-21 道中
道中は道案内役のニミアを先頭に進んでいった。カイトは子供を抱くニミアの横を歩き、そのすぐ後ろではサモティが同い年ぐらいの三人と話しながら歩いている。
神器の話をしたものの、ニミアは何も知らなかった。しかし、集落に行けばそれを知る者がいるかもしれないとのことだった。
「私たちが生まれ育った集落には、五大種族はほとんどいません。両親の望んだ姿で生まれる事の出来なかった者たちで作った集落なので、自然とその子供たちも異形の姿となったのです。きっと、カイトさんが見たら驚くと思いますよ」
「へぇ」
「興味無さそうですね」
「そうだな。正直、今は神器以外のものに興味を持てる気がしない」
「それにしても、神の世界が崩壊してからたった二十年もたっていないのに神器の存在が明るみになっているなんて驚きです。私の聞いていた言い伝えでは、前回は神の世界が再建されるまで五百年以上掛かったとのことでしたが……」
「なぜ前回の話を知っているんだ?」
「聞いたんですよ、実際にその場に居合わせた人に。私たちの集落には、ハイエルフと呼ばれる種族の者が一人います。元より長寿なエルフよりもさらに長寿な種族みたいですよ。ふふ、少しは興味が湧いてきましたか?」
ニミアの話を聞いて、カイトは神に見せてもらった記憶を思い出す。前回の神の世界が再建される際、神器の一つを持っていたエルフの少女の名前は――。
「ティルノアだったか……?」
「あの……。なぜ私たちの集落に住まうハイエルフの名前があなたの口から出てくるのですか?」
「もし集落に行って神器を見つけるきっかけがあれば、全て話してもいい」
「信用されていませんね」
「一日や二日で他人を信頼できるような奴の方が珍しいだろ」
「それもそうですね」
「そういえば、なぜニミア達はあんなところに?」
「食料の採集に向かっていたんです。まぁ、私たちはこの面子なので本当に散歩ついでに野草を取る程度ですが」
「屍食族って野草でも食べられるのか?」
「食べませんよ。食べることは出来ますが、食べても消化できません。私達が食べるものではなく、同じ集落に住まう仲間たちが食べるものを探していたのです。そこで運悪く大きな崖崩れが起きてしまったのです。そのまま山肌を流されて、気が付いた時には一緒に集落を出た者の半分以上が死んでいました。嫌がる子もいましたが、私たちは仲間の死肉を喰らって生き延びたのです」
「で、その帰り道で屍食族を忌み嫌う者たちに捕まったという事か」
「精神的に参っていて、情けないことに不覚を取られてしまったのです」
「別に精神的に疲弊していたことが原因じゃないんじゃないか。ニミア、お前そんなに強くないだろ?」
「いきなり現実を突き付けてきますね……。私、何か気に障るようなこと言いました?」
「囲まれた」
焦りの表情を浮かべたニミアが辺りを見渡したが、その姿は見えない。が、飛来する数本の矢と魔法の光は見えた。それらは全てカイトに向かっていて、一つ残らずカイトに直撃した。
「カイトさんっ!」
ニミアの目の前で、体を数本の矢が貫通したカイトの体が魔法の炎に焼かれながら地面に伏した。ニミアが子供たちを抱き寄せたのとほぼ同じタイミングで、周囲から武装した人間以外の五大種族が姿を現す。
「サモティ、ごめんなさい! カイトさんが――」
「カイトなら大丈夫だよ」
「え?」
ニミアが驚いてサモティの顔を見ると、そこには仲間の死など無かったかのような笑みが浮かんでいた。
そんな会話の聞こえていない襲撃者のリーダーは、声を荒げる。
「後は屍食族だけだ! 絶対に傷をつけるな! 捕縛しろ!」
全員が一斉に動き始めて、全員が一斉に動くのを止めた。全身を矢で貫かれ、炎で身を焼いていた人間が立ち上がったからだ。全員の視線が集まる中、カイトは自分で体の矢を引き抜いて焦げ付いた服の土を払い落とす。
「……二十三人か。しかも離れてる奴もいるな。ちょっと乱暴だけど――」
カイトが手のひらを天に向けると同時に、上空に真黒な魔法陣が現れる。近接武器を持った者の内四分の三が距離を取り、四分の一がカイトへ魔法を発動させまいと攻撃を試みた。その攻撃は確かに届いた。しかし、体のどこを貫いたり切ったりしても、傷は一瞬で回復して体はその形のままその場に留まる。
「『神魔法:浄化の雨』」
カイト達の周囲に、黒い雨が降り注いだ。それは触れたものの命を軽々と奪っていき、カイトを中心とした半径数メートルよりも外にあった命は一瞬で燃え尽きた。
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