-18 悲哀
目前に並ぶ数十基の墓を前に、トロックは地面に座り込んで顔を手で覆っていた。昔とちっとも変っていない、状況をかえる事の出来ない自分への失望が気分を下へ下へと押し込んでいく。
「トロックさん、大丈夫ですか?」
「君は……」
「ミリィと言います」
トロックが顔を上げると、そこにはエルフの少女が立っていた。涙を流しながら魔法で鎮火をしようとしていた姿は、トロックの脳裏に焼き付いたままだ。
トロックは力ない笑みを浮かべて、少女に問いかける。
「俺に何か用かい?」
「その……。これから、どうするおつもりですか?」
質問に質問で返されて、トロックは言葉に詰まった。この争いの絶えない世界を是正しようとしてここまで来たものの、その結果がこの有り様だ。しかし、だからと言って諦めるという選択肢をトロックは思いつかなかった。今考えるべきはなぜ上手くいかなかったのか、だ。
ふと、トロックはここにあった集落で両手足に枷を付けた人間への暴力を止めようとした時のことを思い出した。トロックとしてはエルフの少年だけに声を掛けたつもりだったが、結果としては集落に住まう者全員から冷たい視線を向けられた。
そんなあまり思い出したくない思い出は、屍食族の少女の言葉を想起させた。
『多数決で決まったことは変えられないし、たった一人の意見なんて意味が無い』
集団で生活する場合、多数決によって定められたものは揺らぎにくいし、逆に同じ多数決を用いれば定められたものを変えることだって出来るだろう。
そう考えて、トロックは一つの結論に辿り着く。
「そうか……。俺一人で動いても意味が無いのか……」
独り言のようにつぶやいたその言葉は、ミリィが聞き取れない程に小さかった。ミリィは首を傾げながら言葉を催促する。
「すみません。今、なんと言いました?」
「あぁ、いや。独り言だ、気にしないでくれ」
そう言ったトロックの瞳は、先ほどまでとは打って変わって希望とやる気に満ち溢れていた。
「これからどうするのか、だったな。俺は同胞を探しながら旅をしようと思う」
「同胞というと、他の巨人族ですか?」
「いいや、そう言う意味じゃない。俺と同じように、種族間の争いが無くなることを望む者を探すんだ。出来るだけ沢山集めて、神が復活する時に全ての種族が平等で自由に暮らせるようなルールを設立する」
ミリィは少しの間俯いてから、再び顔を上げた。
「……もしかして、神の復活が叶った後、あの二人にも手伝ってもらうおつもりですか?」
「あぁ、勿論だ。寧ろ、カイトとサモティが一番大事だ。神が復活した時には人間と屍食族でありながら、人間以外の五大種族からしてみれば救世主ということになる。二人には一番大事な種族間の橋渡しをしてもらいたい」
「そう……ですか……」
ミリィは脳裏によぎった景色に口角が上がりそうになる。しかし、笑うのはその景色が現実になった時だと自分に言い聞かせ、どうにか抑えた。
ミリィは出来るだけ不自然にならないように、心の中を反映させることなく表情を作る。
「では、私をその同胞の一人目にしてもらえないでしょうか?」
願っても無い申し出をありがたく受けようとした丁度その時、額に脂汗を浮かべた数名が転がり落ちるように山の上から降りてきた。
「人間が来た! 早く逃げないと殺されるぞ!」
全員の顔が一瞬で青ざめると同時に、人間がいるのとは逆方向に走り出した。ミリィはトロックと共に最後尾を走りながら、話しかける。
「トロックさん、絶対に実現させましょうね」
「あぁ、こんなところで諦めたりしないさ!」
直後、先ほどまでいた場所を魔法の弾が直撃し、その衝撃でいくつかの死体が地中から空中へと放り出された。
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