第4話 晴れの日は突然に

「キムティこっちよ」

 いつもの喫茶店の、一番奥の席のおケイが手を振る。満面の笑み、手の振りも二割増しの勢いである。

「何か良いことがあったのかい?」

「ジャーン!」

 聞くや否や、左手をぬっと差し出す。薬指に指輪が光る。 黄金色のカッコいいスクエアリングだ。おケイによく似合っている。

「例の彼?」

「そう、ボブの手作りなの!もう嬉しくて嬉しくて」

「じゃあ、うまくいってるんだ?」

「昨日から同棲しているの」

「えっ!」

 流石はおケイ、展開が早い。彼は、はにかんで笑うと右の頬にえくぼを作った。

「そうか…良かったなぁ」



「実は彼をキムティに紹介したくて。もうすぐ来るわ」

「えっ…」

 そういう事は前もって言っておいてくれ。確かボブ・マーリー好きの、アクション俳優の卵…。情報を整理する。きっと細マッチョなイケメン君だ。少し緊張する。

 その時、カランッとドアが開いた。

「ボブ!こっちよ」

 おケイが嬉しそうに声をあげる。

「え…」

 入ってきた青年は、よく知った風貌であった。

「お柿のスタッフの兄貴!」

 笑顔で俺をそう呼んだのは、あの悩めるドレッドヘアの男だった。



「えっ!あの人が竹下さんの恋人?」

 優子さんは驚いて振り返った拍子に、掃除していたをブンと振り回した。

「そうなんだ。驚いたよ。しかもあっという間に指輪をこしらえて告白して、同棲してるっていうんだから」

 のけ反ってはたきをかわす。彼女のこういう動きを予測出来るようになってきた自分が嬉しい。

「てっきりお相手は女性だと思っていたわ。あらやだ。じゃあ私、竹下さんの彼にアドバイスしてたの?顔から火が出そう…」

 彼女は両手で自分の顔を挟み込んで「あらやだあらやだ」と繰り返す。


 俺はポケットから指輪を取り出す。

「優子さん、これ。俺もナットから指輪を作ってみたんだ」

 ぽりぽりと頭を掻く。

「……ありがとう、とても綺麗だわ。ナットじゃないみたい」

 彼女は目を輝かせる。

「サイズが合ってるか、はめてみて」

 すると彼女は左手の指を伸ばして差し出した。

 お、俺がはめるのか…?


 緊張で指が震えるせいか、なかなか入らない。

「痛い?」

「ううん。もっとぐいっと押して」

 力を入れると真鍮の指輪は、するりと関節を通過して指の付け根まではまった。

「ふふ。ぴたっと嵌まった」

 彼女が微笑む。

「あ…あのさ、返事を聞きたいんだ」

 この前の満月の夜の、告白の返事…。

「返事?」

 彼女はキョトンとする。

「ナットの…」

 ナットを渡して、付き合ってほしいと言ったよね…?

 俺は理由わけあって満月のたびに狼になるのだが、先日、変身前に彼女に告白したのだ。



 彼女は少し考えてから、思い付いたように頷いた。

「いいわよ、結婚しましょ」

「え…」













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