-22 質問

 生き残ったのは、カイトへ攻撃を仕掛けた数人だった。暫くは周囲を見て呆気に取られていたが、ハッと我に返ると同時に怒りの表情を浮かべてカイトへ攻撃を仕掛けた。全ての攻撃はカイトへ直撃し、血の代わりに噴き出した黒い水が彼らを汚した。



「力が……入らない……」



 もう立つことすら出来ない彼らに対し、カイトは問いかける。



「お前ら、不思議な鏡の話を聞いたことはあるか?」


「はぁ? 何を訳の分からない事を――」



 カイトはそう答えた者の脛を軽くチョップした。バキンッという音を立て、つま先が膝を勢いよく蹴る。悶絶していることなど気に留めず、カイトは同じ質問をもう一度繰り返した。あまりの痛みに涙を浮かべている魔族の男は、先ほどとは違う回答を弱弱しく答える。



「それに答えたら助けてくれるのか?」


「いいよ。約束する」


「すまないが、そんな話は聞いたことが無い……」


「そうか。じゃあもう一つ。お前らの住処はどこにある?」


「ま、待ってくれ! 俺たちの仲間には手を出さないでくれ!」


「さっきお前にしたのと同じ質問をするだけだ。別にこっちから何か仕掛けようって訳じゃない。まぁ、襲い掛かって来たら話は変わるが。で、住処はどっちにあるんだ?」


「俺が代わりに聞いてくる! それでいいだろう⁉」


「ダメだ。信用できない」


「頼む、謝るから――」



 カイトは魔族の男の隣に倒れこんでいる巨人族の人差し指を、握力だけで握りつぶした。野太い悲鳴が辺りへ響き渡る。



「これで最後だ。住処はどこにある?」


「……ここから南東に山を下った先だ。これでいいだろう? 頼む、俺たちを助けてくれ!」


「断る」


「……は? だって、さっき俺たちの事を助けるって――」


「嘘に決まっているだろう? 生をぶら下げておかないと、お前らは本当のことを話さないだろう? それと、あいつらの食料も確保しないといけないんだ。さっきの魔法で殺した奴らは、食料には出来ないからな」



 そう言って、カイトは後ろにいる六人の屍食族の方を指さした。



「僕には分からないけれど、自分たちと違う生き物を殺すのは楽しい事なんだろう? さっき僕を殺した時、あんなに嬉しそうに笑ってたし。だから、お前たちには殺す側の気持ちが分かるはずだ。今更文句なんてないだろう?」


「ふざけるなっ! 人間や屍食族のようなやつらの気持ちなんて知るかっ!」


「……そうだった、悪かったよ。だからこんなことになっているんだった。やけに物分かりの言い屍食族のせいで感覚が狂ってるな」



 カイトは魔族の男から直剣を取り上げると、そのまま馬乗りになった。柄を両手で握り、刃の切っ先を首のちょうど真ん中へと突き立てる。もう体を動かす力もないのか、魔族の男は抵抗しない。



「お前らみたいなのがいるせいで、こんな争いがおこるんだ……。お前らさえいなければ――」


「例え五大種族以外の種族と人間が滅んだところで、争いは無くならない。知ってるか? お前らが神話と呼ぶ程遠い昔は、種族は人間だけだった。それでも、今と同じことは起こっていたんだ」


「何の話を――」


「もしあの世に行くことが出来たら、そこで先人にでも聞いてくれ」



 そう言うと、カイトは思い切り剣を突き立てた。魔族の男は一度だけ体をピクリと動かすと、そのまま動かなくなった。残りの数人にもカイトは同じ処置を施すと、ニミア達の方へ振り返る。



「食事にしよう。僕は適当な死体から服を取ってくる」



 そう言ってスタスタと歩いていくカイトの後姿を、サモティ以外の屍食族は驚きの表情で眺めていた。カイトに言われるがまま、用意してくれた食事に向かって歩いていくサモティにニミアが声を掛ける。



「サモティ、あの人は何なのですか? ステータスを多少上げただけであんなことにはならないはずです! 殺しても死なないなんて、まるでこの世の生き物とは思えません。それこそ、まるで神とさえ呼べてしまえるような――」



 ニミアの問いかけに、サモティは笑顔で答える。



「多分、今はそれで合ってるんじゃないかな」



 混乱するニミア達を気に留めることなく、サモティは食事を開始した。

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