第3話 一家団欒

 家の中に入って一時間ほどで父、座内源一郎が帰ってきた。


 「お父さんお帰りなさい!」


 「ただいま、奈美。母さんは?」


 「今夕食の準備してる。それよりね、その……」


 「ん? どうした?」


 「お父さんってすごいんだね……」


 「はは、そんなことか。それなら母さんの方がすごいんだけどな」


 源一郎は七恵の方を向き、笑いながらそう言った。


 夕食の準備が終わり、各々食卓につく。


 今日の夕食は、ほっけの開きに味噌汁とご飯。それに副菜が少々といった具合だ。


 夕食が終わり、くつろぎの時間になったところで七恵が口を開く。


 「ねぇ、お父さん。奈美のことなんだけど」


 「ん? あぁ、奈美がどうしたんだ?」


 「奈美に『狩人』の仕事を継がせたいんだけど」


 「……そうか。奈美、この仕事継ぎたいのか?」


 源一郎が奈美の方を向いて言う。


 「うん……一応だけど」


 「そうか……まぁ、無理はしないようにな。辛くなったらすぐに言うんだぞ」


 「うん、わかった」


 「明日からこの仕事するのか?」


 「そんなまさか。明日からは無理だよ」


 「だよな。じゃあ明日、組合の人に話してみるから。それで無理だったら、ちゃんと勉強はするんだよ」


 「はーい」


 奈美は勉強が苦手なのだ。


 「まぁ、高校だけは卒業してほしいな。それだけは約束してくれ。な?」


 「わかってるって」


 源一郎と奈美が約束したところで、七恵がまた口を開く。


 「そういえば奈美、宿題は? やったの?」


 「今やるって」


 「そう、頑張ってね」


 「はいはい」


 奈美は逃げるように自分の部屋に戻っていった。


 「なぁ、本当に奈美に継がせるのか?」


 先に話題を出したのは源一郎だった。


 「しょうがないでしょ。あなただってもう若くはないんだから。それに、病気のこともあるし」


 「それは……」


 「私の稼ぎだって微々たるものだから、私だけじゃ頼りないのよ。あなたが倒れたらどうするの?」


 「そうかぁ……まぁ、そうだよなぁ……」


 「いつまでも凪に頼る訳にはいかないから、ね?」


 凪とは、奈美の兄のことである。


 「まぁ、それなら、継がせてみるか。でも、危険だと判断したら絶対に止めさせるからな」


 「わかった。今のうちなら、まだ大丈夫だと思うんだけど」


 「じゃあ、俺はそろそろ見回りするから。今日の当番俺なんだ」


 「はい、行ってらっしゃい」


 そのころ、奈美はというと宿題をさっさと終わらせてトレーニングなんかしているのである。


 「あぁー……しんど」


 この日はスクワットを十五回やって、お風呂に入ってから就寝した。

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