風の始まる洞窟③

著:ガディアン

 

 芝の広がる一面の緑の中、私は空を見て寝転んでいた。

 めったにやらない煙草を吹かしながら、何とか落ち着こうと努力していたのだ。

「大丈夫ですか? ガディアン……」

 心配そうに眉を下げながら私の顔を覗き込むガラドエル。そんなに罪悪感を浮かべられるとどうにも文句がつけにくい。村に着いたら温厚な私も烈火のごとく怒ってやるぞと息巻いていたのだが、酔ってしまってそれどころではなくなってしまった。まさか速さに酔うという日が来ようとは。昔に一度、ひょんなことから競馬場の馬に乗せてもらったことがある。襲歩でかっとばす馬の背に揺られた時でもここまで酷くはなかった。

「話もせずにすみません。銀竜門の調子がかなり良かったんです。あの門は状態をよく見ておかないと、たまに誤作動してしまいまして……。頃合いになるまでに長くて半日かかったりしますので、時たまさっきその状態が来てしまった、ということです」

 なるほどね。それで説明の間もなく空をぶっ飛んできたということか。理解は出来たが納得はできない。とはいえ、怒るような気力もまだまだ沸いてこなかった。


 しばらく横になって回復した私はのそのそと体を起こす。

 これが、風を司る者たちの故郷か。

 のどかな場所だ。

 なだらかな芝の丘、そのところどころがでこぼこと隆起している。人が住めそうなほどの大きさがある場所には丸い戸が嵌められ、カザネはその中で暮らすらしい。思った以上に簡素だ。村で暮らす時間がほとんどないのでそんなものなのだろう。村には小川が何本も引かれている。食事はしないカザネも水は飲む。その他に生活用水などさすがに不可欠なのだろう。

 地べたの方はそんなところだったが、空の方はなかなか変わっている。数えきれないほど大小の風車が入り乱れている。羽と羽がほとんど折り重なるように回っているものまである。風向きひとつで衝突しそうだが心配はいらない。なんせここの住人は風を操る。

 それにしても、下のこざっぱりした風景と違い上の景色は忙しい。乱立する風車はほとんどねじくれるように立っているものまであり、空の面積を消し潰そうとするかのようだった。


「変わった村だな……。あの風車は、水の汲み上げかね? それとも製粉?」

「いえ、羽に当たった風を帆が吸いこんで、風車の小屋の中にある石に風を貯め込んでいます」

「石に、風が? うん?」

「えーと、風を封じた魔石を作っているんです。旅先で魔術師が高値で買ってくれるので」

「……ほー。なるほど、なー」

よく分からなかった。まあ後で見せてもらおう。魔術師など存在は知っていてもほとんど縁がない。火の森で一度だけ関わったが、それだけだ。魔術師の道具と言えば杖とか、怪しい薬くらいしか知らない。世界は広いのだと改めて思う。

 風車はその魔石とやらを作る他にも子供たちの遊び場として役立つらしい。風の技を覚えるのに高所の強風に吹かれて感覚を掴むのだそうだ。

 

 ガラドエルは村の真ん中を堂々と横切っていく。

 そりゃあ自分の村なので当然だろうが、私はと言うと少し緊張していた。今のところガラドエル以外のカザネは見えない。

 とすると、村を歩くうちに頭上の騒がしさに気づく。見れば風車の小屋の中から十人ほどのカザネがぞろぞろと姿を現してこちらを見下ろしている。

「誰?」

「外の人じゃない?」

「うっそ、でも外の人なんて一度も来たことないよ?」

「でも、僕らと全然違うよ?」

「聞いてみようよ」

 そうだね、と声が揃って頷いた。それから彼らは風車の小屋から飛び降りたのだ。かなりの高さ、身のこなしの軽い彼らでなければ心配しているところだ。ガラドエルが木から飛び降りたように、落下中に幾度か減速しながら降りてくる。便利な技だな。もし私もあれが使えれば行動範囲がうんと伸びるんだが、流石に習得は難しいだろう。

