-20 同類

 サモティは体を起こすと、首をぐるりと回して顔をしかめた。斜めになっている木の幹を枕にしたため、寝違えていた。



「おはよう」


「おはよう、カイト。ごめん、少し寝すぎちゃった……」


「別にいいよ。多分、昨日負った傷のせいだろうし」



 太陽は既に一番高いところに達していた。木々の隙間から差し込んでくる光に心地よさはなく、辺りには熱気がこもっている。

 サモティは昨日の残りを食べきると、立ち上がった。カイトは寝食を必要としないため、サモティがその場に留まっている間はずっと周囲を警戒していた。



「カイト、もう大丈夫だよ! 神器を探しに行こう」


「その前にちょっとだけ。サモティ、何か起こるかもしれないから身構えておいて」


「え? う、うん」



 カイトはサモティを傍に置くと、手を突き出すと真黒な魔法陣を作り出した。と、同時にその先から数人が転げ落ちてくる。カイトは魔法陣をすぐに放てる状態にしたまま声を掛けた。



「誰?」


「ま、待ってください! 決してあなたたちに何かをしようと言う訳では……。ただ、少しだけおすそ分けをして頂きたくて……」



 その特徴的な瞳の色から、カイトとサモティはすぐにその正体を察することが出来た。



「……屍食族?」


「そうです! 数日前、あなた方に返り討ちにあった集落で軟禁されていた者です」


「軟禁? 処刑されなかったのか?」


「私たちはここより北方にある集落からはぐれた者です。屍食族はすぐに殺さなければならないと言うのが通説です。そんな存在が、複数人で他種族に発見されてしまったのです。そこで私たちの取られた処置が――」



 カイトは、説明をする屍食族の女性の手首と足首を見て回答を先回りする。



「生まれ育った場所を話させるために拷問されていたと?」


「その通りです」


「屍食族は傷を受けると強い力を発揮するんだろう? 他種族に拷問なんて真似出来るのか?」


「確かに体は他種族には負けないほどに強く、食料さえあれば再生することだって出来ます。しかし、心は他種族と何ら変わらないのです。目の前で仲間が痛めつけられれば怒りを感じますし、仲間の死を悲しむことだってあります」


「なるほどな。つまりは、あなたの代わりに腕に抱いている子供が拷問を受けていたということか」


「そうです。この子は私がお腹を痛めて産んだ子です。それをあいつらは目の前で――」



 屍食族の女性は、怒りの表情を浮かべながら腕の中のまだ言葉も話せない我が子を強く抱きしめる。

 カイトは目の前にいる屍食族の人数を数えると同時に、展開していた魔法陣を消した。先頭に立っている女性の屍食族とその子供、そして後ろにサモティとさほど年齢が変わらない屍食族が三人ほど。



「事情は分かった。要は、今のメンバーだとまともに食事も探せないから死体を分けてくれ。と言う事か」


「その通りです」



 それぐらいなら別にいいか。

 カイトはそれを伝えようとして、一度言葉を飲み込んだ。その場の全員の視線が集まる中、カイトは少し間を開けてから答えを口にする。



「ここに転がっている死体は全部やってもいいし、何なら俺たちについてきてもいい。サモティもいるし、どのみち食料は探しながらの旅なんだ」


「ありがとうございます! では――」


「ただし、三つ条件を付けさせてもらう」



 カイトが出した条件は『カイトの質問に嘘偽りなく答える事』と『集落に道案内する事』、『道中はサモティの命を最優先に行動する事』だった。屍食族の女性は特に迷うこともなく、その条件を受け入れた。

 カイトとサモティは、彼女たちが食事を終えるのを待ってから出発することにした。



「随分と決断が早かったな。なぜ僕をすぐに信頼したんだ?」


「あら、ご存じないのですか? 人間も含めた五大種族は屍食族を見た瞬間に逃げ出すか、殺しに掛かるかの行動しかとらないのですよ。あなたは私たちを見て殺そうとしませんでしたし、どういった事情かは知りませんけれど屍食族を連れている。厄介者扱いを受けてきた身としては、それは信頼するのに十分な理由です。――あぁ、そうだ。自己紹介がまだでしたね。私の名前はニミア。見ての通り屍食族です」


「僕の名前はカイト。一応人間だ。こっちは屍食族の――」


「サモティです」


「ふふっ、外に出て同族に会うのは初めてだわ。よろしくね、二人とも」



 こうして一行は人数を増やし、北方にあると言う集落へと歩みを進める。

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