第2話 優子さんの憂鬱

「ちょくちょく?」

 ストーカーか?俺の優子さんに手出しするとはどこのどいつだ!

 1ヶ月ほど前に告白して、返事こそ無かったが、彼女は贈った指輪をはめてくれたのだ。(正確にはナットを小指にだが…)

「みどり園に新しく入ったバイト清掃員なの。ボサボサの長髪の男の人」

 彼女は道具屋の傍らアルバイトで、街のマスコットキャラクター『お柿ちゃん』の着ぐるみの中の人をやっている。名産の柿をモチーフにしているので、頭部が柿で全身オレンジの繋ぎを着ている。みどり園は街が後援している遊園地なので、そこでの仕事も少なくない。


「よし、俺が行ってとっちめてやる」

「ふふっ。とっちめるって…」

 彼女が笑う。だがこれは由々しき問題なのだ。中身の彼女は、透き通るような白い肌にボブヘアの似合う、うっすら無精髭の中年おれとは釣り合わないような良い女なのだ。

「で、そいつは何て言い寄ってくるんだい?」

「それがね…」

 おっと、いけない。夕方抜けさせてもらったから早く戻らないと…。オムライスの上のふわふわ卵を割ると、トロリと旨そうな黄身が広がる。

「え…恋愛ほぅだん?」

 がっつきながら尋ねる。彼女が口説かれている訳ではないのか…。

「うん。告白したいけど、勇気が出ないみたい」

「なら占い師のところに行けよ。なぜ君なんだ?」

 どうも腑に落ちない。優子さんは真面目で純粋な子だ。そいつは相談を装っているだけで、彼女を狙っているのではないのか?



 翌日の土曜、いてもたってもいられず早退して、みどり園に寄った。入り口に、彩り良く飾られたモミの木がそびえ立っている。

 ぶるっと体が震える。師走の夕方だからか、どんよりとした天候のせいか、園内の客はまばらだ。

 腕時計の針は16時17分を指している。お柿ちゃんの夕方の巡回は16時からだから、どこかにいる筈だ。

 うろうろしていると、遠くにオレンジ色の柿を発見した。紺色の作業着の長髪の男が何か話しているようだ。

「あいつか…!」

 背後に回り込み、そっと近づく。


「やっぱり誕生石が良いですかねぇ」

「どんな石でも心がこもっていたら、嬉しいわ」

「センスある人なんで、デザインがダサいとか言われたらマジ立ち直れないっすよ」

「一緒に買いに行ってみたらどう?選んでもらうの」

「それも何だかダサくないですか?」

 男はボサボサ髪ではなく、ドレッドヘアを後ろで束ねている。

「やっぱり観覧車で渡すのがベストですかね…」

 イライラして二人の体の間に入り込む。


「あのね、君。この人は巡回中なんだ。君の悩みは僕が聞くから、こっちに来たまえ」

「あんた、誰です?」

 男が眉間にシワを寄せる。

「俺は…彼女の同僚だ」

「あ、着ぐるみのスタッフですか。すみません」

 場所を移動するよう促すと、素直に着いてくる。彼と隣り合わせでベンチに腰かける。

「経験豊富なが、話を聞こう。時間はいくらでもある。相談にのるよ」








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