降りてきたカザネ達が私へ目掛けて一斉に集まってくる。誰も彼もがガラドエルとよく似ている。緑の長い髪、中性的で整った顔立ち、人間と違って顔の個性というのが薄く感じられる。ちょっとつり目のガラドエル、ほんのりたれ目のガラドエル……といった感じでほとんど判別は不可能だった。

「なんで村に来たの!?」

「どこから来たの!?」

「名前は!?」

「外から来たの!?」

「剣もってる!?」

「旅してるの!?」

 怒涛の質問攻めに面食らう。抱いていた想像と大きくかけ離れている。ガラドエルみたいな人達ばかりかと思っていた。まるで体の大きな子供のようだ。

「こら、一斉に聞いたらガディアンが困るでしょう。すみません、子供達にはやっぱり珍しいみたいで」

子供!

 ……ぁあ、そうか。たしか8歳くらいで見た目は大人になるんだったか。成人を10歳で迎えると言っていた。子供達なのか、これが……。まじまじと見ても体は大人にしか見えない。しいて言えば顔つきが幼いようにも見えるが、それでも人の子供と比べれば歴然と差がある。

「ガディアンはどこから来たの?」

 つり目のカザネがぐいと近寄って訪ねてくる。やけに近い。確かに子供らしい距離感だ。

「故郷は騎士王国だ」

「それってどこにあ――「ヒゲ触っていい?」

 一人の子が言い終える前に別の子が聞いてくる。「いい」と言わぬ間から顔をぺたぺた触ってくるのだ。まあ、別に構わないが。「僕も!」「私も!」とやたら髭を触られる。カザネは髭の生えない種族なのだろうか。


 なすがまま触られることしばらくの間、ガラドエルは申し訳なさそうな顔をしていた。私は気にしていないが、身内が客に群がっていれば気を使うのも納得か。

いやしかし、カザネというのは困った種族だ。人の子供が面白がって髭を触りに来るなら、別に何ということもない。好きなだけ触りたまえという心意気で向かうつもりだが、カザネの者は見た目が違う。大人で、しかも美人だ。いや、たぶん男の子も混じっているのだろうが、私の目からするとどの子もこの子も顔立ちのいい美人に見える。それがこうも無邪気に私の髭で遊ばれると、なんというか、少し気恥しい。照れるのだ。

「ほら、もうお終いだよ。ガディアンが疲れてしまうでしょう。」

 え? という不満の声がこだまする。この一面だけ見れば確かに子供達だ。

 助け船にほっとするようで、もう少し人気者の気分を味わっていたかったような複雑な感じだった。体の大きな子供たちに手を引かれながら村を案内してもらう。案内といってもすぐに見て回れるくらい村は小さい。観光都市でもないこの村には名物として作ったものもない。村に流れる小川のせせらぎ、緑の芝の丘はぽこぽこと膨らんでおり、丸い戸がはまっている。吹くのは緩やかな風、頬を撫でるだけの気持ちがいい塩梅だ。良いところだな、思わず昼寝したくなる。


 「着きました」

 とある家の前でガラドエルが足を止める。子供たちはまだまだ私に構って欲しそうだったが、ガラドエルが追い立てるように吹き飛ばしてしまった。比喩ではない。手を平手にし、それそこ団扇で扇ぐように一振りすると突風が生まれ、それによってカザネの子たちは空に高々と吹き飛ばされてしまったのだ。

 唖然とする私。

「さ、行きましょう」

 戸を開けて中に入るガラドエル。

 空に舞い上げられてはしゃぐ子供たち。

 もはやこの村に人の常識は通じないと見える。私も遅れながらガラドエルの後を付いて家の中にお邪魔した。


 中に入ってすぐに感じたのは、濃い草の香りだった。

 草を叩いてすり潰した時の、緑の凝縮した香り、薬師の店に行けばいくらでも嗅げるあの匂いが充満している。家の中の様子は外見と変わらず簡素なものだった。土が固められているだけの壁、天井、ところどころに窓を切ってあるので暗くはないが、大した飾りもないので殺風景だった。最低限の椅子、机、空きの多い本棚などがぽつぽつと配置されている。年がら年中旅暮らしのカザネなら物が少なくても不思議はない。

