第2話 炭酸パーティ

街へ出た後コーラは暫く流浪の旅人となる。役割の手掛かりは無く、行く宛も無い。


「どうしたもんかね。」『さぁ?』

「さぁってアンタね、まぁ仕方ないかハズレの人だもんね。」

『取り敢えずザコや来るものを倒して鍛錬をしておくのはどうですか?』

「なんだちゃんとアドバイスくれるじゃん。でもどうやって出会うの。」

『歩いていれば出会えますよ。

 ほら、あんな風に』

前に遭遇した小さな小人や全身が濡れた細身の奴、考えてみれば街以外はこういったモノの巣窟だ。

「うわーなんか来た、ゾロゾロ来た」

『ああいう連中を倒すのです!』

「纏めて消えろっ。」

集まっている敵は剣で丁寧に斬り込むよりも弓などの遠距離で殲滅した方が効率が良い。

『このまま次の街を探しましょう!』

「すっごい疲れないこれ?」

ザコキャラは主に水で構成されるものご多く今遭遇したのが水道水を小・中といった大きさの度合いで表したもの

水の純度が上がっていくと難易度は増し、中にはミネラルや水素の多く含まれる強敵もいるという。

「ねぇ、これ単純な疑問なんだけど」

『なんでしょう?』

「コーラで水攻撃して大丈夫なの。

 混じったりしない?」

『....さぁ。』「なんでわかんないの」

何故ならハズレだからだ。


「キキー!」「ん、またか」

水道水・小が複数で攻めてきた。己の至らなさを数で補うやり方だ。

「これは剣だな」

スタンダードウェポン剣で薙ぎ払う。小さい相手になら小回りも効くのでこれがなかなか使い勝手がいい。

「ふぅ..!」「ギィー」「何?」

有無を言わさず水道水・中の襲撃。

コイツは全身を濡らし耐久を少し高めたザコ、剣は余り刺さらない。

「ちょっと強い方がいいのか」

剣を分解しオノに変形、びしょ濡れを両断する。

「重ったいなコレ、ていうかアレ?

アイツ何処に..また腕で寝てるのか」

戦闘に入るとそそくさと腕で寝る、要領の良さをみると末っ子だろうか。

「キキー!」「ギィー」

「同時に来た、どうしよっかなぁ。」

弓を使うのは簡単だが矢の数にまで液体を使う、何でもない野原で容易に使うにしては危うい。

「あ、こういう時にアレあるじゃん」

液を大きく伸ばしむちに変形

大きく振って同時に撃破。

「これ便利なんだよな、ポンプに入れたまま変形させれば戻してまた使えるしね。」

敵を倒していくと、戦い方が徐々にわかってくる。小さな敵には小さい力、厄介なのには力技。ポンプのコーラをどう使いどう残すか、それを考えつつの戦闘は、パワーというより知略に近い要素があるのかもしれない。


「極端な奴以外無視しよう、残量減っちゃうわこの調子じゃ」

逃げるが勝ちを習得した。レベルの概念が無いのでステータスはキープ。

「そういえばこの世界に来てから腹が減らないな、なんでだろ?」

『それは貴方がドリンクだからです』

「お、ハズレガール。

 安全だと思って出てきたな?」

ドリンクウォーに参戦している者は自分自身が飲料なので、空腹を感じる事が無ければ睡眠もいらない。定期的な飲料補充だけで他の事は何も無い。

「そろそろコーラが無いんだけどさ、何処かに良い街ないかなぁ。」

『炭酸が集う街が近くにありますよ』

「そこならコーラもありそうだね。

ただなぁ..〝集う〟ってのがなぁ」


『沢山のドリンクと会えますよ!』

「それが嫌なんだよ。

 別にコーラ飲めればいいんだよな」

各所から炭酸ドリンク達が集まり喉越し比べを度々行う刺激の強い街。

人はここをスパークリングタウンと呼んでいる。

「それって何処にあるの?」

『少し東に行った先ですかね。』

「..一番近いのはソコかな?

急いでコーラだけ買って出ようか!」

炭酸飲料は勝手な印象で勇ましく勝気なので余り関わりたくはない。

「纏めて何本か買っちゃおうかな。」

追加効果で購入した飲料が自分と同じなら決して冷えないらしい。いつでもベストなコンディションを保ち続ける

●●●

「自販機を増やせ!」

「炭酸は足りてるか?」「大丈夫だ」

街は二つに分かれている。

準備に急ぐ足を動かすものと、試合を楽しみに席を取るもの。どちらも同じ高揚感を持ち、後の祭を待ち望みにしている。


「賑わい過ぎてない?」『ですね。』


行くところ行くところ楽しげで気負いしてしまうので、一番落ち着くのはザコのいる野原だという事に落ち着いた

「取り敢えず自販機を探そう」

『ここは多いハズですよ!』「だね」

豊富に飲料があるようで、ここからでも目と鼻の先に自販機がある。


「それじゃサクッと補充させて貰...」

「あーダメダメ!何してんの‼︎」

「え?

