-10 道案内

 それからもカイトは集落の中を適当にぶらついた。直接話を聞くことはしなかったが、聞き耳を立てていた。しかし、どこもかしこも人間への感情を吐き出しているばかりで有用な情報は何もなかった。

 カイトは一つため息を吐いた。



『ここには無さそうですね』


『……楽しそうですね』


『それはもう。他者と会話できる機会なんてそうそうないので、あなたが神器を長く探してくれると私はとても嬉しいです』


『残念なことに、神様の望み通りになりそうです。一体後どれだけの時間を掛けて神器探しをしないといけないのやら……』



 案外一年もしない内に見つかるかもしれないし、ひょっとすると数百年かかるかもしれない。そんな先の見えない未来に肩を落としつつ、その集落から出た時だった。



「あんた、人間だろう?」



 そう声を掛けられて、カイトは振り向いた。そこには縄で木に括りつけられた巨人族の男が、大して苦しそうな様子もなく突っ立っていた。



「何を根拠に?」


「巨人族ってのは、他の種族と比べるとかなり原始的な生活をしている。俺たちはエルフや魔族のように魔法は使えないし、ドワーフ族のような知識もないからな。だから多種族よりも五感が鋭い。例えば嗅覚とかな」


「そうか。で、仮に僕が人間だったとして、どうするつもりなんだ?」


「あれだけの傷を負って回復できるほどのステータスだ。あんたは他の奴とは違って、人間の王が何らかの目的を持って送り込まれたんだろう? 例えば、和平とか――」


「違う」



 自信満々に語った巨人族の男は、暫くの間口が開いたまま固まった。



「……ではなぜお前はここにいる?」


「死ぬためだ」


「は……?」


「あまり気にしなくていい、お前には関係のない話だ。何はともあれ、正体がバレたのなら殺しとかないとな」



 カイトの手首から先がゆっくりと黒く染まった。

 それと同時に、異質な圧力を感じた巨人族は力づくで縄を引きちぎった。やろうと思えばすぐにでも逃げられたのに、むやみな戦闘をしないために大人しくしていたのだろう。



「巨人族には特に気を付けないとな。変に探られると面倒なことになりそうだ」


「心配するな。我らは体が大きく、隠れることが苦手だ。故に同胞は既に九割以上人間に殺されている」


「へぇ、それは良かった」



 臨戦態勢の巨人族の男に向かって一歩踏み出す前に、カイトは一つ質問をする。



「人間が神を倒した日、何かが空から降ってきた話を聞いたことは無いか? 例えば変な色の勾玉とか、鏡みたいな何かとか」


「……答えれば生かしてくれるのか?」


「場合による」



 巨人族の男は、少し間を開けてから答えた。



「勾玉なら落ちてきたことを知っているし、それが今ある場所も大体予想は付く。命を助けてくれるなら案内してやってもいい。ここからあまり離れていないところだ」


「……本当か? 調べた上でここらには無いと結論付けたんだが」


「ならそれを確認してから俺を殺せばいいだろう?」


「……分かった。一先ずは信じることにする」



 カイトの手の色が元に戻ったのを見て、巨人族の男は胸をなでおろした。



「それは良かった。では案内しよう」



 そうして、二人は歩き出した。



「なぜ人間の質問に答えた?」


「なんだ、答えてもらわなかった方が都合が良かったのか?」


「そんなことはないが……。ただ、お前が自分の命よりも他人を優先しそうな奴に見えたから疑問に思っただけだ」


「あまり悪意を感じなかったからだ。人間なら力があるのだから半殺しにしてから質問すればいいし、今までそうしてきたのだろう? こう見えても、他人の良し悪しを見抜くのは得意なんだ」


「そうか。ちなみに、人間を殺すのは悪だと思うか?」


「殺意を持って接してきたのであれば悪ではない。ただ、敵対する意思もない人間を殺すのは悪だ」


「その理論で言えば、僕は悪になる」


「……は? ――まぁ、今は置いておこう。もし、その勾玉とやらが見つかって生き延びることが出来たら、その話を聞かせてもらいたいものだ。お前、名前は?」


「カイトだ。あんたは?」


「トロックだ」



 そうして二人は森の中を歩き、辿り着いたのは――。

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