 ガラドエルに着いていくと草の匂いはより強くなっていく。部屋の奥で誰かしらがこの匂いの元を出しているのだろう。硬いもので何度も叩くような物音がしている。

 「アイウェンディル、久々だね」

 アイウェンディル。そう呼ばれたカザネは奥の部屋で草の束と格闘していた。

 どうやらこちらに背を向けたまま作業しているらしい。緑の髪があまりに長く、そしてその毛量の多さから背格好がまるで分からないのだ。アイウェンディルとやらはこっちを見もせず言う。

 「今年もあんたが一番のりだね。じゃ、はやいとこ手伝ってくれる?」

 「毎度のことだけどご苦労様」

 「本当にめんどくさい。もう手が痛いんだけど、代わってくんない?」

 ぞんざいな物言いにアイウェンディルとガラドエルの仲の良さが伝わってくる気がした。旧知の仲なのだろうか。

 「いいけど、その前にお客さんに挨拶したら?」

 「客?」

 そこでようやく動きを止めた。草を潰す木槌を手に持ったままアイウェンディルは振り返る。

 緑の髪に全身を覆われたカザネは、これまた随分な美人だった。顔はやはりガラドエルとよく似ている。強いて言うなら目が大きく、少し猫のような顔立ちをしているか。顔まぁ元より分かり切っていた、よく整った種族なのは既に知った情報だったが、まさか体の形まで知れるとは思わなかった。

 人の目には性別不詳のカザネ達だが、このアイウェンディルは女だ。見れば分かる。振り向いた彼女は一糸まとわぬ姿をしていたからだ。振り向く時の動作で見事な双丘が揺れる。これは流石に女だろう。

 気だるげに細められた目がみるみる開いていく。私と目が合う、ガラドエルを見る、もう一度私と目が合ってから、ペたり、彼女は床にしゃがみ込んだ。

 しゅるしゅると髪の毛が一人でに動き、蔓が巻き付くように彼女の体を包む。あれも風の技なのだろうか。

「あ、あの……。ええと……。どちら様でしょうか……。お、おお見苦しいところを大変失礼いたしました……」

 少し予想外の反応だった。手に持った木槌を投げつけられるかと思ったが、何ともしおらしい反応だ。あまり女性の裸をまじまじ見るものでもないので私は顔を背けて話す。

 「いや、こちらこそ失敬。ガラドエル殿に前もって伝えて頂き、私は外で待つべきでした。無作法を許して頂きたい」

 「いえ、そんな……。あたしが、だらしないだけで……その、お、お目汚しを……」

 眼福の間違いではなかろうか。直前まで抱いていた人物像は大きく裏切られた。まあ好ましい裏切られ方だ。

 「すみません、ガディアン。彼女は僕の幼馴染なんですが、昔から人見知りでして、カザネ相手には普通なんですが外の者が相手ですとこうなってしまうようで」

 緊張しいなのか。カザネは皆ガラドエルのように社交的でどこか超然としているのかと思っていた。アイウェンディルは伏し目がちにちらちらと様子を窺ってくる。村に外部の人間がくるのは相当に珍しいのだろうが、それにしても異様に気になっている風に見えた。気のせいだろうか、私は顔を逸らしたまま目の端だけの情報で判断しているのだ。

 「その、もし……ガディアンさん……」

 遠慮がちな声。はい、何かご用ですかな。

 「すっ、す、素敵なお髭ですねっ」

 ヒゲ?

