sparkling shower

アリエッティ

第1話 タブを外せば..。

蒸し暑い夏の日中、木の草は干からび人々の喉は潤いを失う。

「あった、自販機だぁ!」

少なからず少年は救われた。丸い硬貨を握りしめ、空いた隙間に漸く入れる


「ふぅ..どれにしようかな。

やっぱり、コーラだよなっ!」

cool《クール》と書かれた文字の下のボタンをプッシュし、念願の彼女と出会う。

「ひゃあ〜、よっしゃあ!」

『チリリリリ..』

「お、なんだ当たり付きか?」

釣銭の脇の小さなモニターがくるくると絵柄を回している。

「これが決まると当たりなのか。」

暫く観ていると、絵柄は女の子の顔で止まり話し始めた。

『おめでとう御座います!

オ〜アタリで御座いますよ!』

「大当たり、マジかよっ!

何、コーラもう一本くれんの⁉︎」

『コーラのフタを開けてみて下さい』

「フタ?

ここ開ければいいのか?」

言われるがままコーラの蓋を開ける。


「うわ、なんだこれっ!」

振ってもいないのに、入り口まで液が溢れている。

『それでは、いってらっしゃーい!』

「え、え!どこに!?」

カラメル色素の茶色い水が勢い良く溢れ、先端で頭を掴み缶の中へ誘う。

『お一人様、ご案内。』

◾️◾️◾️

暫く流水のような茶色を泳がされ、いよいよ溺れると思われたギリギリの辺りで小さい穴に吐き出される。

「ぶはぁっ!

..キッツ、何なんだ一体。」

着地した地面は柔らかく、緑の生茂る草原が広がっていた。

「本当に何処に来たんだ?」

さっきまでの記憶を辿る。

夏場の暑い道路を歩き、喉が乾き、自販機でコーラを買った。するとここに付いていた。

「いやいやおかしいってそれ!

コーラ飲んでなんで別世界に来んの」


『それはアナタが当たったからです』

「うおっ..あ、さっきの。」

アタリの自販機ガールがさっきのクオリティのまま再び出現した。

「アナタはこれからコーラです!』

「は?」『それそれー!』「あぁ!」

キラついたヴェールに包まれ服を変えらてしまう。赤いマント、胸には大きく「CoLa《コーラ》」の文字が。


「何コレ、ダサっ!

文化祭やんの今から!?」

『これはコスチュームです!』

「コスチューム?」

『はい、ここではドリンク達が争い会うんです。』

「ドリンクが争うって..。

ドリンクバーみたいな事?」

『ドリンクウォーです』

「どっちでもいいよ別に。」

選ばれし者がドリンクの鎧を見に纏いどれが一番の喉越しかを決める戦い、それがドリンクウォーである。

「味ではないのね..。」

『気をつけて下さい、目が合ったら即戦闘になりますので』

「そんな好戦的なの?」

早速ワラワラと何かが近付いて来た。

「ちっちゃ、何コレ」

『水の小人ですね、ザコキャラです』

「これ水!?

ザコなんだ、喉越しでいったら優勝の筈だけど。」

『倒して下さい』「どうやって!」

背中のポンプ、蓋を開ければ自在な武器になります!』

「あぁもうわかったよ。」

背中に斜め掛けの缶の形を模したポンプのフタを開ける。すると中から流動的に、コーラが溢れ出る。

「うわなんか龍みたいな動きしてる」

『イメージした形に変わります!

試してみて、限度はあるかもだけど』

ザコを薙ぎ払うイメージを浮かべる。


「よし剣だ、剣になれ!」

手を構えた先で、コーラが握りのいい剣に変わる。イメージが通じたようだ

「おりゃあ!」

初めてだろう、液体で人を斬ったのは『見事撃破〜!

報酬として潤いの水が与えられます』

「潤いの水..傷が癒える的なアレか」

『肌が少し艶やかになります。』

「イラネッ何それ!」

液体は役目を終えるとポンプへ戻る。

「なんか勢いで倒しちゃったけど、疑問は尽きないぞ。何をすればいい?」

『先へ進みましょう!

あそこに城がありますね?

あそこは街です、神秘街ビスティロ』

「神秘の街に用はありません

 帰ります。」

『どうやって帰るんですか?』

「出口とかないの」『無いです』

片道切符で来てるので、帰りの券を買うまでは隔離という訳だ。

『ドリンクにはそれぞれ役割が定めら

 れております』

「僕のは?」『さぁ?』「はぁ?」

文字数の少ない会話である。

切符を買う駅名すらも分からない様。

「嫌だなぁ..」

『余り嫌がる人いませんよ?』

みなが集まる優雅な街に難癖を付けるとは、協調性の薄いタイプだ。


『それでは徒歩でどうぞ!』

「迎えとかないんだ。」

▲▲▲

神秘街しんぴがいビスティロ

ここでは多くの店や催しが賑わい、常に祭りを行なっている。

「やっと着いた。

 ...ってなんだここ、楽しげー。」

『こういう街です、常に盛り上がり衰えず愉快。正に神秘の街』

「それって神秘か?

