-33 準備
トロックは仲間たちを説得し、カイトとサモティと行動を共にすることになった。
道中はカイトとサモティを先頭にして、少し後ろをトロック達が続いた。移動のための陣形は何度も相談が行われたが、いざこざが起こさないためにカイトとサモティは他の者と距離を置くことに決まった。
カイトとサモティはいつも通り時々会話を交わしながら歩き、サモティが空腹になれば適当な動物を見つけて殺していた。何の調理もしていない動物に食いつくサモティを見て他の者たちは奇異の目を向けたが、カイトもサモティも気に留めなかった。
そんな旅路が数か月続いた頃、カイトが足を止めた。
それに気が付いたトロックが、一人でカイトに駆けよってくる。
「カイト、どうしたんだ? 人間の国まではあと数日は歩かないと――」
そこまで言って、トロックは言葉を止めた。それが理由を察したからなのか、恐怖を感じたからなのかは分からない。
トロックの目に映るカイトは、体が所々変色していた。過去に一度見たカイトが人間を殲滅した時の状態に変わりつつあることを、トロックはすぐに察する。
「道中で説明した通り、強いステータスにあてられると僕は力を抑えられなくなる。これ以上人間の国に近づいたら、多分理性が持たない」
「これだけ距離があるのにか?」
「僕もここまでだとは思っていなかった。そこで一つ提案がある。サモティを連れて人間の国の反対側まで行ってくれないか?」
「……いいのか? 俺たちが信用できないからカイトがサモティの傍についていたんだろう?」
「人間と戦闘をする以上、僕の近くにいた方が危ない。サモティはトロックの仲間の誰よりも強い。僕が理性を失った時に、真っ先に標的になるのはサモティだ。それに、サモティが死んだ時点で神様の復活が叶わない事は全員知っているだろう?」
「あぁ、それは全員に伝えている」
「今だけはお前らを信用することにする。だが、極力トロック以外の奴が近づかないようにしておいてくれ」
「分かった。それで、俺たちが目的地に着いたことはどうやって知らせればいいんだ? カイトが人間の持っている神器を手に入れた後、サモティと合流しないといけないのだろう?」
「理性を失うような状態になっているのなら、サモティの場所は探知できるはずだ。それでも、念のために人間の国に出来るだけ近づいておいて欲しい。それと、目的地についても合図を出さなくていい。そもそも、そんなことが出来る手段なんてないだろう?」
「なら、どうするんだ? 理性を失った後は高いステータスを持つ者を優先して襲うのだろう? もし、まだ俺たちが近くにいたら大変なことになるんじゃないか?」
「六十日後を開戦の日にする。だからそれまでに人間の国の反対側までに行ってもらう。もし途中で何か想定外の出来事が起こったとしても、僕には何もできない。こんな状態で力を使えば、いつ暴走するか分からないからな」
「そうか……。そうだな……」
不安そうな表情を浮かべるトロックとサモティに、カイトが小さく声を掛ける。
「もし不測の事態が起こった場合は、何を犠牲にしてでもサモティを逃がすことを優先しろ。仲間にどう伝えるかはトロックに任せる。繰り返しになるが、サモティが死ねば永遠に神様の復活は叶わない。サモティの命が最優先だ」
カイトとサモティは、トロック達に一つだけ嘘をついていた。それは、神器の保有者が死ねば、神器が永遠に失われてしまうというものだ。実際には神器の保有者が死んだ場合、世界のどこかに神器が出現する。
真実を隠したのは、今回でより確実に神の復活を実現するためだ。
「分かった。仲間には俺の方から上手い具合に伝えておく。サモティもそれでいいな? もしもの時は、俺たちのことなど気にせず逃げてくれ」
「分かった」
サモティが頷くのを躊躇うのをトロックは心のどこかで期待していたが、そんなことは全くなかった。あまり接点は無かったと言えど、この数か月はサモティと近い場所で過ごしてきた。多少なり仲間意識を持ってくれることを、自然と願っていたのだろう。
方針が決まったところで、カイトは気になっていたことをトロックに聞いてみることにした。
「トロック、神様が復活した後はどうするつもりなんだ?」
「人間の国に入って、同胞を宥めつつ人間との和解を図る。人間の国の中には、人間に対して強い恨みを持っている同胞が多くいるはずだからな」
トロックが自信満々にそう言い放った言葉に、サモティは疑問を持った。
「どうやって宥めるの?」
「まずは話をして、相手の気持ちを理解する。理解した上で、俺たちの理想を納得してもらえるように説明するんだ。今までそうやって俺は仲間を――」
「気持ちを理解するなんて出来ないでしょ?」
「そんなことは――」
「本当に相手が本心を全て話してくれるとは限らないでしょ? 本当に相手が理解してくれているとは限らないでしょ? 理解したつもりになって、理解されているつもりになっているだけじゃないの?」
「そうかもしれない。でも、時間を掛ければそれが本心かどうかぐらいわかるさ。大切なのは信頼だ」
「そっか」
サモティは、トロックの仲間から時々向けられる視線を思い出した。サモティも他人との付き合いが多いわけではないから、本当の所は分からない。ただ、トロックの言う信頼がとても薄っぺらいもののように感じた。
トロックが仲間へと説明に向かったタイミングで、カイトはサモティに耳打ちする。
「サモティ、あまり余計なことは言わない方が良い」
「余計な事?」
「あいつらの信頼関係は、神様の復活という同じ目的を持っていることだけを基軸にしたものだ。そこに疑問を持たせるようなことをしたら、何が起こるか分からない」
「カイトも皆がトロックに嘘をついていると思うの?」
「僕は数日前から、少しだけ神器の力を使えるようになった。薄っすらとだが、相手の感情も読み取れる。たまに僕たちの方に視線が飛んでくるだろう? そいつらが何を思っていると思う?」
「私やカイトの事を殺したいと思っていると思う」
「正解だ」
トロックが仲間への説明を終えると、カイトをその場に残してすぐに移動を始めた。
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