 思わず見やる。一瞬だけ目が合って逃げるように逸らされた。

 「ヒゲ? 髭ですか? はあ、どうも」

 特に手入れもしていない普通の髭だと思う。一人旅の気ままな私はかしこまる必要というものが少なく、髭は伸ばし放題だ。そもそも城仕えの者でもなければ髭を整える習慣すらないのが一般的だろう。

 きょとん顔の私にガラドエルが説明をくれた。

 カザネは髭が生えないのだそうだ。それでさっき子供たちに珍しがられたわけか。聞けば、カザネ達は大抵の者が髭面に好意的らしい。よく分からない感性だ。私などはどちらかと言うと髭なんて生えない方がいい。食べこぼした物が髭につくし、髪と同じで濡れたなら乾かす必要があるくらい毛量も多く手間がかかる。ならば剃ればいいと言われても毎日顔を剃るのはこれまた非常に面倒だ。互いにないものねだりというわけか。

 「よ、よろしければ、後でその、少しだけ触らせていた、頂いてもよろしいでしょうか? す、少しだけですので……」

 よほど髭が好きなのか。人見知りする性質らしいアイウェンディルから接触の提案とは、幼馴染のガラドエルからしても珍しかったらしく、目を丸くしていた。

 「お安い御用で、後と言わずに今からでも好きなだけどうぞ」

 と、私が気楽に差し出すと、アイウェンディルはもう尋常ではなく目を輝かせていた。そんな生唾飲み込むほどのことではないのだが、目を爛々とさせながらおっかなびっくり近寄って来る彼女の姿は少し異様で、その真剣さに笑いそうにもなった。

 ……そういえば裸のままでいいのだろうか、さすがに気になり彼女の体のほうを見てみると、器用なことに長い髪が服のように体へと巻き付いていた。輪郭だけ見ればゆったりとした服を着ているようにも見える。所詮は髪なのでところどころから肌色が見えて官能的な様はありありだが、彼女がそれでいいのならいいだろう。紳士の私はドンと構えるのみだ。

 ……。

 …………。

 そうして私はいま髭を触らせているのだが、いやはや、何と言えばいいのか。子供たちの時はまだよかった、子供の遠慮ない手つきでぐしゃぐしゃ触ってもらえれば良かったのだが、このアイウェンディル一歩踏み出したはよかったものの、やはりどこか遠慮している節がある。それが髭の触り方にも大いに影響を与えている。手つきが、こう……ちょっといやらしいのだ。触るというか、これはもうほぼ撫でられている。飽きもせず何往復もさわさわさわさわ……、いかん、妙な気分になってくる。これほどの美女が熱心に私の顔を触ってくるのだ、多少よこしまな気持ちになったとしてもそれは許して頂きたい。


 長々と髭を堪能したアイウェンディルは見るからに満足顔をしていた。

 私はちょっと疲れた。もちろんおくびにも出さない。

 さて、遊びがあまりに過ぎた。

 祭りのこと、この家に案内された理由、その他諸々、聞きたいことは山とある。

 まずはアイウェンディルについて、彼女はカザネの中でも数少ない神事を任される人物なのだそうだ。

 カザネ達の間では風の巫女と呼ばれている。

 一般的なカザネと違い髪の色が明るく、ガラドエルの髪色が深碧なら、巫女と呼ばれる者は若葉色ほどの色合いをしている。生来から風を操る術に長けており、非常に微細な動かし方も可能。髪を操り体に巻き付けているのも風の微調整で行っているのだそうだ。巫女はその身に宿す力の大きさのせいか体温が高い傾向にあり、よほどの雪国でもない限りめったに厚着はしない。アイウェンディルも例にもれず暑がりで、だから村の中ではほとんど裸で過ごしているのだった。極めついて私を驚かせたのは、

 「神の声を聴ける!?」

 「だそうですよ。私も聞いたことはないので、どんな聞こえ方をするのかも見当つきませんが」

 さしものガラドエルも神の声だけは聞いたことがないのか。いやしかし驚いた。神の声を聴くなど、まるで神代の物語のようではないか! 古代と比べれば神秘が薄れたこの時代で、まだ神とそんなにも密接な関わりのある種族がいようとは……。