無理矢理の感じするけど。」

想像していた神秘は何か神がいて、それを崇めるようなものだった。大きな像に手でも合わせて目を瞑って。しかし実際は腰に布を巻いて踊ったり、大きなチキンや酒をかっ喰らいヘロヘロになる連中ばかりだった。

「で、この中で何をするの?

 まさかパーティじゃないよね。」


『あそこの城に向かいます』

草原からも良く見えた、高く聳える大きな城に街へ来た理由があるようだ。

「どんな高飛車が住んでるんだろ?」

『実はあの城は家ではなく、コロシアムなのです』

「コロシアム?」

『そうです、中では日夜ドリンク達が喉越しを競い合い戦い続けています』

「物騒だねぇ..。」

戦いの場として設ければ、態々相手を探し回る必要は無い。街の極端な賑わいや商いは、コロシアムの運営を円滑にする経済を回す為のものだ。

「街を一つ覆う程のバックアップをしてるの、やり過ぎじゃない?」

『それ程までに重要な事柄なのです』

愉しく騒いでいる住人も実は無理矢理のものであり、コロシアムを盛り上げる為だけの感情だ。

「やらされてるのか、あの人達..。」

『少なくとも、無理はしていますね』

最早NOとは言えなくなった。

同情を買って、参加させるという方向の誘導だとも思ったがどちらにせよ答えは決まる。


「行けばいいんだろ、コロシアムに」

『参加してくれますか!』

「..気は進まないけどもしかしたら、役割が〝コロシアムに参加する事〟かもしれないし。」

そこはあながち間違いでは無い。参加する事で、元へ還れる道が開ける可能性が充分にある。

『それでは早速向かいましょう』

「もう行くの?

ていうか君ずっと着いてくるんだね」

踊る街人まちびとの間を潜ってぐんぐん進む。途中で勧誘に幾つもあったが〝急いでるので〟の一点張りでなんとか乗り切った。歩き続けていると城はぐんぐんと近付き、やがて目の前に現れる。

「でかいな..!」

わかってはいたが、近くで拝むとやはり口に出してしまう程のスケールを誇っている。

『さぁ、中へ入りましょう』

「...おじゃまします!」

◾️◾️◾️

「おいでませ、エントリーですか?」

「えっと..はい。」

コロシアムというから中身はどれ程厳ついかと思えば受付嬢が一人に何処かへと続くワープホールが一個。コスパを最小限に抑えたような質素な作りとなっていた。

「みんなこうなんですか?」

「はい?」「みんなこんな簡単な..」

「ここは待機ルームですからね、エントリーされる皆さんの個人ルームとなっています。」

「あ、そーいう事..」

わかっていないが格好つけて納得するフリをかましてみる。システム上入り口に入れば個人的な部屋が出現するようで、戦い以前で誰かと出会う事は無いらしい。

「これ床屋とかで実現してくれないか

 な。無理か、世界線が違うもん」


「準備ができ次第、そちらのワープホールへお入りください。」

「準備って、なにするんだ?」

『どうでしょう、通常であれば武器の補充とかですかね。』

生憎武器は間に合っている、ならばする事は無いに等しい。

「ならもう行こうかな?」

『そうですか、なら私はお邪魔になる

 ので静かにしてますね。』

自販機に付いていた四角い小さな画面が、コスチュームに組み込まれ、左手首の一部になる。戦闘用の機械では無い為、アドバイスはしない。あくまでただの飾りである。

「おーい」『......』「無責任な奴。」

ワープホールに吸い込まれ、戦地へ。

会場はコロシアムというより古代ローマのコロッセオに近かった。

「あれ観客?

賑わってるね〜、街と変わらないわ」

「雰囲気付けだ。本物の客じゃねぇ」


「あ、そうなの。慣れてるね」

「まぁな、俺は結構強いからよ。」

いきなり手練れと当たったのは運が悪い。いや、強者を中から引くのは幸運だからか?

「早速やろうぜ。」「えー嘘..。」

武器を構えれば戦闘の合図、相手は槍のような長ものを握り、構えている。

「相手はヤリか、ならそうだな..」

ポンプの中身がグニャグニャと揺れる

「何だソレ、お前の武器か?

情けねぇみてくれしてるんだな!」

「確かに、今回はそうかも。」

以前のガッチリした形とは異なり、今回は特に柔軟な形を選んだ。


「平気で一突きしてやんよっ!」

「ならこっちは〝一振り〟でいこう」

直線的な槍の動きに合わせて武器をしならせる。

「うおっ..あいつ!」

間一髪避けて躱すも打ちあてた箇所の床の地面は大きく抉れている。

「おっかねぇ!」

「槍よりマシでしょ..。」

「だからってムチかお前!?」

持ち手を掴み後はイメージすれば振り手が大きさや威力を調節し相手を狙う

大振りの高威力にする事も出来れば、

「形状を絞ろう、それ。」

小振りで手数を増やす事も出来る。

「早っ..そんで多っ。」

流星群の如くムチが振られ可動域を狭める。一発一発の威力は然程でも無いが、連鎖していくとまぁまぁ響く。

「あれ、思ったより効いてない?」

「くっ..調子のんなよ!」

懐から、徐にレモンを取り出し、握り潰す。弾けた果汁を投げると床から、幾つもの強烈な流水が立ち昇りムチを止めた。


「何だアレ、水?」

「お前は見たとこコーラだろ。

オレはレモンスカッシュでねぇ!」

流水が脚に巻き付き、身体を浮かす。そのままペットボトルロケットの要領で、槍を向けこちらへ飛んでくる。

「あ、ヤッバ。」

「間に合わないだろ?

