第2話 赤鞘の刀

 七恵が物置の鍵を開けると、ややかび臭いにおいが辺りに立ち込める。


 「こんなに放置してたんだ……」


 奈美がそうつぶやくと、七恵が物置から何種類かの「仕事道具」を取り出してきた。


 「好きなの選んでいいわよ」


 「好きなのっつったってなぁ……」


 並べられた「仕事道具」からは、どれも使い込んだであろう古傷が目立っている。


 「悪いけど、銃の類は無いから。新しく買うしかないわね」


 基本的に「狩人」は伝統的な方法を好むため、刃物での仕事がほとんどだったが、「双天の合」が起こって五年経った現在では、銃火器を扱う「狩人」も増えてきている。しかし、銃火器の使用に際しては特別な免許が必要なため、結局のところ奈美には銃は扱えないのだ。


 「あ、ねぇねぇ、この刀ってまだ使える?」


 「あぁそれ、お父さんが買ったけど結局使わなかったやつ。多分使っていいと思う」


 奈美が手に取ったのは鞘が赤い刀だった。普段なら刀など見向きもしなかったのだが、こうして目の前にしてみるとなかなか格好いいと奈美は思った。年頃の女子は見栄えも気にするのだ。


 「一応鞘から抜いて振ってみたら? 敷地内だし咎める人はいないわよ」


 「うん」


 柄を握り、鞘から抜いてみると、すらりとした刀身が現れる。鏡のようにピカピカしている刀身には奈美の姿が映っていた。


 「わぁ……」


 「刀には握り方があるの、ちょっと貸してみて」


 七恵に刀を貸し、正しい握り方を見せてもらう。


 「実際に握った方が早いか、はい」


 奈美に刀が手渡される。


 「えぇと……?」


 「まずは、左手をこうして……そうそう、それで、右手の小指、薬指に力かけて……そうそうそう、そんな感じ」


 一応の正しい握り方ができたが、どうにも慣れるには時間がかかりそうだ。


 「それで振りかぶって力を込めて降ろす。それだけ。やってみて」


 頭上に振りかぶり、力を込めて振り下ろしてみる。すると、刀の重みも相まって地面に当たり、えぐれてしまった。


 「それを地面に着かないようにうまく力をコントロールするの。相手を切り伏せるけど、地面には着かないように。これ重要だからね」


 「難しい……」


 普段からあまり運動をしない奈美にとって、刀の振り下ろしはきついものがあった。それでも必死に振り下ろしを繰り返す。


 「今日はこのくらいにしておきましょうか。筋肉もつけないといけないからね」


 十回ほど振ったところで七恵から声がかかる。今日のトレーニングはここまでらしい。


 「ねぇ、お母さん」


 「ん? なに?」


 「お母さんってすごいんだね……」


 「当然よ」


 刀を物置に仕舞い、家の中に戻る。

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