 しかしアイウェンディルは私の驚きようにあまりぴんと来ないらしい。

 「……す、すごいすごい、と皆が言ってくれるんですが、その……気が付けば聞こえていたので、あたしにとっては、あんまり実感なくて……」

 当の本人は案外そういうものなのだろうか。

 神の声……。

 いったいどのような声なのか。

 風の巫女が言うには、声というより音に近いらしい。物心つく前から聞こえていたそうだ。耳元で流れる不可思議な音、初めは聞きとることが出来なかったとアイウェンディルは懐かしそうな顔をする。幾たびも聞こえる意味不明な声に当惑した。周りのカザネに何か話かけられても神の声のせいでよく聞こえないことが多々あった。とある日、耳に張り付く音に規則性を見つけた。鋭く濁ったような突風の音の時、それは肯定を意味する。鋭く濁ったような突風の音、全くどんな音か想像もつかないが、アイウェンディルはどれだけ詳細に伝えようとしてもそう言い表すしかないと言う。およそ常人には感じ取れない領域の話なのか。

 とにかく一つ、神の声の意味が分かった途端、絡み合った糸がするりとほどけるように音が声に変ったのだった。鋭く濁ったような突風の音、暗くて厚くて短く鈍い風の音、深い風が半分だけ低く逆巻く音、それら全てに意味があり、唐突に神と話せるようになった。

 「……これっぽっちも理解できん」

 「大丈夫ですよガディアン、私もそうです。巫女本人にしか分からない感覚なんですよ」

 「アイウェンディル、今もすぐ神と話せるのか?」

 「は、はい。今も話しています。さっきからずっとガディアンさんのことについて話しています」

 「今も!? ずっと? そんな片手間に話せる気軽さなのか!?」

 「ええ……その、私たちが話すような感じではなくて、なんて言ったらいいんでしょうか……。とても自然なことなんです。えっと、例えば……まばたきを忘れたりは、しませんよね? そんな感じなんです」

 いやいやいやどんな感じなんだそれは。そりゃあまばたきを意識することなどそうそうないが、そんなに気安いのか、神というのは。

 「ちなみに、神様は私のことを何と言っているのかな?」

 「えと、外から来た者が祭りに参加するのは久々なので嬉しい、と言っていますね」

 ほっと胸を撫でおろす。心の広い神様で良かった。今更言うが、実のところ心配していたのだ。人の立ち入らぬ秘境の村、そこに住まう神秘の種族が私を受け入れ、祭りの見物を許して貰えるのか、本当はどきどきしていたのだ。神からの許しであればこれほどの太鼓判は他にない。


 許可を得たその後はカザネの生活様式や祭りの準備について色々なことを聞かせてもらった。

 アイウェンディルが叩いていた草の束は祭りの日のかがり火になるらしい。薪をくべるよりよっぽど持ちが良く、片付けるのも楽だと言う。随分便利で不思議な草だ。

 私と彼女とで延々と草を叩く。神事の準備に風の力を使ってはならないらしく、彼女の細腕には大変そうだ。そうなれば勿論わたしは張り切ってしまう。険しい旅路で鍛えられたこの腕、はち切れんばかりの力こぶを見よ! アイウェンディルの倍くらいの早さで草の束を叩きまくる。彼女は何度も何度もぺこぺこと頭を下げるのだが、なんのこれしき、貴重な体験が出来るのだ。

 二人で共同作業をしていたせいかアイウェンディルもかなり私に慣れてくれたようだ。顔のこわばりも取れて時折笑顔を返してくれる。彼女が笑うと思わず吸い込まれそうなほど素敵なのだ。……二人? いつの間にかガラドエルが消えている。さぼったのか、はたまた妙に気を回したのだろうか。まあ……。私と彼女ではつり合いもとれないので、そんなわけがないだろうが、私は旅好きの流れ者、多少は知識も体力もあるが、あくまでただの人だ。それに引き換えアイウェンディルは神の声を聴く風の巫女。そもそも人間とカザネ、種族も違うのだ。せいぜい一期一会としての今の時間を大切にすること。それで充分だ。

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