-24 解決策

「約束通りここへ連れてきましたが、目的は私たちの長でしょう? せっかくですし、案内しますよ」



 ニミアにそう言われ、カイトとサモティは後に続いた。

 集落に入ると同時に部外者の二人は一斉に視線を浴び、カイトとサモティはそれを気に留めずに辺りに視線を飛ばしていた。四本足の獣に近い姿をした者、鳥のような足と翼を持つ者、全身をくすんだ色の鱗で覆っている者など、屍食族を除けば二人が見たことのない種族しかいなかった。



「あまり警戒されていないな」


「それはそうですよ。ここにいる者たちの大半は、自分たちが五大種族から蔑ろにされているのを口伝でしか知らないからでしょうね。それに、もしそれを知っている者がいたとしても、屍食族を連れている人間など警戒心よりも好奇心の方が勝ります」


「そういえば、会った時にそんな話をしていたな。それにしても、簡素な造りの家ばかりだな。強めの雨風が吹こうものなら跡形も無くなりそうだ」


「天候が悪い日はティルノア様が魔法で守ってくださいますから、その心配はありません。それと、質素な造りなのは定期的に住処を変えているからです。他の種族にここの存在を知られるわけにはいきませんから」



 カイトの言葉通り、簡素な造りの家ばかりで見た目だけではどれが長の居場所は分からなかった。かなりの人数がいるのか同じような造りの家が広範囲に設置されており、目的地に着くまで五分ほど歩く必要があった。



「ここです。私が先に入って事情を説明するので、少し待っていてください」



 そう言うと、ニミアは一人で出入り口に設置された布を捲って中へと入っていった。もちろん、カイトとサモティの目の前にある住居は周囲に並んでいるものと大差はなかった。周囲を見渡してみても、目印になりそうなものは何もない。何も知らない者であれば迷子になりそうなほどに、周囲に同じような建築物が並んでいる。



「カイト」



 サモティに名前を呼ばれて、カイトはサモティの視線の先を見た。少し離れたところで円を描くようにしてカイトとサモティを取り囲んでいる一団の中から、四足歩行の生き物がこちらへと歩いてくる。馬のような下半身と人間のような上半身を持ったその生き物は、巨人族と同じぐらいの大きさだった。背中部分は大きく焼き爛れていて、左目は瞼の上に大きな切り傷が乗っている。



「なぜ人間がここにいる?」


「人間はここにいちゃいけないのか?」



 かなりの怒気が籠った言葉に、カイトは普段通りの調子で聞き返した。それが癪に障ったのか、カイトに話しかけた男はより一層声を荒げた。



「そういうことではないっ!」


「……僕の見立てだと、何か人間に恨みでもありそうだな。その体の傷も人間に受けたものか?」


「そうさっ! 私はな、人間の国のコロシアムと呼ばれる場所で働かされていた! 名前も知らん奴と交尾させられ、顔も知らん奴を何人も殺させられた! 挙句の果てにはもう要らないと言われ、国の外に追放され、逃げる時には人間の魔法の練習台にさせられた! お前らはこんな事をしても、されているのを見ても、助けようという気概など一切湧かないのだろう?」


「湧く訳ないだろ、顔も名前も素性も知らないんだぞ。逆に聞くが、お前の同胞が人間を甚振っているのを見て助けようと思うのか?」


「思う訳ないだろ! だってお前ら人間は――」


「そうだな、僕でも思わない。集団で生活するのなら、多数派に準じた方が楽に決まっている。例え他人が理解できずとも、多くの者がそう言うのであれば僕ならそれに従う。でも、だからこそ集団が方向を変えるのは難しい」


「……何が言いたい?」


「僕たちは言葉以外の解決手段を暴力しか知らない。言葉で解決できないと思っているのなら、さっさと暴力を使えばいい」



 カイトのそんな言葉を聞いて、男は不気味な笑みを浮かべる。



「くっくっく、いい度胸だな。私は人間によって作り出された強化個体だ。一対多ならまだしも、一対一なら人間相手にも引けを取らない。お前、年齢的に成人化しかしていないのだろう?」


「そうだな」



 男はより一層口角を吊り上げ、手に持っていた木製の棍棒を振り上げた。それと同時に、カイトの右腕が黒く染まる。

 棍棒が振り下ろされ、カイトの目前に迫ったその時だった。



「やめんかっ!」



 まるで子供のような声が辺りへ響き渡った。カイトがそちらを向くと、エルフと同じ見た目の少女が立っていた。その隣にはニミアが立っている。カイトは神に見せてもらった記憶を思い出し、目の前のエルフがハイエルフなのだと確信する。

 舌打ちをしながら振り上げた腕を下ろした男の右腕を、サモティは思い切り左足で蹴った。ゴキンという音を響かせながら腕の関節を一つ増やし、男は横向きに倒れ込む。

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