第79話:祐也と日向〈最終話〉

 その日は教室に戻ってからも、日向と俺のカミングアウトのせいで、ざわざわとした一日だった。それでも無事に一日の授業が終わり、下校の時間になった。


 帰り支度を整えて、カバンを肩に掛けたところに日向が声を掛けてきた。


「祐也君、駅まで一緒に帰ろうか?」

「お、おう。そうだな」


 みんなに公表をしたおかげで、学校でもこうやって堂々と日向と話をできるし、一緒に行動をすることができる。

 日向が言っていたように、こそこそしなくていいのは大正解だなと、今さらながらに実感する。


 雅彦も一緒に連れ立って教室から出ると、廊下に亜麻ちゃんが雅彦を待っていた。相変わらずすらっとスタイルが良くて、ロングヘアの美人さんだ。


「あ、祐也君! まさ君から聞いたよ!」

「えっ……?」


 雅彦を見ると、「ああ、昼休みに早速教えた」と笑っている。


「ねぇねぇ、駅まで4人で一緒に帰ろうよぉ。いいでしょ、日向ちゃん?」

「えっ? 誰……?」

「ああ。雅彦の彼女、二年三組の亜麻ちゃんだよ」

如月きさらぎ亜麻あまでーす! まさ君からは、アマンと呼ばれてまーす!」

「亜麻ちゃん……あ、私、春野日向です」

「知ってるー!」

「え? 知ってる?」

「とーぜんでしょ。春野日向ちゃんを知らない人は、この学校には居ないって」

「そ……そうですか?」

「そうそう。ところでお互い敬語なんかやめて、タメで話そうよ。同級生なんだし」

「あ、うん。わ、わかった」

「じゃあ、帰りましょーっ!」


 亜麻ちゃんはそう言って、雅彦と腕を組んで廊下を歩き出した。俺と日向も慌てて二人について行った。




「そっかぁ。やっぱ、そうだったんだねぇー」


 駅までの下校路を歩いていると、亜麻ちゃんは俺の顔を見ながら、しきりにそんな言葉を繰り返した。


「何がそうだったんだよ、亜麻ちゃん?」

「ん? せっかくあたしが祐也君に女の子を紹介するって言ったのに、祐也君がかたくなに拒否るんだって、まさ君が言ってたからさぁ。こりゃ、怪しいなって思ってたわけ」

「えっ……? そんなことがあったの?」


 横を歩く日向が、驚いた顔で俺を見た。


「ああ、まあね。断ったけど」

「そりゃ祐也君、どんな子を紹介するって言われたって、春野日向ちゃんには敵わないよねぇ~あはは」


 亜麻ちゃんは楽しそうに笑う。


「俺もすっかり騙されたぞ祐也。そうならそうと、言ってくれりゃいいのに」

「あ、いや……あの時はまだ、日向と付き合うとか、そんなのは全然なかったから……」

「でも祐也君は、日向ちゃんのことを好きだったから、断ったんでしょー?」


 その話を断った時は、俺は日向を好きだと自覚していたわけじゃない。けれども今から思えば、やはりあの時に俺は、既に日向を好きだったんだと思う。


 ふと隣を見ると、横を歩く日向が『そうなの?』という感じに小首を傾げて、俺を見上げている。


「ああ、そうだな」


 俺が日向に微笑むのを見た亜麻ちゃんが、両手を頭の後ろで組んで口を開いた。


「そっかぁー じゃあ仕方ないね。でもその話をあたしの友達が聞いたら、残念がるだろなぁー」

「えっ? そうか?」


 残念がるほどじゃないだろと思って、俺は亜麻ちゃんにそう言った。


「うん。その子ね、割と祐也君のことを気に入ってたから」

「そうなのか?」

「ああ、俺だってそう言ったろ、祐也」

「確かにそう聞いたけど、嘘だろと思ってた」


 亜麻ちゃんはニマッと笑って、俺の背中をポンと叩いてくる。


「ホントだよ。その子、祐也君の見た目も優しそうで誠実そうだから好みだって言ってたし……あたしが『性格も見た目どおりだよ』って言ったら、ぜひ紹介して欲しいって言ってたもん」

