+09 才能

「シャリィ、あなたの主人凄いわね……。あんな事ができるの、能力値が上げられた人間の中にも早々いないわよ。私の記憶が正しければ、魔法が得意なエルフの中でもあれが出来るのは希少種よ」



 そう言われて、シャリィは嬉しそうに頬を緩める。



「ふふっ。あれ、私が教えたんですよ。私はこの国で生まれたので知りませんでしたけれど、ミーアがそう言うのであればきっと凄い才能なのでしょうね」



 その言葉に、隣で聞いていたガユムは目を丸くする。



「……おい、ミーア。お前、もしかしてあの位の魔法は使えるのか?」


「はい。大した威力は出ませんけど。多分、才能で言えばご主人様の方が凄いと思いますよ。私の教えようとしたことは全て見ただけで出来ていたので。あまり興味がない様子でしたので、真剣さは皆無でしたけれどね」



 直後、一つ大きな爆発音が響き渡る。

 そちらに視線を向けると、どうやら音の出所はカイトとジャスがいたところのようだった。



「ジャス様、大丈夫でしょ――」



 シャリィはそこまで言って、ガユムの表情が視界に入ったのでやめた。ガユムの浮かべている表情はとても楽しそうで、シャリィの目にはとても不気味に映った。それはまるで、コロシアムを楽しんでいる人間のようだ。



「ふふっ、ざまぁないわね。自分の主人ではなくても、人間が苦しんでいる姿を見るとスッとするわ」


「全くだ。あのまま死ねばいいのに……」



 笑顔と共に交わされる物騒な言葉に、シャリィは少し委縮した。

 シャリィは、少し前――カイトと共に人間が学習するための施設に通うようになってから薄々感づいていた。カイトは自分が周囲の人間とは違うと、周囲の人間と同じことを同じように楽しめないと言っていた。そんな主人の影響なのか、元来シャリィがそういった性格なのかは分からない。ただ、シャリィもカイトと同じように、周りにいる同じ立場の者と同じことを同じように楽しめなかった。



「あら、シャリィ? 大丈夫?」


「……はい、大丈夫です」


「すまんな、私の主人が。あれではシャリィの主人も無事では済まないだろう」


「シャリィ、また人間の心配してるの? 前も言ったけど、人間は――」


「いえ、別に心配しているわけではありません」



 想定外の言葉に、ミーアとガユムは視線を合わせて首を傾げる。



「ご主人様は大抵の魔法は詠唱も魔法陣も省略できます。あの程度の爆発、それもある程度結果が予測できる状況で身を守れないはずがありません」



 シャリィの言葉通り、ボンが土埃に飛び込んだ少し後にカイトはいくつもの視線が集まっている中から何事も無かったかのように一人で歩いて出てきた。そのまま少し離れた所まで歩くと両足を放り出して座り込み、空を見上げて動かなくなった。

 土埃の中に教師役の人間が治療のために入っていくのとほぼ同時に、今日の授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。ほとんどの人間が土埃の方を心配そうに見つめてその場にとどまる中、カイトは一人で付き人達が詰め込まれている場所へと歩いてきた。



「シャリィ、帰るぞ」


「はい、ご主人様」



 三人の会話が聞こえていた他の付き人が、鼻息荒くミーアとガユムに話しかける。



「おい、あのシャリィとか言う付き人もこっちに引き込めないのか?」


「ここから逃げ出すには少しでも戦力がいた方が良いだろ」


「さっきの話が本当なら、相当な戦力になるはずだぞ」



 そんな彼ら彼女らに、ミーアとガユムは首を横に振る。



「話を聞いていたなら分かるでしょう? あの子は頭がおかしいの。現状に何の不満も持っていない。というか、寧ろ自分の主人を好意的に見ているわ」


「密告でもされてみろ。我々は簡単には死なせてもらえんだろうさ。それに、付き人の反逆など起ころうものならその主人にも矛先は向く。シャリィにそのリスクを背負う度胸は絶対にないし、それをリスクだと思える者を誘うリスクは背負いたくない」



 ガユムの言葉に、反論をする者はいなかった。

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