長い長いムチ様じゃあなぁ!」

ムチの動きは2工程、振り上げて落とす。または引いて振る。どちらもゆるりとした動作なので、突破的な衝撃に対応が出来ない。

「よっ!」「なにぃ⁉︎」

ムチだった液体は形を変え、一瞬で大きな盾になり、槍の一撃を防いだ。

「ムチじゃなきゃ間に合うんだよね」

「...やるじゃねぇかよ。

 けどそれでどう攻めるよ!?」

「殴る!」「ぐはっ!」

衝撃を防ぐ道具で衝撃を与えるという暴挙に出る。鈍器としての使用をされると思っていないのでムチよりも多大なるダメージを受けた。

「無茶苦茶かよ..。」

「一つ聞いてもいい?」「突然何だ」

地面で突っ伏して怯む敵にやんわりと質問するという余裕。振る舞いだけは強者に写る。

「自分の役割って何だかわかる?」

「オレの役割は、確か..コロシアムで頂点に立つ事。」

「あ、そうなんだ。

えーじゃあ違うじゃん、どうしよ。」


「何がだよ。」

「いやわかんないのよ自分の役割が」

「マジかよ、そんな奴いんのか?」

「マジマジいんのよ。」

そんな事知るかと卑下されないのは本当に珍しいから。

「自販機で買ってここ来たよな?」

「うん、来た。」

「変な女出て来たろ」「うん、出た」

「そのとき何か言われたろ?」

「いいや、言われてない。」

「お前運悪いな!」「そうなの?」

ここに来るルーツは一緒、自販機で買いそれを開け誘われた。しかしコーラはチケットを当てた際、役割を聞く権利をハズしていたようだ。

「えなに、じゃあオレってここに来る事は出来たけど、肝心なトコハズレ引いてんの?」

「そういう事だな。」「えー..嫌だ」

戦意喪失

得るどころか失う数が増えた。

「だからっても手加減しねぇぜ!」

「えー帰り道知らないのオレだけ?」

「聞いてんのかよ..!」

無視する相手をつついてみるが盾を構えている為傷は付かない。皮肉な構図が結果的に盾にマウントを取らせていて、攻める方が損をし続けている。

「いい加減にしろよテメェ!」

流水を槍に纏わせる。装備する場所によって効果が変わり、脚ならば速度、武器ならば単純な耐久や威力といったものが向上する。


「お前の盾は砕けるぜっ!」

槍が穿ち、縦に食い込む。表面が割れ崩れると同時に液体に戻る。そのまま真っ直ぐ突き刺せば、跡形も無く終わる。しかし盾が砕けだその先で、赤いコスチュームの身体は横を向いておりまっすぐ進む槍に対して、備えるような体制がとられていた。

「あー嫌だな〜。」「なんだと⁉︎」

液体が蠢き、変化しようとしている。

「槍があたると思っている人は。」

「うっ!」

ぐるぐると巻き付き拘束し、身動きを封じる。

「ここに来てムチかよ!」

「違うよ..電撃ムチ!」

巻きついた紐から火花が生じ、全身に落雷を落とす。雷の摩擦音を遮る程に叫び声がこだまし、抗おうとするも身動きはとれず。

「かはっ..」

「うん、やっぱイメージって強いわ」

戦いが終わると強制的に個室で返される。勝っても特に待遇は変わらない。


「おめでとうございます、貴方の勝利です。引き続き戦いますか?」

「いや、もういいや。

 ここに役割無さそうだし」

目的は果たしたとコロシアムを出る事にし、再び賑やかな街へ出る。

「有難うございました〜!」

「ふぅ..。」

『おつかれ様です』

「何腕で寝てんのさ、結構大変だった

 んだから!」

『申し訳御座いません。戦闘向きでは

無いので、ポンプは大丈夫ですか?』

「ポンプ?

ほんとだ、中身減ってる!」

コーラを消費している為、適度に補充しておく必要がある。

『近くの自販機で補充できますよ!』

「自販機...丁度あるじゃん。」

直ぐ様かけよりコーラのボタンを押す

他には何もついておらず、無賃で購入が可能のようだ。

「いただきまーす」

タブを開き、ぐいと飲む。飲んだ分がポンプへ溜まり補充が完了する。

「美味っ、ちゃんとコーラじゃん!」

願望がここで叶うとは。

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