「そうか……それは……まあ、ありがたい話だけど、悪かったよ」

「まあいいよ祐也君。仕方ないって」


 亜麻ちゃんはケラケラ笑いながら、そう言ってくれた。


「でもアマンは俺の方がカッコいいって言ってたよなー」

「そうだよ。私はまさ君の顔が好みかな」

「俺もアマンの顔が好みだ!」

「ありがとーまさ君!」


 ──あらら。またバカップルぶりが始まった。


「ところで日向ちゃん! どっちから告ったの?」

「えっと……私」

「ええっー!? マジか!? 俺はてっきり、祐也が『付き合ってくれなきゃ死んじゃう』とか言って、春野さんに土下座して頼み込んだのかと思ってた」

「なんでだよ。そんなことは言ってない」


 ……とは言うものの。そう思われるのは、わからなくもない。普通はそう思うよな。


「そっか。祐也、やったな! 俺はお前の親友として嬉しい。お前ならやれると思ってたぞ」

「いや。雅彦には確か、『春野さんに見とれる暇があったら、ちゃんと現実を見て彼女を見つけろ』って言われた気がする」

「あれ……? そうだっけか?」

「そうだよ!」


 俺のツッコミに、日向と亜麻ちゃんは大爆笑している。こんな雰囲気、すごく楽しくていい。


「まあちなみに俺たちは、アマンから俺に告白してきたんだけどな」

「ええーっ? そうだったっけ?」

「そうだよ、アマン」

「そうかもね。でも、今はまさ君の方が、私をだーい好きなんだよねぇー」

「そうだよ。俺はアマンがだーい好きだ」

「やったぁー!」


 ──コイツら……やっぱり相変わらずのバカップルだ。俺はこんな風にはならないでおこう。


「水無君と亜麻ちゃん、ホントに仲良さそうでいいなぁ……羨ましい」

「そう? 日向ちゃんもすぐに、こんなふうになれるよー」


 ──いや、嘘だろ。日向と俺は、そんなふうにはならないよ。


「そっかな」

「うんうん。なれる!」

「うん、良かった」


 日向は嬉しそうにうなずいている。まさか日向は、ホントにこんな感じに憧れているとか?


「ねぇ祐也君。祐也君と日向ちゃんも、すぐにラブラブになれるよね」


 ──ああ、日向が……期待に満ちた笑顔で俺を見ている……


「お、おう。そうだな」


 ああ……日向のあんな笑顔を見たら、ついつい同意してしまった。


 だけど……俺は、日向に後悔させないって心に決めたんだ。日向がそれを望むなら、全力で頑張ろう。


「なあ祐也。前から俺が言ってたように、彼女がいるっていいもんだろ!」

「あ、ああ。そうだな」


 ──それは心からそう思う。


 楽しそうに笑う日向に視線を向けると、日向も笑顔でうんうんとうなずいている。


 ──うん。やっぱり彼女がいるっていいな、雅彦。

 それが自分が大好きな相手で、日向のように見た目も性格もこんなに可愛い女の子なら、尚更だ。




 【恋】『人を好きになって、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う、満たされない気持ち』


 そう。俺は間違いなく春野日向に恋している。春野日向が大好きだと──心の底からそう思う。


== 完 ==


============================

【作者から読者の皆様へ】

本作はここで完結とさせていただきます。

ここまで多くの読者の方々にお読みいただき、コメントをいただき、❤や★をつけていただきました。

本作がここまで書ききることができたのも、そんな皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。


「もうちょっと書いてよ」という、大変ありがたいお声も頂戴していますが、その辺のことはあとがきをご覧いただければと思います。


ここまでお読みいただき、まだ★評価をいただいていない方で、「面白かったよー」と思っていただける方は、ぜひ★評価をいただければ嬉しいです。

さらにコメントレビューなどいただけたら、飛び上がって喜びます(^^)


何とぞよろしくお願いいたします。

それではまた、別の作品でお会いしましょう(^^)

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