると言う以上事態に巻き込まれていた。


 さて何故、ジンレイが二人を見ているかと言うと。


 (HP1とは可哀想に……)


 クラスの男子達が話しかけてきた際に聞いた「あいつHP1しかないんだぜ〜」と言う話を聞いたから。

 だからジンレイはアキラに哀れんで見つめていただけなのだが。


 (も、もしかして紹介の時に騒いでいたから、俺らに怒っているのか!?)

 (も、もしかしてアキラに友情シールドとしての価値に気づいて、私からアキラを奪い取るつもりかも!?)


 とそれぞれ間違いアンサーを思い浮かべた二人は冷や汗を流しながら、静かに外を眺める。



 青い空、白い雲、目の前は自然と歴史を感じる瓦の建物が入り混じっている。

 娯楽になる建物は少ない、けれど自然が代わりに広がっている世界……。

 そして、それを眺めつつ二人は。


 「い、いい天気だな〜ま、マオ!?」

 「し、自然サイコ〜よね、あ、アキラ!?」


 と、学校の外に広がる風景を眺めるのであった。



 だが、わざとらしい……、実にわざとらしい口調である!

 冷静さをぶん投げたかの様な、カタコトな感想、それは自然と。


 (あの二人、会話がぎこちないな。 ……友達はいるのだろうか?)


 ジンレイが二人に対する新たな哀れみを生み出すだけであった。



 青い空、白い雲、教室では男子達がHP1が耐えうるギリギリを予想し合う。

 ある者は、ケツバットがギリギリだと予想し、またある者は、股間を思いっきり蹴り上げるのがギリギリと予想する。


 しかし、悲しいかな?

 違いがギリギリに対する熱を持っている者同士の話し合い、故に。


 「だから、ギリギリ耐えれるのは股間蹴り上げまでだっつーの!」

 「バカか貴様!? それは男に対する殺人行為だぞ! ギリギリはゴリラ先生にケツバットをさせるに決まっているだろうが!」

 「お前も馬鹿じゃ!? ゴリラの攻撃は全て凶器なんだよ! だからギリギリはケツバット、しかしやるのはジンライちゃんだな、これは!」

 「待て、ケツバットを攻撃と呼ぶのは軽率ではないか!? 私はだな……」


 それぞれの仮説の衝突が起きるだけで先へと進む事は無かった。

 それだけ、この問題は難しい研究なのだ!



 青い空、白い雲、教室では食事を終えたゴリラが微妙な三人を眺める。

 そう、ゴリラが三人を見ているのだ!

 そして、ゴリラ教師の祭は、ため息を吐きながらこう思うのであった。


 (はぁ……。 俺のクラスって、おかしな奴らの巣窟だよな……)


 確かに彼女の言う通りで、このクラスはおかしな奴らの巣窟なのだろう。


 HP1と言うギリギリを極める男、アキラ。

 友情シールドの匠、マオ。

 素晴らしきバカの集い、童貞男子達。

 そしてそんな男子を軽蔑する女生徒達。


 そして彼女はそんなクラスの顔ぶれを思い浮かべるのだが、一つ重要な事を彼女は忘れている。


 それは。


 


 である。

 そう、彼女は人の形をしたゴリラであるにもかかわらず、自分は普通だと思っているのである。


 また、友情シールドを行うマオは、普通なのではないだろうか?

 と言うのも現代社会においても、友情シールドは世間に浸透しているからである。


 《責任から逃れるために、部下を友情シールドに……》

 《仕事の失敗を誤魔化すために、同僚を友情シールドに……》


 この様に友情シールドは世に浸透しているのだから、友情シールドを行うマオがおかしな奴と言う祭の主張は間違いであると言えるだろう。



 さてそんな光景も、授業の開始が近づく合図のチャイムが鳴り響いた事で終わりを迎える。

 そう、彼らは学生、勉強が今の仕事であるのだから……。


 だが、なんの変哲もない授業風景に面白みはあるだろうか?

 そう思うとあら不思議、時間は放課後まで進むのであった。


 …………。


 放課後は夕日が見れる時間。

 この夕日と言う風景は人々にいろいろな気持ちを思い浮かばせる。


 清らかな心の人物には(綺麗……)と思わせるだろう。

 友達と夜遊びする人物には(よし、今日も遊ぶぞ!)とテンションを上げてくれるだろう。

 そして、仕事をしていた人物には。


 (…………)

 (あー一日が終わるわ……)


 と無の構え、もしくはテンションを下げてくれるだろう。

 夕日とは、そんな不思議な風景なのだ!



 そんな夕日は、校門へと足を進めるアキラとマオにとっては。


 (な、何で俺達の後ろからついて来るの!?)

 (わ、私の友情シールドを奪い取るつもり!?)


 冷や汗が止まらない光景になったらしい。


 だがしかし、そんな二人の後ろを歩くジンレイはと言うと。


 (……晩ご飯どうするか……? 麻婆……いや、とりあえず肉まんを買うか……)


 二人に意識などしておらず、ただ静かに食事の事を考えながら歩いていただけなのだ。


 更に言えばこの三人、実は同じ寮に住んでいる。

 では何故、ジンレイの事を二人は知らないのかと言うと、それは二人が寮の人々との付き合いがあまり無いからである。


 さて、そんな事実を知らない二人はヒソヒソ声で。


 「ま、マオ……、お前悪い、お前悪いからな……、自己紹介の時騒いだから……」

 「わ、私悪くないもん……。 アキラが童貞でヘタレって事実を公表しただけだもん……」

 「そう言わなきゃ俺だってな……」

 「男なんだから、そのくらい耐えないとさ……。 絶対会社に入った時苦労するって……」

 「残念だったな……。 俺はヒヨコを倒してレベルを上げ、そしてHP1から脱却した俺は、モンスターを狩って、悠々自適に暮らすんだ……」

 「何そのダメ人間宣言? 痛いわ痛いわ〜、ここに頭が痛い人がいるわ〜!」

 「お前な!」


 と話していたが、最後の最後で声を上げてしまう。

 そしてそれは。


 (……ん? アレは可哀想な男と残念そうな女だな……)


 ジンレイに存在を気づかれる事になり、もう一つの存在にも気づかれる事になった。


 校門前を偶然歩いていた、白い羽を持ったアイツに……。


 『コケェェェェェェェ!?』

 「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」」


 そして二人は悲鳴を上げる。

 そんな様子をジンレイは。


 (……あのニワトリ、食材として良さそうだな……)


 と思いつつ、ゴクリとツバを飲み込んだ。

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