いやちょっと飲み物を買おうと..」

「ダメだって!

これは試合に出るドリンクさん達が飲むやつなんだから!」

「試合?」

「そ、炭酸ドリンク達のサバイバル!

一番刺激の強い奴は誰だ!ってね」

「へぇ〜、聞いた通りだね。

 やっぱ炭酸集まってんだ」

『参加してみてはどうですか!?』

「しないよ、さっきも言ったろ。

 コーラが欲しいだけなんだよ僕は」

頑なに戦おうとしない。何故ならコーラを飲みにきただけだからだ。

「コーラ?

 あんたコーラが欲しいのか」

「...はい、だって僕コーラなんで。」

「そうで御座いましたか!」

凄んだ勢いでボタンを幾度か押し、持ち歩けるであろう適度な数のコーラを獲得する。

「それではっ!

一名様ご案なぁ〜い!!」「え?」

『やりましたね、参加できますよ!』

「いやしないってだから!

ちょっと下ろしてよ、ねぇっ!」

街の男に担がれ連れて行かれる。どこに向かうかは、ある程度理解が出来た


『落ち着いて下さい。

もしかしたら試合に出る事が役割かも知れませんよ?』

「..そんな事あるかね。」

『可能性は充分に!』「勝手だなぁ」

派手な事も痛い事も好まぬのに、役割が派手で痛い可能性があるなんて考えたくも無い可能性だ。

「着きました、どうぞ!」「痛て!」

街の地理を知り尽くしていれば到着も早い、数分で着いた。

「落としたよアイツ、凄い音した。」

『中にさっさと入りましょう!』

「大丈夫ですかとか無いのね。

..さっさととか言わないでよ冷たい」

入り口は大したコロシアムと変わらない。中へさっさと入るとやはりコロシアムと同じ仕様。

「いらっしゃいませー!

ドリンク名を教えてください!」

「えっと..コーラ。」

「コーラですね、認証致しました!」

「なんかここコロシアムとシステム似てるんだけど流行ってるの?」

「予算が無いんです!」「あっ..」

察した上で理解した。

ファンタジーでも無いのだと。

「準備が出来次第ワープホールに移動してください」


「あ、ここでもコーラ買えるじゃん」

「さっさと入って下さ〜い!」

「冷たっ..ここの街のやつ冷たい。」

この時点でいつものアイツはしれっと腕でおねんねしている。

ワープホールに入ったが、移動するときの「ボシュッ」という音までコロシアムと一緒だ。

●●●

「こんちは。」

会場は少し仕様が異なる。

コロッセオ気取りのコロシアムとは違い、敷き詰められた四角いフィールド

にモノホンの観客がぎっしりの周囲を囲むエンタメ性の高いステージになっている。


「目立つなぁ..。」「フハハ!」

こういった交流に参加する連中は軒並みヤバめだが相手のドリンクも相当嫌な雰囲気を放っている。

「ムラサキ、悪役の色だろアレ」

「燃えるような赤にいわれちゃあ説得力増すね、始めまして。グレープだ」

「グレープ?

炭酸じゃないじゃん」

「グレープソーダだ、ソーダなんて名称は野暮だろう。だから削除した」

「やっぱヤバイな、コイツ。」

ここに来て何人かドリンクと呼ばれるヒーロー紛いの連中にあった。だが誰一人マントを羽織る者はいない。


「何の為に付いてんだコレ?」

こんなときにハズレガールは眠っている。こんなときの為に眠っているのか

「そんな事より!

さっさと始めようじゃないかっ!」

「何でレフェリー的な人いないの?

..さっさとってやめて。」

それでも歓声は止まる事を知らない。

期待度が増している手前、引き返す訳にもいかない。何より、不本意ではあるがこれがこの世界で担わされた役割かもしれない。

「確かにさっさと..やった方がいいかもしれないなぁ。」


「いくぞ!

グレープを腹一杯飲んでいけ!」

「さっきコーラ飲んだからいいです」

コスチュームと同じ紫色の液体が地を這い馴染む。

「何コレ?」

「逆に聞こう、グレープの醍醐味、深みとなるものは何だかわかるか?」

「違うこと聞くなよ。

全然違うじゃん、えーっと..刺激?」

「否!後味の爽快感だっ!!」

「うおっ、爆発した!」

四角い床の紫が火柱のように噴き上がり圧を発する。パフォーマンスを見る感覚で声援を送る観客達。

「あんなもんマトモにくらったらとんでもねぇ事だよ..!」

「地に足を付けている時点で諦めた方がいいぞ、確実に当たる」


「んな事いわれてもなぁ、フィールドから出たら『リングアウト!』とか言われそうだしなぁ。」

のちに何があるかわからない。

いくらでも後だしジャンケンをされるこの世界では、「さいしょはグー」など意味が無い。勿論そのあとの「じゃんけんポン!」だって後だしへの布石である。

「なら飛び道具使ってみるか」

野原で役立った弓を携え矢を射る。これならば動く事なく遠くで佇むパープルグレープメンを狙う事が出来る。

「一応一斉射撃ってみました。」

纏った矢を一つへ放つ

ガラ空きの頭上へ。


「甘い」「なんだよ〜..」

掌で生み出された球状の紫を投げると矢に爆風が当たり、茶色い液体が飛び散る。

「あーっ!!

