第73話:祐也の母と日向の母
日向のお母さんに理解をしてもらえて、本当に良かった。母のおかげだ。二人が帰った後に、料理教室の中で母に声をかけた。
「ありがとう。ホントに助かった」
「いえいえ、どういたしまして。日向ちゃんのお母さんともすっかり仲良くなっちゃって、今度一緒に食事でも行きましょうって約束をしたわ」
「ええっ!? ホントかよ? やっぱ由美子先生、凄ぇな!!」
「別に。普通よ」
母はホントに普通だって感じに、穏やかに笑う。マジでこれが普通だと思っているんなら、日向以上のスーパーウーマンだよ。由美子先生おそるべしっ!!
「日向ちゃんのお母さんって、離婚してるの知ってる?」
「ああ。日向から聞いた」
「実はホントは別に結婚したい好きな人が居たのに、親の勧めで日向ちゃんのお父さんと結婚したんだって」
「そ……そうなのか?」
「うん。日向ちゃんのお父さんの方がいい会社に勤めてて、ホントに好きな人は転職を繰り返すような人だったって。だからその人との結婚は、親に大反対されたらしいの」
そうだったんだ。日向のお母さんも、色々と苦労しているんだな。
「さっき日向ちゃんのお母さんは、なんでも親の言うとおりにしてきたわけじゃないって言ってたけど……結婚はやっぱり親の言うとおりにしようと思ったんだって。でもその結果、うまくいかなくて離婚したものだから……今でも時々、自分の思うとおりにしていたら、どんな人生だったかなぁって考えるらしいよ」
「うーん……でもそれなら、尚更なんで自分の意見を日向に押し付けようとしたんだろうか?」
「日向ちゃんのお母さんのご両親が、なんでもかんでも娘に口出しをする人だったんだって。そんな親を凄く嫌に思って育ったのに、気がついたら無意識のうちに自分もそうなってた。それを今日、気づかされた……って仰ってたわ」
嫌だと思っていた親のやり方を、自分が親になって繰り返してしまうことはよくある──そんな話を本かテレビで聞いたことがある。
「でもホントに今日は、由美子先生が居なかったら日向とは離れ離れになるしかなかった。ありがとう」
「そんなことないよ。祐也、あんたの力だよ」
「いや、俺なんて……」
「日向ちゃんのお母さんね。わざわざここまで来たのは、祐也に会うためだったみたいよ」
「へっ? そうなの?」
「うん。お母さんも、心のどこかで日向ちゃんの判断を信じたいって気持ちもあったんじゃないかな。だから日向ちゃんが想いを寄せる男がどんなヤツなのか、確かめに来た」
「そ……そうだったのか」
「それで祐也に会って、日向ちゃんの言うことは間違ってない。優しくて誠実で真面目な男の子だと思ったって言ってたよ」
──ということは、一応俺は日向のお母さんのお眼鏡に適ったということか?
もしかしたら俺次第で、ダメ出しを食らってたかもしれないんだ。そう考えたら……ゾッとする。
「だからあんたも、もっと自信を持ちなさい。まだまだ高2なんて何もわかってないことだらけだから、過信するのは良くないけど……あんたは自分を過小評価しすぎる傾向があるわよ」
「あ……そ、そうだな。わかった。気をつけるよ」
ああ……母は何でもお見通しってわけか。
恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい気分だ。
「これからも日向はここに通わせますって、お母さんは言ってくれたしね。まあこれからも、しっかりと日向ちゃんを大切にしてあげてね」
「ああ、わかった。ありがとう由美子先生」
「ところであんた、さっきからなんで私を由美子先生って呼んでるの? もう生徒さんは誰もいないのに」
──はぁ? 何だって?
何を言ってるんだ、コイツは?
「誰もいなくてもそう呼べって言ったのは、母さんだろーっ!?」
「そんなこと言ったっけ? 記憶にありませーん!」
「はぁ!? 何をすっとぼけてるんだよ! このバカ母が!」
「バカ息子にバカ母って言われたくありませーん!」
そんな感じで、真面目で凄くいい話をしてるかと思ったらこれだ。きっと母も、真面目な態度は照れてしまうんだろうな。
でもまあ、こんな母で良かったよと思う。今日は心から母に感謝しておくことにした。
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