-23 多種族
カイト達は食事を終えると、そのままその場所で一泊した。そして翌朝、朝食を終えると同時に出発する。
「カイトさん。私たちの住処と、私たちを襲ってきた者たちの住処、どちらへ向かいますか?」
「ニミア達の住処の方に行こう。南東方向だと、ほとんど逆方向だ」
カイトの言葉に従い、一行はこれまでと同じ方向に進み始めた。腕の中の子供が眠りに付いた頃、ニミアはカイトに気になっていたことを聞いてみることにした。
「カイトさんは、なぜ神器を集めているのですか? 今は少なくとも人間にとっては幸せな時代でしょう? 言い方は悪いですが、カイトさんが他の種族を気に掛けるようには思えません」
「死ぬためだよ」
「……はい?」
「昨日見ただろう? 僕の体は矢に貫かれようと、炎で焼かれようと、すぐに元に戻る。一言で言ってしまえば、今の僕は不老不死なんだ。殺されても死なないし、どれだけの年月を積み重ねても姿は変わらない。普通の生き物みたいに何かの病気に掛かることも無い」
「不老不死ですか……。少し羨ましい気がしますけどね。私の知っているご老体は、口を揃えて子供や孫の成長を最後まで見守りたいと言っていますし」
「そのぐらいだったらいいかもしれないな。でも、僕はこの世界を一生眺めていられる程面白いとは思っていない」
それを聞いて、ニミアは頬をほころばせた。
「今の話、面白かったか?」
「いえ、ティルノア様も同じようなことを仰っていたのでつい。ティルノア様が何年生きているのかは知りませんが、そんな方と同じような事を言う人間がいるなんて驚きです。人間の寿命はせいぜい五、六十年、運が良くても九十年ほどでしょう?」
「僕の生前はそうだったらしいね。ステータスが変えられるようになってから、色々変わったと聞いている。少なくとも、僕は顔に皴のある人間を見たことが無い。僕が知っている人間は例外なく年若くて活気に満ち溢れ、他種族を見下すことに喜びを感じるような存在だ」
「話を聞く限り、今私の隣を歩いている方は例外みたいですね」
「そうだな。この世界からしてみれば失敗作だ」
「そうは思いませんけどね。私としては、あなたのような人間が増えてくれれば嬉しいのですが」
「どう考えても失敗作だ。この世界は終わらないように、同じところをぐるぐる廻るように出来ているんだ。僕みたいなのが増えたら、世界から大きな争いが無くなってしまう」
「それは良い事ではないのですか?」
「この世界の資源は限られている。が、生き物は確実に数を増やす。ある程度の規模の争いが定期的に起きないと、どこかのタイミングで崩壊する。それこそ、屍食族が繁栄し過ぎたみたいにね」
「私たちの種族は数を増やすべきではないと?」
「別に屍食族に限った話じゃない。何事もバランスが大事ってことだ。今は人間が少しやりすぎている気がするな、ステータスを上げ過ぎだ。自分でも力を抑えつけるようにしていないと耐えられなくなってきた」
「……何の話ですか?」
「何でもない。こっちの話だ」
一行は歩いたり休んだり、他の種族を返り討ちにしたりしながら進み続けた。それを続けて二か月ほどが経過した頃、獣道すら見えない山奥にある集落にようやく辿り着く。
それはとても質素な造りの集落だった。出入り口には形が整っていない木製のアーチがあり、集落を囲う木の策は通行を邪魔する程度の効果しか発揮しないだろう。
サモティと話していた子供たちは、それが見えた途端に駆け出した。ニミアは安堵のため息を一つ吐くと、カイトに集落が見えるように横にずれた。
「ここが私たちが生まれ育った集落です。ようこそ、はぐれ者の集落へ」
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