それ結構素材使うんだぞ!?」

奇襲作戦は失敗に終わり、おおくのコーラを無駄に失った。

「お前は不足し過ぎている。

力不足、技術不足、知識不足。何から何まで足りないのだよ、赤い男よ」

「なんだよ

凄い難のある奴に説教されたよ。」

グレープソーダが己を棚に上げて、冷蔵庫の中のコーラを飲んできた。飲み口に少しグレープが混じって、少しブドウの味がする。

「でもどうしようかな、このままじゃ本当に奴に..一旦コーラ補給するか」

纏めて買った一つを飲み干して脳に酸素を入れる。

「飛び道具もダメ、勿論接近もできないとすると何が出来るのか、なんだコレ..あぁマントか。マントいらないなぁほんと、アイツ変なボールも作れるんだよなあれをどうするか..何コレ、これはぁ...マントかマント、マントねマントいらねぇっ!」


「ん、マント?」

マントで何かが閃いた。まさかマントで閃くとは思ってもいなかった。まさかあのマントで。

「よし!」「何か思いついたか?」

「床歩かなきゃいいんだよね?」

「ああそうだ。だが所詮は人型、地を歩く以外の手段は無い。」

「マントがあれば充分さぁ!」「何」

マントを液体が囲み、翼を作る。

「羽がはえたっ!」

「ついでに剣も、長めのやつ」

足りない者は武器を持つ。マントでは力不足だったみたいだ。

「飛ぶぜ!」

即席の翼をはためかせ、土を蹴る。

「あーあれ..?

上手いこと飛べない。」

ヨロヨロと宙を千鳥足、コーラで酔う奴が存在するとは。技術不足!

「低空飛行をするからだ。

もっと高く飛べばいいものを」


「え、あそうなの?」知識不足。

しかし足りない長らに空を駆け、立ち込めるムラサキの火柱を避けながら、やがて本体を狙う位置にまで達する。


「言われた通りにやったら出来ました

なんかその...有り難う!」

「本気で勝てるつもりでいるのか!」

「うん、だって地に足付いてないし」

「...あホントだ。」「ね?」

あっさり斬り倒された。本当に他に足以外の戦い方を考えていなかったのだ

「まさか空を飛べるとは。

...思っていたよりやるではないか」

紫の飛沫が弾け姿を消した。爽快感のある終わり方というやつだろうか。

「後味悪っ!」

呆気なく、粗末な終え方でも観客は猛拍手。目を凝らせば泣いている者もいる。

「誰でもいいのかなもう」

不安になる程手応えが無いので、役割では無いという事だけはわかった。いや、逆に役割だからこそ慣れて違和感を感じるのか。と憶測を並べて個室に帰還した。


「ただいま。」

「なんか帰ってきやがりましたー!」

「嫌いなの僕のこと?

言って嫌いなら早めに。」

「言いません」「なら嫌いだね。」

嫌いじゃない奴は〝敢えて言わない〟なんて高尚な事はしない。

「次の試合までお時間が有りますのでこちらでゆっくりお待ち下さい!」

「次の試合?

あぁそうか勝っちゃったもんね。観客はアレを見ていて楽しいのかな」

「...チッ!

こちらをご覧下さい!」

「今舌打ちした?」「してません。」

表示されたのは四つの画面、全て会場の様子を写した同じ映像のものだ。


「さっきの会場だ。」

「映っているのは皆別の会場です!

テメェが戦ってのは一つ目の画面に映る会場ですね!」

「テメェって言ったね、潔いね!

ハッキリと嫌っているとわかるよ。」

同じタイミングで四つの試合が行われ観客は観戦したい試合の席をとっていふ。故に嫌々やつまらないといった感情で観ている者は誰一人いないという訳だ。

「ちょっと待って、これ何試合まであるの?」

「初戦、準々決勝、準決勝、決勝の4試合です。怖いなら帰れば弱虫くん」

「..遂にナメ始めたな。

四試合は長いな、それってテレビ放映はされるの?」


「されます。」「なら確実に延長だ」

その後のドラマや番組に多大な迷惑を掛けるだろう。炭酸が弾けるだけの戦いに電波をジャックされるのだ。

「次は準々決勝か、全然緊張しないな

いつ帰れるかな。」

思い入れが無いので空っぽの感情で相手を殴れる。本当は殴りたくはないがこれが役割かもしれないらしいのだ。

「なぁ、いつまで寝てんのー?」

『....はい?』


「一つ聞いていい?」『はい』

「なんで僕を選んだのさ。」

『それは、貴方がこの世界を当てたからです。私にはハズレましたけど』

「運悪いね。」

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